1994年5月4日生まれ、千葉県出身。2003年にドラマでデビューし、数々のドラマや映画、舞台などで活躍。ギャラクシー賞テレビ部門個人賞、ブルーリボン助演女優賞、エランドール賞新人賞など多数受賞。近年の出演作に連続テレビ小説『ひよっこ』(17)、『全裸監督』(19年、21年)、TVアニメ『映像研には手を出すな!』(20年)、『いいね!光源氏くん』(20年、21年)、『ミステリと言う勿れ』(22年)、『拾われた男 Lost man Found』(Disney+・BSプレミアムで配信&放送中)、映画『タイトル、拒絶』(20年)、『ボクたちはみんな大人になれなかった』(21年)、『ちょっと思い出しただけ』(22年) 、『映画ざんねんないきもの事典』(声の出演/22年)、『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』(日本語吹替版/7月29日公開)、『女優iの憂鬱/COMPLY+-ANCE』(9月2日公開)など。8月7日より舞台『世界は笑う』(作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)に出演。ドラマ『ももさんと7人のパパゲーノ』(NHK)が8月20日より放送。
ガチで埋められたのは人生初めての体験!
現在放送中のNHKドラマ『ひよっこ』で米屋の娘・安倍さおりを演じている女優・伊藤沙莉。彼女が、不幸街道を突き進みながらたくましく生きるヒロインを演じた映画『獣道』が7月15日より公開される。どん底でもがく映画人たちを描いた『下衆の愛』の内田英治監督がメガホンを取った本作は、地方を舞台に親から見捨てられカルト教団の施設で育ったヒロイン・愛衣が、ヤンキーや風俗嬢を転々としながらも居場所を求めて生きる姿をユーモアを交えて描いた青春群像劇。
9歳で子役としてデビューし『女王の教室』や『GTO』などに出演してきた伊藤が、これまで以上に幅の広さを要求された役柄や主題歌、トップレスヌードなど「初めて尽くし」という撮影を経た心境を語った。
伊藤:内田(英治)監督とは(撮影時から)2年前に『家族ごっこ』で一緒にお仕事をさせていただいて、今回「やりませんか?」と台本をいただいて読んだら面白くて。前回は気に入っていただいた感触がなかったので、「何で私を?」と興味も沸いて、もう一度お仕事を してみたいと思いました。
伊藤:はい。なので、撮影前は覚悟が必要でした。終盤になると色気も要求されましたし、今までやったことのないジャンルで初めてのことがたくさんありすぎて。演じる上では内田さんから「同人物には見えないよういしたい」と言われていたので、コロコロと別人になる中でも、常に寂しさは感じさせるように意識していました。
伊藤:トップレスで“出した”ことも“勝負”と思ったシーンのひとつで、初めてで簡単なことではなかったので、撮影前は監督とシーンの理由や意味を話し合いました。監督自身、そこはこだわりを持っていて、「もしその描写がなければこのシーン自体なくていい」と言っていました。実際演じてみると、そこがなかったらおかしいし、例えば隠したりカメラアングルで見せないようにしても気持ち悪いシーンだと思ったので、やって後悔はないし、むしろ良かったと思います。
伊藤:ヤンキーファミリーです。亮太(愛衣に恋心を抱いていた不良少年/須賀健太)と再会してすっかり変わった姿に驚かれるシーンもあるので、そこは「同じ人?」と思ってもらえるように“ギャップ”は意識しました。その後は転落していく感じでしたが、ヤンキーになった頃はまだ希望を抱いていて、やっと自分が見つけた居場所で家族の一体感を期待してしがみついているというか……。だから、彼氏の家に遊びに来た亮太の前で愛衣が彼氏と“そういう感じ”になっちゃうシーンは辛かったです。亮太が見ているところで自分もそうしないとここにいられなかったので、撮影が終わっても気持ちを切り替えられずに涙を抑えられなくて。そういう経験は初めてでした。
伊藤:私自身もさすがに埋められたのは人生初めてで、ガチで埋めるんだと驚きました。あ、そこでも泣きました(笑)。やっぱり怖かったですし、愛衣としてなるべく怖さは出さないようにしていましたが、実際、穴に横たわって準備した時点で本当に怖かったです。夜中だし森だし、あそこは「埋まるんだ」って変に覚悟を決めました。でも、本当に素敵な経験をさせていただきました。埋められる前に生かすかどうか多数決のアンケートを取る場面があって、そこで手を挙げられる愛衣が面白いしかわいかったです。
伊藤:ありました。私自身はヤンキーではないですけど、例えば交友関係を知っておかないとダメな所は「あるある」だと思いました。台本を読んでいる時から「わかる」というものが多くて「『○○中?』って聞いた後に、『××先輩知ってる?』」というやりとりとかすごく分かります。更生する仲間もいればどっぷり悪の道に入ってしまう子もいるし、けっこうヤンキーあるあるが詰まっていてリアルな地方の話だと思います。
伊藤:ここまでがっつりと複雑な感情を持った人物を演じるのも初めてでした。イタリアの第19回ウディネ・ファーイースト映画祭でも上映されて、 人生で初めて海外にも映画祭にも行かせていただいて、本当に“初めて”が詰まった作品だと思っています。映画の宣伝活動にも携わらせていただいて、考えや意識が変わって女優としてさらに自覚が増していきました。
伊藤:そうなんです! まさか主題歌で、しかもラップとは思わなかったから驚きました。
伊藤:役作りでは、今までインプットしている人を真似て演じることがありますが、(子役をしていていたこともあり)小さい頃から出会いに恵まれていたので、その分お手本にする人も多かったです。ちょっと変わった役の時に「あの人のしゃべり方はこのセリフに合う」とか考えられるのは良かったな、と。たまに、小さい頃からやっていることを邪魔に思ったりもしましたが、そうやって積み重ね来たことで今こうして女優業ができていると思うと、続けてきて良かったと思います。この作品に出会えたことでさらにそう思えました。
伊藤:『獣道』の後にダークな役が続いて、それこそもう一度埋められました。その時は畳の下だったので、森よりは環境が良かったですけど(笑)。そういう愛に飢えた役がちょっと続いた後に『ラストコップ』を経て『ひよっこ』なので、グラデーションになっている感じがします。
伊藤:愛衣とさおりでは真逆だと思います。愛衣は愛に飢えているのに対してさおりはお父さんと喧嘩はしつつも愛情には富んでいるので。自由だけどさみしさを抱えている愛衣と自由はないけど誰かに愛されているさおりとの違いはあるし、そういう人物を演じられて嬉しいです。
伊藤:さおりの印象が強い方はすごく強気でちゃきちゃきとした女の子のメージがある方も多いと思いますが、この映画の愛衣も見て「ここからここまでできるんだ」と幅を知っていただけたら嬉しいです。さおりと愛衣とでは寂しさや抱えているものも違うので、生きている世界が違う2人を比較して見ていただいても面白いと思います。
(text&photo:中村好伸)
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