収益化の課題も模索 巨大企業が若手クリエイター支援に乗り出した理由

#AS CREATION PROJECT#クリエイター支援#ごっこ倶楽部#動画#幽霊の日記

AS CREATION PROJECT
「AS CREATION PROJECT」メンバーのKDDI・古波蔵洋平氏(右)と斎藤新氏(左)
AS CREATION PROJECT
トリッパーズ
幽霊の日記

良質なオリジナル作品をバックアップ

若手クリエイターを支援し、活躍の場を広げてもらうために立ち上げられたクリエイター支援プロジェクト「AS CREATION PROJECT」。auを運営するKDDI株式会社が、映画会社松竹グループに属する松竹ベンチャーズ株式会社と共にスタートしたプロジェクトだ。

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日本のヒット作品にはマンガやアニメ、テレビドラマの映画化が多く、オリジナル作品は資金調達や劇場公開などにおいてハードルが高い。一方で、良質なオリジナル作品の制作はクリエイターの成長には欠かせない。そんな状況を打破するため、AS CREATION PROJECTではショート動画製作を支援する。2024年8月には多田智監督の『トリッパーズ』をTikTokで公開。

トリッパーズ

「AS CREATION PROJECT」の第一弾、ごっこ倶楽部が手がけた『トリッパーズ』(2024年8月6日公開)

今年2月からは針谷大吾、小林洋介が共同監督した『幽霊の日記』をYouTubeで公開し、好評を博している。

幽霊の日記

NOTHING NEWとKDDIが組んだ第2弾『幽霊の日記』(針谷大吾監督、小林洋介監督)は2025年3月31日まで配信予定。

ムビコレではAS CREATION PROJECTを担当するKDDIの古波蔵洋平氏と斎藤新氏にインタビュー。ハイリスク・ハイリターンになりがちな映像制作事業や、採算がとりにくいクリエイター支援に乗り出した理由などを聞いた。

————堅実な優良企業が、映像業界や若手クリエイターを支援しようと思ったきっかけは何ですか? ハリウッドなどと違い、日本の映像業界は昔から圧倒的にマネタイズが成り立っておらず、近年ではパワハラや性加害、やりがい搾取などの問題が続出しています。さらに、クリエイター支援はすぐに結果の出ないことがほとんどです。

古波蔵:私たちマーケティングチームは、お客様の“スマホライフ”を豊かにするというミッションを掲げて仕事をしています。具体的には、エンターテインメントコンテンツをスマートフォンで楽しんでいただく。最近では特にスマートフォンでYouTubeやTikTokなどのショート尺を中心とした映像コンテンツを視聴する機会が多くなっているので、そういったものを楽しんでいただくということです。そんな中で立ち上げたのが、このAS CREATION PROJECTです。
これからは、若手クリエイターがどんどん映像の可能性を掘り下げて魅力的なコンテンツを作っていく、それによって世界に広がっていくと思っています。そんなクリエイターとスマホユーザーとの橋渡しを行い、新しい映像コンテンツを作っていくことができればと思い立ち上げたプロジェクトです。
我々はスタートアップや若手の方の会社への事業支援をしている会社でもあるので、その映像版でもあります。

————松竹さんと組んだ理由は?
古波蔵:松竹ベンチャーズさんはスタートアップ支援の会社で志も同じなので、以前から一緒にお仕事させてもらっていました。映像では連携できていなかったので、一緒にやりませんか?ということになりました。
松竹さん側でも映像産業に関する課題について、優秀なクリエイターの活躍の場が少ないことや良質な作品があっても埋もれてしまっていること、また、それらをどうやって収益化していくのか、など私達と共通の認識がありました。YouTubeやTikTokなどを利用することで、ローリスク・ローリターンで行いながら、2社がタッグを組むことで、若い企業やクリエイターを支援できるのではないかと考えました。

————『トリッパーズ』ではショートドラマクリエイター集団のごっこ倶楽部と組み、『幽霊の日記』では気鋭クリエイターの後押しをしている株式会社NOTHING NEWと組んでいますね。
古波蔵:ごっこ倶楽部さんは、ショートドラマの領域で、新しい映像によってメディアのあり方を変えていきたいというビジョンを明確にお持ちでした。新しいことに取り組むという志が同じなのかなと思いお声がけさせていただきました。
NOTHING NEWさんとは元々お付き合いがあり、彼らが目指すビジョンと我々の考えが非常にマッチしたので、ぜひ一緒にやりたいというお話しをさせていただきました。

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目指すのはビジネス業界とクリエイターの橋渡し

————2月12日から『幽霊の日記』がスタートしましたが、反応はいかがですか?
古波蔵:針谷監督、小林監督のタッグはこれまでも高く評価されていて、「スマートフォンで撮影した映像などがリアルだ」「没入できる新しい映像体験だ」という風に言われていました。ですので『幽霊の日記』もファンの熱量は高く、コメントの書き込みなども多くいただいて反響はありますね。

————インディーズ作品としてはなかなかの反響だと思いますが、事前に広告を出すなどしたのでしょうか?
斎藤:事前に広告出稿などはしていません。ただ、1月からPR発信をしてきました。ディザー映像などを出して盛り上がる土壌を整えて、2月12日を迎えたという状況です。

————『幽霊の日記』は期間限定公開ということですが、YouTube掲載の終了はいつでしょうか? また、その後の展望は?
斎藤:3月31日で一旦終了します。その先の展開についてはまだ決まっていません。

————プロジェクトの期間は決めているのでしょうか?
古波蔵:特に終わりは決めておらず、長く続けたいという強い気持ちを持っています。
費用などについては予算があるので、大きな予算を割ける作品と低予算のものという強弱は出てくると思いますが、『幽霊の日記』の後もAS CREATION PROJECTとしては第3弾、第4弾……と続けていく予定です。

————AS CREATION PROJECTはスマホで今まで以上にエンタメを楽しんでもらうための企画だと理解しましたが、劇場上映などリアルとの融合も視野に入れているのでしょうか?
古波蔵:リアルでの展開もしたいと思っています。プロジェクトメンバーには劇場をお持ちの松竹さんもいらっしゃるし、我々も経営に参画したローソンには映画館事業を手がけるローソン・ユナイテッドシネマがあるので、劇場で上映できたりしたら良いですよね。
ただし、我々のミッションとしては、まずはスマートフォンを使っていただくのがメインなので、そのコンテンツを作ることが重要です。
ですので、ごっこ倶楽部さんには縦型ドラマを作っていただきましたし、今回も30分の作品なのでスマートフォンで楽しんでもらえると思っています。
その先に(長尺の)映画を当たり前にスマートフォンで見てもらえるような時代が来ればいいなとは思っています。

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制作費の循環が業界を活性化するはず

AS CREATION PROJECT

————若手クリエイター支援のためのプロジェクトということですが、若手クリエイターが食べていくための仕組み、創作活動を続けていくための仕組み作りについてはどうお考えでしょうか?
古波蔵:我々が、ビジネス業界とクリエイターの橋渡し役になれればと思っています。
映像はテレビや映画館で見るものという前提で作ってしまうと、本数も限られます。するとクリエイターの数も限られてきます。けれど、スマートフォンで楽しめるという世界にシフトして、一緒にコンテンツを作っていきましょうとなれば、埋もれているクリエイターさんたちにもっと光を当てられるのではないかと思います。
それによって若手クリエイター達に制作費が循環していけば、もっと業界が活性化して良い作品が出てくるようになると思っています。

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————クリエイター支援は理念が素晴らしいものもありますが、お金の面に触れないものも多く、残念に思っていました。創作を続けて食べていくためにはお金がないと話にならないという側面があるので、制作費についてもきちんと考えられていることに勇気づけられます。
古波蔵:我々も、どういう収益構造にしていくかはまだまだ試行錯誤している状況ですが、AS CREATION PROJECTのように映像制作の支援をすることでauの利用者が伸び、それによって会社も収益を得るというパターンもあります。YouTubeの広告収益や課金動画というものあり、まだ不安定ではありますが可能性のひとつではあります。
ただ、良い物を作ろうと思うと経費がかかるので、もっと考えていきたいですね。

————制作についてはどれくらい関与しているのでしょうか?『幽霊の日記』の針谷監督、小林監督は、「こんなに自由に作らせてくれるプロジェクトは少ない」と喜んでいたとお聞きしました。
古波蔵:このプロジェクトとしては、クリエイターさんを信じて任せたら、任せきろうと考えています。もちろんauのブランドとしてふさわしくないという一線はあるので、そこはチェックしますが、基本的には口出ししません。まぁ、ちょっと怖かったですが(笑)。

————お金も出すけど口も出す、という企画も少なくないと聞くので、その懐の深さはクリエイターにとってはありがたいと思います。一方で、自由度が高ければ良い作品ができるというわけではないところが難しいですよね。今は第3弾、第4弾の準備をされていると思いますが、そのあたりについて教えてください。
古波蔵:出資する側も収益を得られないと続かないので、そのあたりは本当に難しいと思います。ただ、できるだけ良い創作環境を用意して作り手と視聴者の橋渡しができたらいいなと思います。
我々はAS CREATION PROJECT以外でも色々と動いていて、その中で有名無名の様々なクリエイターさんとやり取りさせていただいています。皆さん、創作についての熱量がとても高くて「もう作品を作るのが好きで好きでたまらない」という風に感じます。そういった熱量に応えながら、今後も良い企画を発信し続けたいと思っています。

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