1968年フランスに生まれる。映画製作プロダクションを経て、1996年短編『Le mur』で脚本・監督デビュー。一作目にしてフランス映画の最高峰とされるセザール賞にノミネートされ注目を集める。その後4本の短編を制作し、『En mon absence』(01年)は世界最古の短編映画祭クレモンフェラン短編国際映画祭の審査員特別賞を獲得。ベネチア国際映画祭に出品した『Sous le bleu』(04年)は再びセザール賞にノミネートされた。本作『涙するまで、生きる』は、ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品、トロント国際映画祭2014 SPECIAL PRESENTATIONS部門出品など多数。
ノーベル賞作家アルベール・カミュ。燻し銀の魅力を放つヴィゴ・モーテンセン主演の『涙するまで、生きる』は、彼の短編集「転落・追放と王国」の一編をもとにした作品だ。
舞台となるのは、1954年から62年にかけて勃発したアルジェリア戦争。当時フランス領だったアルジェリアが独立を求め戦うも、様々な思惑が交差して凄惨を極めた。アルジェリアに生まれ育ち、激化する戦いに胸を痛めていたカミュは停戦を呼びかけるも、裏切り者と罵られることに。以後、戦争に関して沈黙を余儀なくされた彼だが、「転落・追放と王国」には彼の真意が込められている。
フランスにとっても長くタブー視されてきたアルジェリア戦争を正面から取り上げたのは、新進気鋭のフランス人監督、ダヴィド・オールホッフェン。不毛な戦いのなかで、人と人とがわかり合うことの意味を問い掛ける本作について、語ってもらった。
監督:この作品は、私が初めて読んだカミュの短編小説「客」が原案になっており、ウエスタンをイメージしたんです。それは、間違いなく旧来型にとらわれることのないウエスタンで、ヨーロッパの歴史をなぞって、北アフリカの高原地帯を背景にするような感じでした。開拓者と入植者がいて、囚人が連行され、ストーリーは螺旋のようにして暴力に向かって行きます。二つの異なる社会のルールが衝突するところ、そしてそこに生きる人々が、この映画の中心になっています。私たちは、歴史によって、その二つの異なる文化とモラルが共存させられる様子の証言者となるのです。
監督:アルベール・カミュの「客」は、素晴らしい作品です。この短編は、一晩の設定でダリュとモハメドと憲兵の3人の登場人物に集約されています。動乱の始まりでアルジェリアが大混乱している最中、憲兵がダリュに殺人容疑がかかっているモハメドを最寄りの町の裁判所に連行するよう命令します。
監督:カミュの物語が書かれたのが1954年7月、アルジェリア戦争が勃発する前のことです。それは、戦争がもう直ぐ始まる事を予感していた男が書いた内容です。でも、彼は戦争について直接的に話すことはしませんでした。
監督:映画にする為にこの物語を脚色するということは、登場人物をふくらませて物語をもっと豊かにすることでした。心に浮かんだ最初のイメージは、その物語の状況や景色でした。それはウエスタンのイメージで、危険な空気や緊張感が漂う広大で過酷な環境の中、生と死の狭間で自分自身が引き裂かれる思いを抱えながらも、無骨だがプライドを持った男たちを思い浮かべました。
私はこの2人の登場人物を、これから始まる戦争の混乱のなかに投げ入れてみました。生き残ろうとする本能が最も重要な状況に、彼らを落とし込んでみたのです。そして最も大きな変更は、ダリュとモハメドとの関係性です。それにより、カミュの物語とははっきりと違ったエンディングになっています。
私は原作に書かれている言葉を変えていますが、カミュの精神に近い考えは残すように心掛けました。その考えは現在に通じるものがあります。人情であったり、不正に対する非難であったり、そして特に、道徳的な関わりやその判断がとても難しい事を訴え掛けていると思います。
監督:この物語が世界に通用すると考えてからは、ヴィゴ・モーテンセンのような俳優が、主人公を抽象的に演じてくれるのではないかと思いました。それは、自分自身を強制的に、フランスの歴史においての一つの出来事を単純に探究することから離れさせようとしたのかもしれません。彼は所謂カメレオン俳優で、様々な人格になることが出来て、役に対する熱意と内面的なアプローチが完璧だと思います。私は彼が流暢にスペイン語を話せることは知っていましたが、フランス語も話せるとは知りませんでした。彼のフランス語は完璧でした。脚本を気にいってくれて、彼に会った時、私の目の前にダリュがいるようでした。俳優としての能力の高さの他に、彼以上にこのストーリーの様々な角度と、ウエスタンとの関係性を伝えることが出来る人間はいないと思いました。
監督:撮影はモロッコ側の広大でゴツゴツしたアトラス山脈で行いました。また、映画の冒頭の学校のシーン以外は、屋外の自然のロケーションで、主に自然光を使い撮影しました。多くのシーンが夜明け或いは夕暮れなのも、この物語自体がその印象に合っているからだと思います。広大な砂漠は印象的で、あたかも物語の脇役のような役目をしてくれました。燦々と輝く北アフリカの太陽は美しいのですが、天候がよく変わるので気まぐれな仲間のようでしたね。
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