『パーソナル・ショッパー』クリステン・スチュワート インタビュー

若手トップ女優が、セレブであることの葛藤を吐露!

#クリステン・スチュワート

出演の話をもらった時、すごく興奮した

フランスの鬼才、オリヴィエ・アサイヤス監督の最新作は、監督自らが「挑発的」と称する賛否両論の内容で、昨年のカンヌ国際映画祭を揺るがした。

主人公は、忙しいセレブに代わって服やアクセサリーを買い付ける“パーソナル・ショッパー”としてパリで働く女性。ある出来事から、別人になってみたいという秘めた欲望を解き放ってしまった彼女の身に起こる不可解な出来事が展開する。

セレブとファッション業界と殺人事件を描いた、華麗かつミステリアスな本作について、主演したクリステン・スチュワートに語ってもらった。

──オリヴィエ・アサイヤス監督と組んだ前作『アクトレス 〜女たちの舞台〜』で演技派女優という称号を得たわけですが、そのわずか2年後に、再びオリヴィエ・アサイヤス監督作品に出演することになると予想していましたか?

『パーソナル・ショッパー』撮影中のオリヴィエ・アサイヤス監督

スチュワート::いいえ。でも、アサイヤス監督が同じ役者やスタッフを起用するのが好きなことは知っていたわ。だから、心のどこかで、また出演できることを願っていた。『アクトレス』の撮影現場ではとても気が合ったし、遅かれ早かれ、またすばらしい企画で一緒に仕事ができるだろうとは思っていた。だけど、まさかこんなにすぐとは思わなかったわ。私は、監督のプロデューサーを務めるシャルル・ジリベールと仲がいいの。彼が、監督が新作の脚本に取り掛かっていることを教えてくれた。『アクトレス』のためにカンヌ国際映画祭に参加していた時だと思う。正直、あれほど結束力の強いチームと出会ったのは初めてだったし、みんなと離れたくなかったわ。お互いに支え合っていたの。私はとてもラッキーだと思う。『パーソナル・ショッパー』への出演の話をもらった時、驚きはしなかったけど、すごく興奮した。チームの一員として、また一緒に経験したいと思ったの。

──アサイヤス監督は、単なる女優としてだけでなく、監督が常に描きたいと願っている現代的な若い女性像を具現化する理想の人物として、あなたを捉えているような気がします。同じように、あなたにとって、彼こそが常に求めている監督だと言えますか?

スチュワート::間違いなくそうね。私たちは多くの人たちと一緒に仕事をするけれど、私と監督の間には言葉ではないコミュニケーションが成立するの。監督と女優にとって、とても望ましいことよ。あまり話さなくても、お互いを理解して、同じ関心事や似たような好奇心を共有している。アサイヤス監督と一緒に仕事をするのは本当に楽しいわ。

人生で最高の瞬間は、いつも悲惨な出来事の後にやってくる
『パーソナル・ショッパー』
(C)2016 CG Cinema – VORTEX SUTRA – DETAILFILM – SIRENA FILM – ARTE France CINEMA – ARTE Deutschland / WDR

──監督から直接オファーされたんですか?

スチュワート::私のために簡単な脚本を書いている、気に入ってもらえたらうれしいと監督は言ったわ。脚本を受け取った時は、すごく怖かった。だって(プロデューサーの)シャルルや監督に向かって、この作品は私には向かないと言って断るなんて想像できないでしょ。幸い、そんな心配は全く必要なかった。読んですぐに、とても感動したの。『アクトレス』とは全然違うものだった。監督のことを知ったつもりになっていたけれど、どうしたらこのような物語を思いつくのかわからなかったわ。監督にはまだまだ隠された面があることに驚いた。この作品はすごく静観的な映画よ。監督独自の方法で、目に見えない世界を想起させることに成功している。『アクトレス』よりもさらに個人的な映画だと思う。知性ではなく、肉体的感覚に訴える人間的な作品なの。監督は理性的で、この作品中でとても私的な感情を表現した。

『パーソナル・ショッパー』
(C)2016 CG Cinema – VORTEX SUTRA – DETAILFILM – SIRENA FILM – ARTE France CINEMA – ARTE Deutschland / WDR

──あなたが演じた主人公のモウリーンは、卓越したファッションセンスをもち、セレブのために高価な服飾品に日々触れるという、我々から見たらちょっとうらやましくなるような仕事をしています。けれど、彼女は“パーソナル・ショッパー”であることに若干うんざりしていて、タブーを犯し、顧客である人気女優・キーラの服を試しに着てみることをやめられず、それを楽しんでいますよね。

スチュワート::嫌いであると同時に魅了されているの。アイデンティティの危機に陥っているのよ。彼女が消費社会の浅はかさを非難するフェミニストではないところが気に入っているわ。彼女は自分の中の葛藤を抱えているの。キャリアが形になり始めて、この世界にとても魅力を感じているのだけれど、そのことを恥じている。私も時々そう感じるし、誰しもがある程度は感じたことがあることだと思う。現代ファッションの世界で繰り広げられる物語だけど、1930年代のハリウッドでも起こり得たことね。その当時のほうがマシかどうか分からないけど。人間はいつでもキラキラ輝くものに心惹かれるものでしょ。小さな蛾のように。

──本作はとても変わった方法で自由を見つけようとする若い女性の自己解放の物語でもありますね。

スチュワート::そうね。私の人生で最高の瞬間はいつも悲惨な出来事の後にやってくるの。トラウマを抱えるような体験の後に、心の静けさや心満たされる瞬間を得られることってよくあるでしょ。死にそうな体験をしたら、自分が生きていることをより強く実感するものよ。映画の終わりには、たとえ探していたものを見つけられなかったとしても、モウリーンはやっと再出発することができるの。

クリステン・スチュワート
クリステン・スチュワート
Kristen Stewart

1990年4月9日生まれ、アメリカのロサンゼルス出身でテレビプロデューサーの父と脚本家の母をもつ。幼い頃からテレビ映画などに出演し、2002年デヴィッド・フィンチャー監督作『パニック・ルーム』ではジョディ・フォスター扮する主人公の娘を演じ注目を浴びる。ステファニー・メイヤー原作のヤングアダルト小説を映画化し世界的成功を収めた『トワイライト〜初恋〜』(08年)に出演し人気を得る。また同シリーズ『ニュームーン』(09年)、『エクリプス』(10年)にも出演し、不動の人気を獲得。その後も、『スノーホワイト』(12年)、『アリスのままで』(14年)など順調にキャリアを積み、オリヴィエ・アサイヤス監督による『アクトレス 〜女たちの舞台〜』(14)では、アメリカ人女優として初めて仏セザール賞の最優秀助演女優賞に輝いた。