『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』イアン・マッケラン インタビュー

76歳名優が演じる“誰も見たことのない名探偵”

#イアン・マッケラン

演じたのは最も新しく、最も年寄りのシャーロック・ホームズ

30年前に犯した人生最大の失敗──穏やかな晩年を送っていたシャーロック・ホームズが、自らを引退へと追い込んだ事件に再び挑む姿を描いたのが『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』。真田広之の出演も話題となっている注目作だ。

探偵史上最も有名な人物を演じるのは、『ロード・オブ・ザ・リング』などで人気の名優イアン・マッケラン。ロンドンのベイカー街から離れ、イギリスの田園地帯で暮らす“誰も見たことのない”引退後のホームズを演じた感想などをマッケランに聞いた。

──誕生から約130年を経た今も絶大な人気を誇る探偵シャーロック・ホームズを演じた感想は?

『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』

マッケラン:探偵と言えば名探偵ポワロやミス・マープルがいますが、シャーロック・ホームズがその元祖だと思います。子ども時代は、シャーロック・ホームズを読んで育ちましたし、初めは初期の映画を見ていました。そのうちシャーロック・ホームズのテレビシリーズが始まり、毎週のように見ていました。俳優としての自分に多大な影響を与えたのが、ジェレミー・ブレットがホームズを演じたシリーズです。60年代か70年代だと思いますが、ジェレミー・ブレットは非常にロマンティックで、外見が良く鉤鼻の俳優でしたね。彼はシャーロック・ホームズの別の一面、不穏な一面を表現しました。ホームズの暗い一面を。薬物を摂取し、女性との交流を避け、異常なほど精神的に乱れたホームズです。
 そのことは、常にシャーロック・ホームズに当てはまると思います。彼はどちらかというと落ち着きのない人物で、自分の持つエネルギー全てを、レーザー光線を当てるように、あるいは小型の望遠鏡で覗くように、問題に集中させるような男です。そしてもちろん、それ以来数多くの優れたシャーロック・ホームズが現れました。シャーロック・ホームズを演じた俳優は数百人もいます。私も彼らの仲間入りをしました。最も新しいホームズです。もっとも、一番年寄りですが。ですから、私は今回の映画でいくらか貢献したと思います。ですがもちろん、これはコナン・ドイルによって執筆された作品ではなく、オリジナルのシャーロック・ホームズではありません。シャーロック・ホームズのアイデアを使った物語です。この映画で、観客は本物のシャーロック・ホームズがどんな人物だったかが分かりますよ。

──シャーロック・ホームズがどんな人物だったか分かるのですか?

マッケラン:そうです。映画の中で、ホームズが友人のジョン・ワトスンに不満を漏らすシーンがあります。ワトスンは、ご存じのように、ホームズに関する本を書くのですが、その本が必ずしも本当のシャーロック・ホームズを伝えていないと言うのです。本作品に描かれるホームズは、本物のホームズはこうであったかもしれないという可能性の提示です。探偵として活躍した絶頂期、そして引退して衰えた老人として登場します。

記憶力の低下とたたかい、不安で眠れない夜が続く
『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』

──最近ではベネディクト・カンバーバッチのテレビシリーズ『SHERLOCK(シャーロック)』も人気ですが、ご覧になったことはありますか?

マッケラン:見ていないのですが、ワトスンを演じたマーティン・フリーマンは良き友人ですから、見ていないなんて、大きな声では言えません。見ていないことを、彼に知られたくないんです。いずれ見る予定ですよ。
 良き友人であるロバート・ダウニーJr.の演じたシャーロック・ホームズも見ていません。シャーロック・ホームズを演じた俳優は数百人もいます。舞台でも、映画でも、ラジオでもね。ジョン・ギールグッドは偉大なイギリスの古典劇の俳優ですが、彼もシャーロック・ホームズを演じています。他にも多くいますね。

──本作は、今までのシャーロック・ホームズの物語とはどこが違いますか?

マッケラン:この物語はホームズの絶頂期に始まります。能力は少しも衰えていません。ある若い女性が巻き込まれる事件に直面し、どういうわけか、彼は初めてその女性に心奪われるのです。そして、彼の推理は不調になり、事件の核心から外れ、感情的に動揺します。この事件は解決され、友人のワトスンが物語を書き上げます。しかし、ホームズはそれが事実に基づくストーリーではなく、何かが間違っていることを悟ります。その後、ホームズは引退し、再び別の事件解決に乗り出すこともせず、田舎で隠遁生活を送ります。この映画に出てくるホームズは、90歳を超えていながらも、いまだに最後の未解決事件に苦しんでいるんです。彼は記憶をたどり、事件の断片を再び集め始めようとします。
 過去について自問自答する点が、老人である私にとっては非常に魅力的に映りました。あの世に行く前に、シャーロック・ホームズは最後の事件の解決を試みるのです。観客は、洞察力と、詳細な手がかりに対する注意力を使って事件を解決するシャーロック・ホームズを見て興奮します。彼は何一つ、見逃しません。ですが今回の事件では、彼の心が関連してきます。歳を取るということにつきまとう困難、そして、記憶力の低下とも戦うことになります。不安で眠れない夜が続きます。ですが、今作では若い助っ人に彼は助けられることになるんです。10歳の少年にね。ハハハ。彼は非常に活動的で、シャーロック・ホームズが失った生命力と、決意を持っているのですよ。そう、この作品は感動的な物語です。

イアン・マッケラン
イアン・マッケラン
Ian MacKellen

1939年5月25日生まれ。イングランド出身。1961年に俳優としてのキャリアをスタートさせ、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの看板俳優として、『マクベス』や『オセロ』に出演。映画の出演本数は40作品以上で、『リチャード三世』(95年)では、製作総指揮、共同脚本、主演を務めた。『ロード・オブ・ザ・リング』三部作(01、02、03年)のガンダルフ役でも知られ、01年の作品では米アカデミー賞にノミネートされた。88年にゲイであることをカミングアウト。ゲイの法的・社会的平等を求めてロビー活動をするイギリスの慈善団体ストーンウォールの共同創設者である。91年、演劇界への貢献が称えられ、ナイト爵位を受勲。07年、ドラマと平等への尽力が称えられ、エリザベス女王より名誉爵位を受勲した。