1973年3月20日生まれ、ソウル出身。モデルを経て『千年愛 クミホ』(94年)で映画デビューし、『ビート』(97年/未)と、『太陽はない』(98年/未)で人気を博す。『私の頭の中の消しゴム』(04年)は日本でもヒットし女性ファンが急増。その他、『MUSA−武士−』(01年)、『グッド・バッド・ウィアード』(07年)などに出演。
20歳の純朴な女性と、彼女に愛欲の世界を見せた後、冷酷に捨て去った男を描いた『愛のタリオ』は、ドロドロとした情念とエロスに満ちたドラマティックな物語だ。孝行と美徳の物語とされる韓国民話「沈清伝(シムチョンジョン)」を、衝撃スリラー『南極日誌』のイム・ピルソン監督が大胆な解釈で映像化した。
一時の火遊びによって人生を狂わせていく男を演じたのはチョン・ウソン。『私の頭の中の消しゴム』で誠実な愛を体現し人々を涙にくれさせたウソンは、本作では一転、激しい濡れ場にも挑み、成功と金を追い求める男の本質を見事に表現している。爽やかなルックスで日本でも人気の高い彼に、本作について語ってもらった。
──本作ではあなたが演じたシム・ハッキュという男は、ソウルの大学で不祥事に巻き込まれた後に赴任した片田舎で、純朴な少女をたぶらかしあっさりと捨てる冷酷な男です。今までにない役柄でしたが、出演した理由は何ですか? 激しい濡れ場などがあることに躊躇はしませんでしたか?
ウソン:民話「沈清伝」を、主人公たちの愛にフォーカスして現代に置き換えた物語ということで興味津々でシナリオを読み、とても奇抜なアイデアだと思いました。その一方で、読み終わった後に「あー、シム・ハッキュを演じてはダメだな」とも思いました(笑)。
ただ、そうは言いながらも実はこのシナリオが非常に面白かったのでとても惹かれてはいたんです。それで「あ、シム・ハッキュを演じたらこういう面白さがあるんだ。こういう感情を味わえるんだな。こういう表現を見せることができるんだ。そしてこんな風にイメージが形成されて確信が生まれているのに、今目の前にあるシナリオを選択しなかったらもうこんなシナリオにいつ巡り合えるだろう?」と考える自分もいた。それに、今シム・ハッキュを演じるからこそ貪欲で放蕩した姿を見せられるわけで、「これ以上年齢を重ねたときにこういう役ができるだろうか?」と思って出演を決めました。ですので選択する際に、父親役だから、とか、ベッドシーンがあるからというようなことでは一切悩みませんでした。
ウソン:そうですね。シム・ハッキュを演じながらひとつのポイントだけに集中するということはできませんでした。ハッキュの置かれる状況は、俳優としても初めて演じたものでしたし、1人の人間としても共感できない、認めがたい、そんな部分もあったので、ハッキュをしっかり理解することに焦点を置いた気がします。そして、上っ面だけで遠回しに表現するよりは、直接的に、より強烈に表現をしようと努力しました。
ウソン:ハッキュがドクに抱く感情は複合的ですね。イキイキとした若い女性が近づいてくることが可愛いかったり、遠ざけたいのに近づいてくるから好奇心も生じる。もちろん欲情もして、好きだという気持ちもあると思います。
ソウルの大学に復職することになったときもドクを愛していたが、その関係を整理する都合の良い言い訳が生じたわけで。ドクを説得する過程ですごく傷つけたし、ものすごい罪悪感からドクに対して完全にそっぽを向くことができたのかもしれない。
私たちの関係、行動を単純な言葉で定義することはできないと思います。色々と複合的な理由が衝突して、そのなかで、ある人間は本能に従い、ある人間は理性を保とうとして刺激的な気持ちを自分から遠ざけようとするでしょうし……。人間は複雑ですね。
ウソン:演技が難しいというよりも、目の疲労がすごかったです。視力がなくなっていく過程のディテールを逃すまいと心掛けたので。むしろ後になって自分で映画を見て驚きました。物語後半は、キャラクターにかなりのめり込んでいたなぁと思いました。なぜなら普段と瞳孔の位置が全く違ったんですよ(笑)。視覚障害を持っている方々が視力を失っていく時の瞬間を実際に表現しようと努力しました。
ウソン:俳優はキャラクターの服を着てカメラの前で最善を尽くす時、その本質が生きるのだと常に信じてきましたが、今回の作品ではそうした僕の普段の考えが盛り込まれた挑戦を十分に見せることができました。観客の皆さんに楽しんでいただければと思います。ありがとうございます。
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