ストリッパーのヒロインが魅力的! 日本の女優の主演作を参考にタフなキャラクターを熱演

#ANORA アノーラ#ショーン・ベイカー#マーク・エイデルシュテイン#マイキー・マディソン#ユーリー・ボリソフ#レビュー#週末シネマ

『ANORA アノーラ』
(C) 2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C)Universal Pictures
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愛すべきヒロインの行動力に圧倒される『ANORA アノーラ』

【週末シネマ】2024年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞し、その後も数々の映画賞も制覇、第97回アカデミー賞の主要部門の最有力候補とされている『ANORA アノーラ』は、21世紀のシンデレラストーリーと呼ぶにふさわしい、エネルギッシュで愛すべきヒロインの行動力に圧倒される139分間の作品だ。

【週末シネマ】ホロコーストを生き延びた建築家の半生が伝える残酷な現実、そして今の粗暴な世界と地続きの現実味

ショーン・ベイカー監督は、これまでの作品でも常に社会の片隅に生きる人々に焦点を当ててきた。『タンジェリン』(2015年)ではトランスジェンダーのセックスワーカー、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017年)ではモーテル暮らしの母子、『レッドロケット』(2021年)では落ちぶれたポルノ俳優を主人公に、バラ色ではない現実を隠さず描きながらも単調な悲劇にはせず、ユーモアとたくましさで物語を紡いできた。主演にスターを起用せず、キャストには演技未経験者が多いことも特徴であり、『ANORA アノーラ』はこれまでの集大成と言えるだろう。

現代版にしてリアルな『プリティ・ウーマン』

R18+の本作はニューヨークのストリップクラブの刺激的な光景から始まるが、序盤はおとぎ話のようだ。ブルックリンのストリップクラブで働くダンサーの“アニー”ことアノーラ(マイキー・マディソン)は、ロシアのオリガルヒの息子イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)と出会う。ストリッパーと大金持ちという組み合わせは1990年代のロマンティック・コメディの金字塔『プリティ・ウーマン』(1990年)を彷彿とさせるが、21世紀の今、その設定をリアルに描けばこうなる、という物語だ。

『ANORA アノーラ』

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御曹司はまるで“ロシア版ティモシー・シャラメ”

イヴァンは一見“ロシア版ティモシー・シャラメ”という雰囲気だが、中身は絵に描いたような世間知らずのドラ息子。ロシア系で言葉も解するアニーに夢中になり、大金を積んで1週間の “契約彼女”として雇う。『プリティ・ウーマン』のような年齢差もなく、同世代の若い2人は一気に結婚まで突っ走るが、それはまさに“ノリ”以外のものではなく、一瞬の幸福は事態を知ったイヴァンの両親の介入によって、あっさり崩壊する。

『ANORA アノーラ』

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ベイカーはジェットコースターのような映画を目指したと海外のインタビューで語っているが、その言葉通り、ロマコメを予感させる冒頭から、両親の圧力を恐れたイヴァンが新妻を置き去りに逃げ出した後、映画のトーンは一変する。アニーはアルメニア人の用心棒たちと凄まじい攻防を繰り広げるが、格闘シーンは25分以上に及び、暴力的であると同時にスラップスティック・コメディ的なユーモアがある。

梶芽衣子の『女因 701号さそり』を参考に

屈強な男たちに全身で反撃するアニーの身体能力とサバイバル精神に惚れ惚れさせられるが、ベイカーがマディソンに参考作として勧めたのは梶芽衣子主演の『女因 701号さそり』(1972年)だという。マディソンは梶の演じた主人公について「タフさと柔らかな女性らしさがあり、激しい戦いと生命力もある」と、アニーとの共通点をDeadlineのインタビューで語っている。

全編を通してエネルギーを炸裂させるアノーラを鮮烈に演じたマディソンはクエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)でマンソン・ファミリーの一員スーザン・アトキンス役、『スクリーム』(2022年)で知られる。本作でアカデミー主演女優賞候補となり、前哨戦でも英国アカデミー賞やインディペンデント・スピリット賞などで受賞している。

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成り行きでアニーは、用心棒のイゴールとガルニク、さらにイヴァンの見張り役として両親に雇われた司祭のトロスとともにイヴァンの行方を探すことになる。奇妙な追跡劇のクライム・コメディのような展開の中、イヴァンの両親がロシアからやって来ると、物語はさらにカオスと化していく。

その過程でアニーとの関係が変化していくのが武骨なイゴールだ。言葉や態度では示さないが、アニーを最もよく見守り、気にかけている。演じるのはロシアの俳優でカンヌ国際映画祭グランプリ受賞作『コンパートメント No.6』(2022年)の主演で知られるユーリー・ボリソフ。険しさの中の不器用な優しさを見事に演じたボリソフはアカデミー助演男優賞にノミネートされた。

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ろくでなしのイヴァンを演じたロシアの新進俳優、エイデルシュテインのファニーな存在感、トロスを演じた監督の学生時代からの盟友にして常連俳優のカレン・カラグリアンをはじめとするキャストのリアリティある演技がマディソンのパワーをしっかり受けとめて支えている。

フェリーニ監督の『カビリアの夜』との共通点

シネフィルで知られるベイカーは、影響を受けた作品としてイタリアの巨匠フェデリコ・フェリーニ監督の『カビリアの夜』(1957年)を挙げている。2作とも女性のセックスワーカーを主人公に据え、彼女たちが抱く希望と幻想、様々な格差による過酷な現実を描き出し、印象的なラストシーンで締めくくられる。

『ANORAアノーラ』の結末も自由な解釈が可能だが、筆者の目には、アニーの奮闘を見続けた観客がようやくアノーラに出会える瞬間として映った。(文:冨永由紀/映画ライター)

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『ANORA アノーラ』は、2025年2月28日より全国公開中。

 

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