1990年8月8日生まれ、兵庫県神戸市出身。ロックバンド「黒猫チェルシー」のヴォーカル。映画『色即ぜねれいしょん』(09年)で主演に抜擢され、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。NHKドラマ『まれ』、CM『日本経済新聞・田中電子版』等に出演。今夏には初舞台・初主演となる『男子!レッツラゴン』を本多劇場にて上演。また、映画『モーターズ』(15年)では、監督・脚本・編集をつとめるなど幅広い領域で才能を開花させている。
NHK連続テレビ小説『あまちゃん』のチーフ演出をつとめた井上剛が監督した『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』。福島で被災し神戸で避難生活を送る女子高生が、仲間と共に故郷を目指す旅路を通じ、希望を見つめ直す姿をみずみずしいタッチで描いた作品だ。
本作で主人公たちに同行することになった教師・岡里を演じたのは、黒猫チェルシーのボーカルとしても人気を博す渡辺大知。神戸と福島の2つの震災を描いた本作について、渡辺に聞いた。
渡辺:神戸と福島の二つの震災を描いているというのを聞いたうえで脚本を読みました。震災ドラマというと固いというイメージがあって、読む前はそういう先入観を持っていたんですけど、本作は、さわやかに描かれていて素晴らしいと思いました。ひとつの青春映画のように描かれていて、子どもたちに感情移入ができるところがいいなと思いました。
あと、さわやかな青春映画のようだからこそ、福島や神戸の街や、その現実みたいなものが浮き立っている気がしました。実際、神戸や、僕がまだ行ったことのない福島県に行って撮るとなるとどうなるんだろう、という感じでしたね。福島の被災地に行ったことがなかったので、なおさら想像ができなかったです。撮影には考えすぎないで行こうと思いました。
渡辺:難しいというよりも、やっぱり自分の知ってることや、想いでしか演じることはできないので……。実際にそういう経験をした方はいると思いますけど、そういう人になろうというよりも、そういう人を解ろうと思って演じました。
渡辺:脚本を読んだときは、どんな風になるか、被災地でこのセリフをどう言うのか、というのは想像できなかったんですけど、それでも、色々と何となくイメージしながら現場に入ったんです。でも、井上さんにはそうやって自分が用意していったものを、全部剥がされました。演技してるんだけど、演技とかじゃない、僕がもともと持ってるものだけで、渡辺大知として映されたっていう感じがありました。
撮影中、一番印象的だったのが、「これどういう映画になりますかね?」って途中で井上さんに聞いたら、「まったく想像できないねぇ!」って返ってきたんです(笑)。でも、「どういう形になるかは分かんないけど、確実にみんなの心が動いているところが撮れている」っていうことは言ってらっしゃって、すごく信頼できたんですよね。
分かんないって言える監督って、なかなかいないと思うんです。普通、「どういう映画になるんですか?」って聞かれたら、答えようとするんですけど、井上監督は「ちょっと、分かんないですね。俺も知りたい!」って(笑)。あー、この人信用できるなーってすごい思いました。「分かんないから、俺も分かりたいから、一生懸命やる」みたいな感じでした。だから、とにかく僕も、演技をしようとかそういうのじゃなくて、目の前の現実を、歩いてる道路とか、見えてる家とか海とかそういうのを見ていこうっていう意識になったんですよね。撮影を重ねていくにつれて、感じようとか、無理に何かを思わなきゃっていう風には、あまり思わないようになっていきました。僕は単純に、生きていて、この知らない土地に来たっていう。自分の見たことのない場所を見ているっていうだけだというか……そういう意識になっていきましたね。
渡辺:みんな、本当に大人で、大人すぎるくらい大人で、僕が一番子どもみたいな感じもするくらいでした。だけど、例えば前田航基君なんか子役からずっといろんな仕事をしていて、演技も慣れてるんです。監督は、そういうのを全部剥いでいく演出をする人だったので、一人のイチ学生に立ち返させられている感じがあって、戸惑ってましたね……。けど、みんな本当一生懸命やっていました。
みんなを繋ぐ役として、僕もだんだん本当の先生みたいになっていきました。あと、男2人(柾木玲弥さん、前田航基さん)は、撮影が終わったら、ホテルの僕の部屋にノックしてきて、相談室みたいな感じになってたんです。「今日の撮影があんまちょっと……。俺、できてなかったかもしれないっス」みたいな(笑)。だんだん先生みたいになってきましたね。
石井杏奈さんは、みんなと話しているけど、ワイワイするような性格でもなくて、すごく真面目な人でした。一日一日、自分が今日見た景色とかを、自ら掴んでいこうとしてる、食らいつこうとしてる感じがして、一番若いけど、かっこいいなぁと思いました。
渡辺:最初はみんな、不安があったように思ったんです。不安ゆえにみんなと喋っちゃうみたいな、そういう雰囲気がありました。僕は途中まではそういう輪に入らないようにしていたんです。でも、賑やかすぎたのか、監督の指示で途中から移動の車両がバラバラになってしまって。それでみんなが、「あっ! ちょっとダメだったかな……」って静かになってから、意識してコミュニケーションとるようにしていきました。
僕らは別に無理に合わせていく必要はないと思います。ただ、おざなりになってしまうのだけはよくないので、この作品に誠実に向き合うことができたらと思って、バラバラの車両になってから、一人ひとりとコミュニケーションを取れるように、みんながわりと近いところにいれるように心がけていきました。
渡辺:本作はフィクションでありながら、本当にナマな人たちが出てくるというか、ナマな人たちが映ってしまっているところが魅力だと思います。そういう意味で、作り物の映画っていうのを飛び越えた魅力がある作品だと思うので、そういうところを見てほしいです。
例えば、避難して人がいなくなってしまった住宅地に櫓が組まれて、お祭り騒ぎが行われて花火が打ちあがる夢のようなシーンがあるんですけど、そういった夢のようなシーンがあるからこそ、フィクションにしかできないことだけど、ドキュメンタリーよりもリアルを感じさせられるような瞬間がたくさんあって、そういうとうころが見てもらいたいところかなと思います。
震災を描いているドラマですけど、明るい作品になっているので楽しんで見てください。
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