『誰よりもつよく抱きしめて』三山凌輝(BE:FIRST)インタビュー

『虎に翼』で俳優としてもブレイク、マルチな才能を直撃

#三山凌輝#誰よりもつよく抱きしめて

よくぞこの役をオファーしてくれたなと思いました

昨年放送の連続テレビ小説『虎に翼』で伊藤沙莉演じる主人公・猪爪寅子の弟・直明を演じ、責任感が強く心優しい青年役で人気が沸騰した俳優の三山凌輝。ダンス&ボーカルグループのBE:FIRSTのメンバーとしても知られる彼が、ガラリと雰囲気の異なるキャラクターを演じて鮮烈な印象を放ったが、さらなる新境地となる繊細な演技を見せるのが主演作『誰よりもつよく抱きしめて』だ。

三山凌輝

『誰よりもつよく抱きしめて』2025年2月7日より全国公開
(C)2025「誰よりもつよく抱きしめて」HIAN /アークエンタテインメント

『ミッドナイトスワン』(2020)などの内田英治監督が新堂冬樹原作の同名小説を映画化し、三山は学生時代からの恋人と愛を育みながら、強迫性障害に苦しむ絵本作家の水島良城(よしき)を演じている。作品について、演じたキャラクターを通して見つめた自分自身について、さらに『虎に翼』出演で得たものなどを明確な言葉で熱く語ってくれた。

[動画]三山凌輝インタビュー前編/強迫性障害の青年役へのチャレンジ語る
[動画]三山凌輝インタビュー後編/「虎に翼」出演で得たもの

──昨年出版された写真集「GAZE」を拝見しました。フランスのパリで撮られていましたが、『誰よりも、強く抱きしめて』とほぼ同時期に撮影したのですか?

三山:ちょうど映画がクランクアップした次の日からパリに行きました。

──そうなんですね。1冊の中でも可愛い表情もあり、かっこいい姿もあり、と変化していますが、どれもが映画で演じられた良城と全然違う表情で、見事な切り替えに驚きました。

三山:ありがとうございます。

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三山凌輝

──内田監督とは、本作の企画より前に韓国で会われていたそうですね。

三山:僕がある番組で韓国にロケに行ったとき、仲良くさせてもらっているプロデューサーの方もちょうど韓国に滞在されていて、「会わせたい人がいるから、タイミングが合えば食事でも」と言われました。スケジュールがかなり詰まっていて無理かな、と思ったんですが、何とか時間を作って行きました。それが良かったなと思って。その時に出会ったのが内田監督だったんです。
一緒にラーメンの鍋をつつきながらお酒飲んだりして、それが出会いでした。それ以来会っていなかったのですが、数ヵ月後ぐらいに映画のお話をいただきました。ただ、あのときの僕はちょうど頭が赤坊主でヴィジュアル的にはパンチが効いてたと思うので、よくぞこの役をオファーしてくれたなと思いました(笑)。

──主人公は三山さんと正反対のキャラクターにも思えたのですが。

三山:結局、人間である以上は同じような状況や感情だったり、受け取るものも出るものも共感できるものはたくさんあります。特に今回は、撮影しているタイミングが自分自身いろんな事を考えるような時期でもあったので、より良城に感情移入できて、環境や感情にすごく共感できる瞬間がたくさんありました。
悲しいとか辛いとか、その状況になって受け取る気持ち、生み出すものというのは同じで、共感をできると思うんです。ただ、それをどういう表現するか。悲しいという気持ちをどう外に出すのか、どういう形で人に伝えるのか、その手段をどう取るのかで変わってくるのが個々の性格だと思うんです。
僕と良城は最終的に取る手段が違ったりすることも確かにありますけど、すごく良城と近いものがたくさんあったので、そういう意味では「正反対」と言われたら、意外とそうじゃない部分もたくさんありましたね。

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──具体的にどんなところに共感されましたか?

三山:人間って生きていくうえでは分かり合いたいけど、分かり合えないということが少なからずあります。今回は男女の関係にフォーカスを当てて、強迫性障害というものが追加されていますが、そもそも根本のテーマは、人と人が分かり合いたいけど分かり合えない部分だと思います。お互い、分かり合いたい気持ちはあるんだけど、それと同じくらい自分のこの気持ちも分かってほしいというエゴが出てくる、あるいは自分の気持ちを棚に上げてしまうというのは人間のよくある行為ですよね。では実際、それは汚いのかと言えば、むしろそれは人間のあるがままと言いますか、自然と出てくるものであり、そのすれ違いが積み重なっていくのは人間関係によくあることだと思うんです。僕自身、生きていてそれを感じることはたくさんありますし、すごく人間の本質をついているテーマだなと感じました。

──キャラクター1人ひとりの描き方が内田監督ならではと思いました。誰しも良い面があり、ちょっとダメなところもある。

三山:僕が面白いなと思ったのは、内田監督の他の作品を見ても感じることですが、感性って人それぞれ違うんですけど、「これを伝えたい」というものを伝えるのがすごくうまいなと思って。多くは与えないし、時にタガが外れてぶっ飛んでる瞬間もあると思うんです。その時にハッとさせられるんですけど、そういういきなりの瞬間って、やっぱり記憶に残るじゃないですか。そういう感性を持ってない人にもハッとさせる力があるんですよね。強行突破の手段でもあるなと思ったんですけど、それはめちゃくちゃ面白いなと思って。変な話、感性が合わない人は合わないし、合う人は合うものですが、合わない人を振り向かせる力があると思います。そういう作品を好まない人、作品を読み取る理解度とか、そこにレベルを合わせていない人も含めて、何かしら感じ取れる瞬間が多くある作品を作られるのが内田監督だなと思いましたし、今回の『誰よりもつよく抱きしめて』は、逆に言えばどんな人が見ても共感しやすいもののベクトルに合わさっている。すごくクオリティの高い作品だと思いました。

──良城と同じ症状で実際に苦しんでいる方も大勢いるので、それを表現するのにも責任が伴うかと思います。
三山凌輝

三山:演じるにあたって監督と相談したり、自分なりに調べる過程もありました。良城の仕草とか脅迫性障害の症状に関しては、それは良城として生きたという感覚が強くて。そういう部分もすごく大事にしつつ、さっき言った通り、根本的な部分の人間としてのお互いの理解度、人と人の接点、どう交わっていくのか、どうすれ違っていくのか、もどかしい部分という本質が大テーマだと思っていました。ですので、良城としてのパーソナルな部分というのはその場その場で監督とコミュニケーションを取りながら演じていました。

──偶然にも共演のお2人、恋人の月菜役の久保史緒里さんも、2人の間に現れるジェホンを演じたファン・チャンソンさんも、三山さんと同じく俳優であり、なおかつ乃木坂46や2PMでグループ活動するアーティストという共通点があります。だからこそお互いに共演者として分かり合える部分とかはありましたか?
三山凌輝

三山:あると思います、限りなく。話していて、個人で活動するマインドとグループで活動しているときのマインドの違い、それぞれ感じる部分だったり。ストレスもそうですし、それ以外の素敵なことも含めていろんな共感し合いながら、「ああ、なるほどね。そっちのグループってそういう感じなんだ」とか、そういう話し合いはお互いできましたね。基本的にはお2人ともとすごく仲良くさせていただきました。

──良城と月菜の物語には、辛いことを乗り越えるというテーマもあります。三山さんご自身が困難を乗り越えるために心に留めていることはありますか?

三山:向き合い続けることでしょうか、やっぱり。自分がその環境で納得するのかしないのか、これがいいのか、変えたいと思っているのかで全部変わってくると思います。
どこにエネルギーを注ぐのかにもよります。自分がそこで満足しているというなら、それは素敵だと思うんですけど、どこで満足するのか、どういう人生を歩みたいのか、どこまで先を見据えているのか。それぞれ自由ですが、僕はかなり先を見て生きていくタイプなので、そうなると考えていくことも自然と増えていく。今それを逆算したときに、この現状というのは、そこにたどり着くための完全な環境が整っているのか、そうでないのかを考えたときに、そうじゃないなと思った部分は、しっかりそこを立て直すために考える思考力を伸ばす。実践するというところまでチャレンジしていくのが人生との向き合いだと思っています。1つの土台が成立したら見えてくる幅も広がって、選択肢も説得力も増してきて、再確認もできます。
自分がブレのない一筋の軸として生きてきたうえで「こうだったな」と感じ取れる瞬間は、先を考えておくことによって1個クリアしたときに再確認ができる。それが大事だと思っているし、いざそうなってみないとわからないという環境もあります。そのときに、より自分が思い描くものが対象物として見えますよね。「今の自分の中の幸せの本質は、これが最優先だな」とか。「数年後にこれをやるためには、やっぱり今はこれをやっておかなきゃいけない。ということは、優先順位がこうなってくるな」とか。それは常に変わっていますし、そういう意味では柔軟性や思考力は1つに留まらないけど、もともとの大目的という人生の中での歩み方は変わっていない。軸というものは変わっていないから、常にそこで調整をしているという状態だと思います。

──すごいです。そこまでしっかりと言葉にできる人にはあまりお目にかかったことがなくて、圧倒されました。

三山:(笑)すみません、圧倒しちゃって。

──ところで昨年は『虎に翼』に出演されて、ファン層の幅がさらに広がったかと思います。出演を通じてどんな学びがあったでしょうか?
三山凌輝

三山:学びというか、本当にシンプルに『虎に翼』というすごく素敵な作品に携わらせていただいたなと思っています。しかも1年近く1つの役を演じさせてもらえて。演じた直明というキャラクターも自分と等身大に似てる部分がたくさんあったり、それをさらに昭和っぽく、好青年にしてくれている部分もありましたね(笑)。
別に背伸びしているわけでもなく、居心地のいい役に半年間携われたのはすごく良かったですし、心の状態としても良かったです。また、世間にも印象づけられるという点でもすごくありがたかったです。そういう意味で役者の感覚としては、次に見てもらったとき、それこそ今回の映画もそうですけど、作品を通した時に感じてもらうギャップは、役者冥利につきますので、それをどんどん楽しみにしていてくれたらいいなと思います。

──街を歩いていて声をかけられる年齢層が変わったのではないでしょうか。

三山:そうですかね(笑)。確かに地方のフェスに行くと、そこで出店しているマダムたちに「直明ちゃ〜ん!」と言われることはありました(笑)。でも元々ファンはいろんな方がいらっしゃるんです。引き続きの方もいらっしゃいましたし、そうやって新しく声をかけてくれた方もいましたし、それは出会いと縁だと思います(笑)。

──最後に、さらに注目度も上がった今、これから俳優として、アーティストとして、一個人としてもどんなことを今後やっていきたいのかを教えてください。

三山:1個ずつ言うとキリがなくなっちゃうんですけど、自分という人間が生きていく中で、すごく分かりやすく言うと、人生丸ごとエンタメ。かといって、人生は自分のために生きてはいるんですけど、自分がどうしたいのか、どう生きていくのかを含めてしっかり向き合っていくっていうのがもう大前提。これからの人生もそう続くと思っています。仕事に対しての気持ちもどうなっていくか、どうしていきたいか、自分自身のいろんなキャリアを考えていく。いろんなステージが変わったり、自分の中で実際に行動していくことが増えていく年にもなると思うので、それを楽しみながら、しっかり自分という人間と向き合いながら生きていくというのが、一番自分にとって素直で健康的なものかなと思います。

(text:冨永由紀/photo:今井裕治)

三山凌輝
三山凌輝
みやま・りょうき

1996年4月26日生まれ、愛知県出身。俳優、そしてBE:FIRSTのメンバーRYOKIとしても活躍。主な出演作に映画『HIGH&LOW THE WORST X』(2022)、ドラマ『往生際の意味を知れ!』(23)、『生理のおじさんとその娘』(23)、連続テレビ小説『虎に翼』(24)など。