「『天国の日々』は人生の方向性が決まった作品」──リチャード・ギアが公開当時の想いを語るインタビュー解禁

#テレンス・マリック#リチャード・ギア#天国の日々

(C) 2025, 1978 BY PARAMOUNT PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.
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20世紀初頭のテキサスの壮大な農場を舞台に、人間の弱さともろさを美しい映像で描く珠玉の名作『天国の日々』(78年、日本では83年公開)。今回テレンス・マリック監督の監修により4Kレストア化した『天国の日々 4K』が全国順次公開されるにあたり、主演のリチャード・ギアが公開当時に語ったインタビューが解禁された。

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この映画は、確実にこの時代の精神の一端を描いていた

時は第1次世界大戦が開戦されるころ。製鉄工ビリー(リチャード・ギア)は、妹のリンダ(リンダ・マンズ)、恋人のアビー(ブルック・アダムス)と一緒にシカゴを飛び出し、テキサスの農場で働く。その若き農場主チャック(サム・シェパード)がアビーを気に入ったと知り、彼らはチャックに取り入るのだが……。

このインタビューで、リチャード・ギアは出演したきっかけのことを語る。

「正直なところ、当時は映画をあまり重視していませんでした。私にとっては演劇こそがすべてだったのです。しかし、『バッドランズ(地獄の逃避行)』(73年)を見て衝撃を受けました。エージェントにこう話したのを覚えています。“この監督(テレンス・マリック)が映画を作っているのなら、私にとっても映画は興味深いものなんじゃないか”と。彼が『バッドランズ(地獄の逃避行)』で表現したものは、私をはじめ、多くの人にインパクトを与えたんです」。

そのうえで「この映画は、確実にこの時代の精神の一端を描いていた」というギア。

「プロデューサーのバートとハロルドのシュナイダー兄弟、ボブ•ラフェルソンがロサンゼルスで作っていた映画は当時の世界状況を映し出していて、ベトナムの状況などを直接的に取り上げていたわけではないけれど、その時代のエネルギーや疑念といったものを表現していた。他の多くの人々同様、若き日の私は目を開かれる思いがしたものです。ヨーロッパの伝説を、アメリカを舞台として表現しようとテリー(テレンス・マリック)が試みたのは明らかで、イタリア映画の影響を大きく受けていました」。

ギアはマリック監督を「文学に造詣が深く、大変な読書家」だと感じたという。

「彼は世界をとても広い視野で眺めていて、私たちが何者であるかについて、アメリカ中心の視点ではなく、移民してきた人々の視点で見ているように思います。映画で大切なのはセリフではなく、映像や感情、切り取られた一瞬といったものなのです。ストーリーそのものでさえもありません。結局、印象に残る要素というのは、物語の内容よりも、とある瞬間なのです。夢から覚めた後のように」。

そのため「従来のスタイルで内容の詰め込まれた当初の脚本よりも、最終的には、はるかに静謐な作品になった」という。

「それに、私はこの作品のキャスティングに1年ほど関わってきていました。テリーは精力的に配役に携わっていたものの決定には至らず、東海岸と西海岸を行き来しながら、さまざまな俳優と女優、また俳優と俳優の組み合わせをあれこれと考え続け、行き詰まっていたんです」。

ギアは、マリック監督に「テリー、もうこれ以上は無理だよ。決断しなくては」と告げた。

「そんなとき『君には本当にこれをやってほしいんだ』とテリーが電話してきたときのことを、ロサンゼルスではっきりと思い出したのです。その時点で私の人生の方向性が決まったように思います」。

ブルック・アダムス、サム・シェパード、リンダ・マンズ……共演者への想い

彼は共演者たちへの想いも語っている。まずは、恋人のアビー役を演じたブルック・アダムスについて。

「ブルックとは旧知の間柄で、彼女が役を得たときはうれしかった。当初は別の女優が関わっていたのですが、去らざるを得なくなり、そこで私の知人のブルックが登場したのです。私はブルックが大好きで、すっかりほれ込んでいる状態でしたから、彼女が映画に出演してくれることになった時点で、もう役に入り込みかけていました」。

そして、若き農場主チャックを演じ、のちに『ライトスタッフ』(83年)で名を高めたサム・シェパード。彼も演劇畑の出身で、演じるだけではなく、戯曲も執筆していた。

「サムの演技は素晴らしかった。まるでゲイリー・クーパーのような深みとリアリティ、そして感動をもたらす才能の持ち主なのです。ニューヨークで何度か彼の芝居に出演したことがあるので、お互いへの理解はある程度ありました。それに私は彼の大ファンだったのです。当時のサムは、トレンドに敏感な、才能ある若き作家でした」。

だが、彼との関係はなかなか複雑なものがあったようだ。

「役者というのは、ストーリーや登場人物の人間関係にもリアリティを持たせることができるのかもしれません。というのも、私とサムの間には、ブルックを巡ってちょっとしたライバル意識があったのです。だから映画の撮影を離れた時間でも、わずかに作品の役柄を演じ続けていた部分があったような気がします。いかにもありがちな話ですね」。

妹役のリンダ役のリンダ・マンズは、当時17歳。オーディションでこの狂言回し的な難しい役に選ばれた。

「彼女には並外れた天与の才がある。彼女のような能力を持つ人は、ただ自由にさせてあげるだけで良いのです。リンダはとても若く、テリーには彼女が自分らしさを保てるような気遣いがありました。それがリンダの際立った演技を引き出せたのだと思います」。

そして、ギアはロバート・アルトマンと共演したときのことを思い出したという。

「彼が子役に接しているのを見たことがあります。どうやったら子どもたちからこんな素晴らしい演技を引き出せるのか、と彼にたずねたのですが『決して、こうしなさい、と指示しないのがコツだ』という答えが返ってきました。リンダを見ていて、そのとおりだと思いました。リンダは本当に個性的で風変わりで、ティーンエイジャーらしいワイルドさにあふれた、宝石のような輝きを放っていたのです」。

インタビューの最後に、こうした役者たちを集めたテレンス・マリックの撮影スタイルについて述べている。

「テリーはリハーサルをしない監督でした。演劇出身でない彼が、どの程度役者たち、あるいは人々を導く能力があったのかは分かりません。恐らくテリーは、自分が何を求めているのか、どのように見せたいのか、あるいは感じたいのかを幅広く意識できる、優れたセンスを持っていたのでしょう。でも、細かい点まで具体的に考えていたかどうかはわかりません。彼はそういったタイプの映画監督、またはクリエイティブ・アーティストではありませんでした」。

だが、それは仕方のないことだったとも感じたようだ。

「思い起こせば、テリーは映画制作を始めたばかりで、また演劇監督のように役者に語りかけるすべも知らなかったのです。役者の立場としては、いらだちを覚えることもありました。ですから、もう一度やってみたら、次は気に入ってくれるかもしれない、というスタンスでした。大きなフラストレーションを感じてしまうこともありますが、テリーにとっては、これが力を発揮できるベストな方法なのです」。

今回、このインタビューに加えて、来場者プレゼントとして、燃え上がる麦畑を捉えた“災難”ビジュアルチラシを、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデンシネマ、アップリンク吉祥寺、立川シネマシティ、サツゲキ、小山シネマロブレ、横浜シネマリン、テアトル梅田、アップリンク京都で配布することも明らかになった(なくなり次第終了)。

また、4月5日(13:55の回上映後)にヒューマントラストシネマ有楽町にてトークイベントの開催が決定。トークには、日本初公開当時にパンフレットで「採録シナリオ」を執筆した映画評論家・ジャーナリストの大森さわこ氏が登壇予定とのこと。

これを期に、「時代の精神の一端を描いていた」この作品を再確認してほしい。

映画『天国の日々 4K』は全国順次公開中。

INTERVIEW