1972年12月3日生まれ、神奈川県出身。1988年にデビューし、女優として映画、TV、舞台で長きにわたり活躍。主な映画出演作に『バタアシ金魚』(90年)、『忠臣蔵外伝 四谷怪談』(94年)、『モンスター』(13年)、『雪の華』(19年)、『ファーストラヴ』(21年)。ドラマは今年、『桜の塔』、連続テレビ小説『おかえりモネ』に出演。近年は歌手活動も再開し、5月に初エッセイ集「魔性ですか?」を発表した。
シリーズ累計230万部を発行した安倍夜郎の大ヒット漫画「深夜食堂」がテレビドラマに続き、ついに映画化。舞台はネオンきらめく繁華街の路地裏にある「深夜食堂」と呼ばれる小さな食堂。メニューは酒と豚汁定食だけだが、頼めば大抵の物なら作ってくれる、そんなマスターが出す懐かしい味を前に、客たちの悲喜こもごもの人生模様が交差する。
監督は映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で日本アカデミー賞を受賞し、ドラマシリーズ「深夜食堂」も手がける松岡錠司。主演はドラマ版と同じく小林薫が登板。客と絶妙な距離感を取る寡黙なマスター役を自然な佇まいで演じている。その他、多部未華子、田中裕子、柄本時生、余貴美子、筒井道隆、菊池亜希子らが出演している。
劇中のエピソードで、めしやに顔を出す客で、愛人を亡くしたばかりの女性客、川島たまこを演じた高岡早紀に本作の魅力について語ってもらった。
──劇中では、高岡さん扮するたまこが好きな料理として、鉄板の上に流し込んだ半熟卵の上にナポリタンをのせた料理が登場していました。人気フードスタイリストの飯島奈美さんが手がけた料理ということもあり、思わず食べたくなる人も多いのではないかと思うのですが。
高岡:あれは松岡錠司監督の思い入れのある料理なんです。監督は愛知のご出身なんですが、ナポリタンのことをイタリアンと呼んでいたらしくて。監督が子どもの頃、愛知ではデパートの食堂で食べるようなちょっとしたごちそうだったんですって。それが思い出の味だったそうです。だからきっと松岡監督の思いがいっぱい詰まっているんでしょうね。
高岡:そうですね。松岡監督が撮る映画ということなら、ぜひともやらせていただいたいと思いました。とても久しぶりだったのでうれしかったですね。
高岡:どちらかというとやりにくいですね。それはもしかすると監督もそうだったかもしれません。お互いのピュアだった時代を知っているわけですからね。もちろん今がピュアではないというわけではないですけど(笑)。
この20数年、監督とまったくお会いしていなかったわけではなく、ところどころでお会いはしていましたが、なかなか作品でご一緒する機会はなかったんです。振り返れば『バタアシ金魚』の時はものすごく深くて濃い時間でした。どれだけの期間、撮影をしていたのかは、よく覚えていないんですが、あの時の撮影を監督も私もすごくいい時間だったなと思っていて……。だから今回は20数年ぶりという気が全然しなかった。2人とも和気あいあいとしていたんじゃないかなと思います。
ただ、20数年の間にお互いにいろいろな経験をして、いろいろと変わってきた部分もあると思います。監督も私もお互いの最初の頃を知っているので、色がついていなかったところに戻りたがるし、戻したがる。私の方も女優として生きてきた分、自分なりにいろいろと役作りをしてしまう部分がどうしてもあると思うんです。監督によっては、そうやっていろいろと役作りをしてくれる方がありがたいと思ってくださる方もいます。でも松岡監督の場合はそうではないんです。何もないところから作り上げたいという方だと思うので、キャリアを重ねて、変に慣れた芝居をしてしまうようなところは邪魔な部分だったと思います。
高岡:そうですね。そういった部分は私も分かっているし、監督にも分かってしまう。私の女優としてのクセを消していくような感じでしたね。そういう意味で、昔を知っている監督と再び組むということは緊張感はあります。
高岡:これは松岡監督との関係性と一緒ですが、今回は役を演じると言うよりもできるだけフラットにいけたらいいなと思って。繰り返しになりますが、松岡監督とは小細工的なことができない関係なので、変なことしてもバレてしまう(笑)。だからできるだけフラットに存在できたらいいなと思ってやっていました。
高岡:ストーリーに何か特別なことがあるわけではないんですが、小さなことの積み重ねが結果的に心温まるものになる。やはり松岡監督ならではの素敵な映画だなと思いました。それからセットもすごかったですね。倉庫のなかにひとつの街ができあがっていて……何十年前からそこに街があったような気持ちになるんです。
高岡:私もそうだとは思いますが、特に筒井さんは松岡監督が探してきた役者と言っても過言ではないですからね。彼は『バタアシ金魚』のオーディションで受かってのデビューですから……。とにかく松岡監督は筒井さんの良いところをよく知っているなと思いました。
高岡:そうなんです。今回は直接共演はできなかったのですが、筒井さんはすごく良かったですね。本当に良かった。
(text&photo:壬生智裕)
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