アカデミー賞有力作品の評価ポイントはここ! ブラピ初受賞の可能性にも注目集まる

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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

1月13日に第92回アカデミー賞のノミネートが発表された。最多11部門候補が『ジョーカー』、次ぐ10部門候補が3作と近年まれに見る混戦模様だ。有力候補作の評価ポイントとノミネートの傾向を解説しよう。

#oscarstillwhite(オスカーはまだ真っ白)のタグも登場! アカデミー賞ノミネート詳細

作品賞のノミネート本数は昨年より1本増えて9本。最多11部門候補が『ジョーカー』。孤独な主人公がすさんだ社会の荒波の中で怒りを募らせジョーカーへと変貌していく過程が丁寧に描かれ、共感できる物語として高く評価されている。

昨年『ブラックパンサー』がアメコミ原作映画として初めて作品賞候補となった。振り返れば、09年のアカデミー賞で『ダークナイト』が作品賞候補から外れたことで「アカデミー賞は保守的」と映画界内外から非難を浴び、作品賞候補作が増えるきっかけとなった。くしくも同じキャラクターが登場する『ジョーカー』がアメコミ原作映画として2度目の作品賞候補となった。

次ぐ10部門は3作。『アイリッシュマン』はマーティン・スコセッシ監督がロバート・デニーロと22年ぶり9回目のコンビを組み、第2次世界大戦後から1970年代までのアメリカ裏社会を描く。スコセッシ監督お得意のギャング映画で、男たちの暴力と哀愁を織り交ぜた壮大な物語が高く評価されている。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』はクエンティン・タランティーノ監督が映画愛をたっぷり込めて1969年のハリウッドを描く。ハリウッドの古き良き時代への郷愁感にあふれ、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピット演じる主人公2人に落ちぶれていく者たちの悲哀を込めている点が評価されている。

『1917 命をかけた伝令』はサム・メンデス監督が第一次世界大戦下の1917年を舞台に、イギリス人兵士2人が翌朝までに最前線の部隊に作戦中止の伝令を届けることになり、命を懸けて戦場を駆け抜ける姿を描く。全編ワンカット映像で戦場をリアルに活写。俳優部門のノミネートはないが、監督賞をはじめ脚本、撮影、美術、音響、特殊効果など製作・技術部門で候補となった。アカデミー賞の前哨戦といわれるゴールデン・グローブ賞でドラマ部門の作品賞、監督賞に輝いている。

過去10年間の作品賞受賞を見ると、最多ノミネート作品が4回、それに次ぐ作品が3回受賞している。その傾向から見ると上記4作が作品賞の最有力といえ、賞レースは混戦模様だ。

昨年は、動画配信大手ネットフリックス製作の『ROMA/ローマ』が作品賞候補となり、監督賞などを受賞して旋風を巻き起こした。今年、同社は『アイリッシュマン』『マリッジ・ストーリー』の2本が作品賞候補となり、アカデミー賞での存在感をさらに高めた。

昨年のノミネートにはハリウッドの多様性重視を反映した結果が随所に見られ、メキシコ映画『ローマ』が最多10部門で候補になり、『ブラックパンサー』『ブラック・クランズマン』と「ブラックムービー」2本が作品賞候補となった。今年は多様性が薄れ、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が作品賞など6部門で候補になり、俳優部門では唯一、黒人女優シンシア・エリボが『ハリエット』で主演女優賞候補となった。

部門別で熱い戦いになりそうなのが監督賞部門だ。ゴールデン・グローブ賞で監督賞を受賞したのはサム・メンデス監督、ショウビズ受賞予測サイト「Goldderby.com」で専門家32人のうち、マーティン・スコセッシ監督を11人、クエンティン・タランティーノ監督を9人、ポン・ジュノ監督を7人が受賞すると予測している(1月13日時点)。

俳優部門での注目は、ブラッド・ピットの初受賞なるか。これまで主演男優賞に2回、助演男優賞に2回ノミネートされているが、受賞はまだない。ゴールデングローブ賞で助演男優賞を受賞した勢いで初受賞の可能性は十分ある。またスカーレット・ヨハンソンが『マリッジ・ストーリー』で主演女優賞候補、『ジョジョ・ラビット』で助演女優賞候補とWノミネートされる快挙をなし遂げた。

なお、アカデミー賞授賞式の司会者は昨年に引き続き不在。昨年同様、多くのスターが舞台に上がり、授賞式を盛り上げることになりそうだ。(文:相良智弘/フリーライター)

相良智弘(さがら・ともひろ)
日経BP社、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、1997年の創刊時より「日経エンタテインメント!」の映画担当に。2010年からフリー。