1980年京都府出身。1993年、相米慎二監督『お引越し』で主演デビュー。第67回キネマ旬報新人女優賞をはじめ多数の新人賞を受賞。2000年NHK連続テレビ小説『私の青空』のヒロイン役で幅広い世代から注目を集める。崔洋一監督『血と骨』(04年)で第28回日本アカデミー賞優秀助演女優賞、山田洋次監督『隠し剣 鬼の爪』(04年)で第59回毎日映画コンクール女優助演賞を受賞。2012年に主演したタナダユキ監督『ふがいない僕は空を見た』では第67回毎日映画コンクール女優主演賞を受賞した。その他の主な映画出演作は、矢口史靖監督『ハッピーフライト』(08年)、堤幸彦監督『くちづけ』(12年)、高畑勲監督『かぐや姫の物語』(声の出演/13年)、周防正行監督『舞妓はレディ』(14年)、『ソロモンの偽証』(15年)など。
2011年本屋大賞2位、第24回山本周五郎賞受賞など「性」と「生」を赤裸々に綴り、多くの人々の共感を呼んだ窪美澄の同名小説を映画化した『ふがいない僕は空を見た』。
メガホンをとったタナダユキ監督が「主人公の里美が抱える心の闇を、演じるだけではなく体全体で表現できる女優はこの人しかいない」と熱烈なラブコールを送ったのが女優・田畑智子だ。
コスプレで男子高校生との過激な情事を繰り返すなど、これまでの役柄とは一線を画した新たな一面を見せた田畑が、本作に込めた思いや理想の夫婦像などを語った。
田畑:脚本を読ませていただいたとき、里美という女性は、私が経験したことないようなことをたくさんしていて、すごく興味が沸いたんです。だから単純に「やりたい!」って思いました。そんな役を「ぜひ私に」って監督が言っていただいたのはありがたかったですね。
田畑:「こうやってください」と細かく演出する監督さんではありませんでした。そのシーンに至るまでの経緯を説明してくださり、何を見たいのかということを明確にしてくれるだけ。演技のことはあまり仰らなかったです。多くを語らない監督ですが、自然な温かさのある空気みたいな存在でした。
田畑:私とは育った環境も、経験も違うのですが、里美は特別な子ではないと思うのです。里美が持っている弱さや痛みは、形は違えども、誰でも経験してきていることだと感じたんです。「現実から逃れたい、どこかにすがりつきたい」という気持ちはみんな一緒だと。だから特別なことをやっている映画ではないという意識で臨みました。
ただ、旦那さんが非協力的だったり、姑さんからいじめられるというシーンは辛かったですね。それとは真逆で、永山(絢斗)くん演じる卓巳とのシーンは幸せでした。2人の心の痛みや温かさも分かったし、女性としての幸せって何なのだろうということも考えさせられました。また不妊に苦しむ役だったので、命が宿ることがどれだけ奇跡に近いことなんだっていうことも実感したし、人間の存在する根本を考えさせられました。
田畑:最初から最後まで、永山くんと田畑は一歩入りたいけど、入れないって感じでした(笑)。ここまで性的なシーンを撮ったことは私も永山くんも初めてだったので、絶対緊張すると思っていたし、照れてしまったら終わりだということは頭にありました。でも蓋を開けてみたら、そういうものはなかったですね。彼と5日間ぐらい同じ空間にいて、彼の持っている独特の優しさだったり、すごく真面目で頭のいい青年だなってことを感じました。どちらかに頼るのではなく、お互いが頼りあえる関係だったと思います。気持ちで接したら、それに反応してくれる役者さんでした。
田畑:ありますね(笑)。コスプレしたことはありませんが、休みが2週間ぐらいあったりすると、金髪にしたり、カラーコンタクトを入れて外出したことはあります。今いる自分とは違う自分を作って、それになりきろうとするのかな。例えば、すごく辛くて落ち込んでいても、全く違う自分を作り上げてみるとか……。現実から逃げ出したいんでしょうね(笑)。(京都の老舗料亭という)実家の仕事柄、小さいときから舞妓さんになってみたりしていたんです。見た目を変えると中身も変わりますからね。ストレス発散にもなりますし。
田畑:髪型を変えたりということもありますが、1番は料理をすることですね。料理って段取りが必要で、すべての組み立てを考えているので、あまり自分の気持ちが入り込む余地がないのです。だから悩んでいるときや、ストレスがたまっていたりして何も考えたくないときは料理をします。1日1回は包丁を握っていますし、料理は楽しいです。以前はお酒でストレスを発散したりしていたのですが、目覚めた時の悩みが、お酒を飲む前より深くなっていたりして「発散になってないぞ」ってね(笑)。
田畑:私の理想はうちの両親です。常に会話をしているし、職場も一緒なのに、仕事が終わった後も2人で飲みに出かけたり、本当に仲がいいのです。母は、一歩引くところは引いて、男の人を立てることが出来る頭のいい女性。父の方も、母がいないと生きていけないっていうのが見ていて分かる。本当に理想的な夫婦だと思います。ずっと恋人同士の延長線上にいる夫婦ってすごくいいなって思いますね。秘訣を聞くと「とりあえず会話をしなさい」って。コミュニケーションは大切なんですね。まだ結婚はしていませんが、姑さんとの関係も、旦那さんになる人を生んでくれたのはお母さんだということに感謝します。その上で、友だちみたいにしゃべれる関係になれたら理想ですね。
田畑:ある何人かの日常を綴った作品。特別なことは描いていませんが、100%何かを感じることができる映画だと思います。切なくもあり、痛々しくもあり……でもなんか愛くるしい。私は見終わった後に、すごいパワーをもらいました。人って一生懸命生きているんだなぁってことを感じ取っていただけたら嬉しいです。
(text&photo=磯部正和、stylist:竹下奈実、hair making:土橋美保)
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