誹謗中傷と不運重なった木村花さんの悲劇を振り返る

#木村花

木村花さん
画像はインスタグラム公式アカウントより
木村花さん
画像はインスタグラム公式アカウントより

恋愛リアリティー番組シリーズ『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラー・木村花さんが、5月23日未明に死去したことが判明した。死因は、SNSの誹謗中傷などを苦にした自殺と見られている。

『テラスハウス』にも出演、今井洋介さんが31歳で死去

木村さんは『テラスハウス TOKYO 2019-2020』に途中入居のメンバーとして第20回配信から出演。第38回(3月31日配信)で、木村さんが大事にしていた試合用のコスチュームを、同居男性が誤って一緒に洗濯(洗濯機の中に残っていた)。それ以前から彼に怒りを募らせていた木村さんは、激怒して物議をかもした。

これが後に「コスチューム事件」と命名され、木村さんが亡くなるきっかけになった。同事件がネットフリックスでの配信や、フジテレビでの後日放送を経て明るみになるや、木村さんのSNSアカウントに、誹謗中傷のコメントが毎日100件近いペースで届くようになったという。以下、「誹謗中傷は悪しき行為である」という前提のもと、事件まわりを見ていきたい。

■コロナ渦で出演者らが離れ離れに

2010年代前半に放送されたテラスハウス湘南編では、今井洋介さん(心筋梗塞で死去)が入居中に、ネットの匿名の誹謗中傷に激怒し、入居する仲間に八つ当たりしてしまう…という場面があった。この際は、最終的に入居者6人がテーブルを囲み、互いの思いをシェアしていく過程で、今井さんの気持ちが落ち着いていった。

スタジオでは、南海キャンディーズの山里亮太が「(誹謗中傷で)僕はもう、64回死んでるよ」と自虐発言。「これはね、こっちが傷ついたらあっちの勝ちだと気がつかないとダメです。この放送を見たら、ネットで中傷したやつは嬉しい。そうさせないためには、『傷ついたら負け』と思って(感情など)そういうのを絶対出さないのが一番いい」と持論を展開していた。

木村さんの場合は奇しくも、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、政府の非常事態宣言が発令されて撮影が休止。自身の苦しみを共有できるはずの仲間と離れ離れになってしまった。この間、問題の第38話が5月18日に地上波で放送され、木村さんへの誹謗中傷の勢いが再び盛り返したと思われる。

世間では、対人接触を控えることが求められ、長期の自宅待機による「コロナうつ」も世界規模で問題視されていた。木村さんの当時の精神状態は定かではないが、この鬱屈とした状況で誹謗中傷を受ければ、精神的ダメージが相当になることは想像に難くない。

■制作サイドの是非 過去のトラブル疑惑は教訓になっていたのか

2015年からネットフリックスで再開された新生テラスハウスでは、これまで「お肉事件」など些細な日常のいざこさが物議をかもしてきた(国外を飛び越えて)。

今回のコスチューム事件も、5月14日にYouTubeのテラスハウス公式ページで事件の後追い動画が3本アップされ、詳細に描かれたことからも、制作サイドが“事件シリーズの流れを汲む注目の出来事”として扱っていた様子がうかがえる。

過去には、映画『テラスハウス クロージングドア』(15年)の撮影で男性メンバーが女性メンバーに強制わいせつを働いた疑いがあると週刊文春が報じた。加えて出演者がSNSで誹謗中傷を受けることは多々あり、メンタルケアの徹底などが求められていたところ、コロナ渦も相まって、最悪の形で第2のトラブルが発生してしまった。

また、冒頭で「台本は一切ございません」と言うのがお決まりの本番組。だが以前から、台本などの存在が噂され、一部週刊誌で取り上げられてきた。

木村さんは台本や演出に従って行動していたのか。台本がなく、木村が全て自分の意思で行動していたのか。これによって、話が大きく異なる。これから、制作過程が明るみになることを願うばかりだ。

■求められる法整備

木村さんの死去に際して、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅが23日に「誹謗中傷を気にするななんて難しいよ。芸能人だって1人の人間だよ忘れないで」とツイート。すると、きゃりーが検察庁法案改正に抗議したことを蒸し返して非難するコメントが相次ぐ事態になった。

木村さんが亡くなった直後でさえ、これだ。木村さんの事件が風化した数年後、芸能スキャンダルや番組内での失態に対し、再び誹謗中傷が繰り返される可能性がある。

新たな被害者を生み出さないために、SNS被害者による情報開示請求の簡易化など、法を整備して取りまとめる時期にさしかかったのではないだろうか。

ネットフリックスで世界展開が実現したテラスハウス。「日本の社会や文化が分かる」などと海外メディアに取り上げられ、人気を博していた。しかし、日本社会が抱える暗部までさらす結果になったことは、皮肉としか言いようがない。