1985年12月12日生まれ、東京都出身。2002年映画デビュー。04年の映画『スウィングガールズ』で注目を集める。07年NHK連続テレビ小説『ちりとてちん』で初主演を務め、13年の初主演映画『くちづけ』では第56回ブルーリボン賞最優秀主演女優賞を受賞。主な映画出演作に『望郷』(17年)、『この道』(19年)、『アイネクライネナハトムジーク』(19年)、『夕陽のあと』(19年)、『総理の夫』(21年)などがある。主なテレビ出演作に『テセウスの船』(20年)、『ディア・ペイシェント〜絆のカルテ〜』(20年)などがある。
“森田演出”という言葉も生まれるほど、独特の演出で『家族ゲーム』をはじめ個性的な作品を多く生み出し、2011年12月に急逝した森田芳光監督の遺作『僕達急行 A列車で行こう』。松山ケンイチ扮する小町と瑛太扮する小玉という青年2人が鉄道好きという趣味を通じて交流を深め、成長していくハートウォーミングなコメディドラマとなっている。
本作で主人公の小町と偶然出会い、知り合い以上恋人未満な関係を発展させていくヒロインを演じたのが貫地谷しほりだ。森田作品初参加となった彼女に、森田監督との共同作業や撮影秘話、作品の見どころについて語ってもらった。
貫地谷:森田監督の個性的な笑いが随所に散りばめられていて、自分が出演しているにも関わらずクスクス笑っちゃいました。私が出ているシーンでは、メガネをかけるところで効果音が入っていて(笑)。台本にも書かれていなくて知らなかったので、「おっ、これは!」と思って笑えました。
貫地谷:電車そのものよりお弁当が好きっていう方が劇中にも出てきましたけど、私も電車より駅弁派ですね。さらに言うと、電車もいいなぁって思うんですけど、電車よりも飛行機ですね(笑)。せっかちなもので。移動は時間かけずに、現地での時間を有効に使いたいタイプです。電車といえば、小学校のときに友だちとスタンプラリーをして、いろいろ乗り継いで行ったら戻れなくなっちゃって。一生懸命記憶を辿って戻ってきて、友だちと怖くなって帰ったっていう。あんまりいい思い出じゃないですね(笑)
貫地谷:変わった女の子だなって思ったけれど、私はそこが面白くてかわいいなって感じました。切り替えが早い女性で、共感もありました。恋愛に限らず、これは違うなって思ったら私もすぐに切り捨てるんですよ。お芝居でも、パターンをいくつか考えて、「あ、これはないな」と思ったら違う方向に行くんです。
貫地谷:それもすぐに捨てます。捨てきれないときは話し合いますね。思いを説明するというか。自分の役って自分が一番好きで理解してると思ってるので。話し合ったうえで、監督に納得させられたら監督の言う通りにするし、監督がそういう解釈もあるねって言ってくれたら私の思ったことをしたり、いろいろですね。
貫地谷:脚本を読んで私が思ったようにやったら、森田監督からやることやること全部違うって言われたんです。ハッキリ違うって言われたからすぐに捨てられたんだけど、じゃあ、どういう方向に進めばいいかわからなくなってしまって。監督から、求めてる女性像の説明などは一切なくて、森田監督の場合すべてが理屈じゃなくて感覚なんですよね。撮りたいビジョンがすごくしっかりしていて、そこにハマれば1回でオッケーだし、そうでないと何度もやるんです。そのとき私が出せるものすべて出しきったけど、違うって言われてしまって、そうなってやっと力が抜けたというか、その後やってみたら監督からオッケーが出ました。たぶん、私はつい笑わせに走ってしまっていたんですよね。でも、そうじゃなくて、力んでいなくて自然体で、普通に生きてる人間の面白さを森田監督は求めていたんだなと後で思いました。
貫地谷:行き詰まっていたわけではなくて、わからないままフワフワしていて、言われるがままに動かされていたという感じです(笑)。現場もフワッとした雰囲気で、共演の松山さんと瑛太さんは本当に不思議な距離感と空気感でした。隣同士に座っていてもポツリポツリと会話を交わすだけで。そういう空気が作品に出ていたんじゃないかと思います。私はよくしゃべるタイプだから、邪魔しちゃいけないと思って離れてました(笑)。森田監督はとにかくいつもニコニコしてました。
貫地谷:九州の駒鳴駅のロケに行ったとき、先に現地にいた監督が農作業の方が使うような日除けのある帽子を被って、「よく来たな〜」って迎えてくれて。「地元の方?」って感じでした(笑)。撮影現場では監督が一番動きまわって、一番汗かいて、力いっぱい指導してくれました。私たちの前で監督が1人で全部の役をやって見せてくれるんですよ。それがまためちゃくちゃ面白くて。ハードル高いよなーってプレッシャーも感じるんですけど、監督が一生懸命やってる姿がすごいキュートなんですよね。それで私もがんばろうって思いました。
貫地谷:“間”っていうのがやっぱり森田演出だなと思いました。「ここでちょっと一歩止まって、それから動き出してみて」っていう演技指導があったりして。そこで戸惑った自分がいたんです、「あ、あ……?」って。でも、それがキャラクターの1つの面になっていた気がします。1つ間が入るだけで役の反応も変わってくるし、その反応が欲しいから間を入れたんだろうし、すごく計算されてるなぁって思いました。
貫地谷:登場人物がみんないい人で、いい人ばっかりで成り立つのかって思うんですけど、それが本当に成り立っていて、ほっこりと温かい気持ちにさせてくれるドラマです。人と人とのつながりというものを思い直すいいきっかけになるんじゃないかと思います。周りから森田監督はすごいステキな監督だと聞いて、いつかご一緒させてほしいと思っていて今回実現できました。私は森田監督の作品のなかでやっぱり本作が一番好きな作品です。
(text&photo=入江奈々)
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