1972年12月28日生まれ、京都市出身。舞台、映画、ドラマで活躍。『赤目四十八瀧心中未遂』(03年)、『ヴァイブレータ』(03年)で第27回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ国内外で多数の映画賞を受賞。『キャタピラー』(10年)で、日本人として35年ぶりにベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞。その他の映画主演作に『やわらかい生活』(06年)、『愛の流刑地』(07年)などがあり、『ぼくのおじさん』(16年)、『幼な子われらに生まれ』(17年)などでも活躍。2018年は「秘密の花園」、「ヘッダ・ガブラー」と舞台の主演が続き、映画は『のみとり侍』が5月18日より公開予定。
会社と自宅アパートを往復するだけの単調な毎日を送る43歳独身OLの節子。ひょんなことから英会話教室に通うことになり、そこでアメリカ人のイケメン講師・ジョンと出会う。彼から金髪のカツラを手渡され、「ルーシー」と名づけられてハグされた瞬間、死んだように生きてきた節子の中で何かが大きく変わった。
昨年の第70回カンヌ国際映画祭批評家週間で上映され、注目を集めた『オー・ルーシー!』がついに日本公開される。サンフランシスコ在住の平柳敦子監督と主演の寺島しのぶに話を聞いた。
平柳:2016年の夏ですね。寺島さんが舞台をやっていた時です。
平柳:はい。で、会いたいと言ってくださって。
平柳:たぶん同じだったんだと思うんです。彼女が最近、「動物的本能」とかって言っていたのを聞いて、私も全く同じだったので。
寺島:なんか気が合うなって。気……人としての気が合うというか、直感で動いてる人間だと思ったんですよね。
平柳:ふーん。
寺島:違うこと言ってました?
平柳:ううん。自分のことを直感で動く人間だって言ってた。で、私のこともそういう人間だと思ったんでしょうね。確かに私も直感で動くんです。
平柳:全く同じですね。臭覚で例えると、匂ってましたね、すごい(笑)。プンプンね。
寺島:すごく面白かったですね。長編を撮ることになった経緯も聞いて、監督が求めてくれるなら、やりたいと思ってました。でも人見知りなんです。
平柳:うん、人見知りする。
寺島:最初に会った時、仲介してくださった方がいたんです。その方が「自分ばかり喋っちゃったから」と、その後またセッティングしてくれたんですが。
平柳:でもその人がまた喋ってましたね(笑)。
寺島:そう(笑)。結局、私たちは現場までほとんど話さなかったですね。
寺島:いびつだなと思いました。これ絶対にやりたい!というパンチよりも、空白がいっぱいあったんです。この空白はすごく役者に任せてる書き方だと思って、そこが好きだった。
平柳:よくわからないですけどね、どういう台本なのか。
寺島:こうしなければならない、みたいなことが全部細かく書いてある台本のことです。でも彼女の脚本は結構余白が見えて、その部分は楽しめるな、と思ったんです。
寺島:桃井さんとは何回かお仕事でご一緒しているんですけど、桃井ワールドに取り込んでいくのがすごく上手な女優さんなんです。桃井さんは自分で内容を読めるし、変えるし、そういうことを楽しめる女優さんです。あの短編は傑作ですけど、私が演じる時は、そうはならないのは自分でもわかってる。監督と気が合いそうだから、ディスカッションしながら、お芝居を組み立てていけば、自ずと全く違ったものになるんじゃないかと思いました。
平柳:ただ、実はそんなに話はしなかったですよね。リハーサルもなしで。空手の世界じゃないけど(笑)、私は1発目がどう来るのかをまず見て。どうかかってくるのか、と。
寺島:彼女は本当に空手家なんです。
平柳:勘というか、モニターを見て、すんなり違和感なく「あ、節子だ」というのが見えたので。違和感があれば、もちろんわかりますよね。それは全然なかったです。
寺島:それはやっぱり人との気なんだと思いますね。
平柳:エネルギーですね。
平柳:余裕はないです。だから本当に俳優の方たちに助けられました。毎回1か2テイクでね。
寺島:そうですね。
平柳:しかも撮影がアメリカのやり方で、カバレージ・ショットと言って、いろんなアングルから同じシーンを撮らなきゃいけないんです。あれが日本のやり方との大きな違いですよね。
寺島:なんでこんな撮るんだろう?と思いました。詳しく聞いたら、フィルムにトラブルがあった場合の保険というか、撮っておかなきゃいけない規定があるらしいんです。日本での撮影では、スタッフも慣れていないから、バタついて、時間は過ぎていく。
ただ、良い方に取ると、その鬱屈した感じが日本での節子のシーンに出たかもしれない。アメリカでは気候や土地とかからも開けていく部分も自然にあるので。節子自体も開放されていくのが肌で感じられました。毎日撮影を積み重ねていくと、監督やカメラマンとの信頼関係も出来てきて。ただ、カバレージは難しかった。「手を抜いてください」みたいに言われても、私、そういうのに慣れていなかったので。
寺島:そうなの。ハリウッドの役者さんはそれができるんです。今カメラが撮っている、この部分を頑張る。違うテクニックですよね。
寺島:生きていくのが難しそうな人ですよね。身近にいたら絶対嫌でしょ。でも、その中でもここは可愛いなとか、愛らしいな、という部分が人間それぞれありますよね。どこかに救いがあるというか。脚本を読んでる限りは相当に痛々しい女性なんだけど、読んでいて「えー、こんなのないよ」とは思いませんでした。こういうのもありかなって。一貫性はあんまり考えてなかったかもしれない。こういう一面もあっていいんじゃない?という感じでやっていた気はします。
平柳:こういう日本は見たことない、と驚く人が多いですね。どこまでが本当なのか?みたいな。日本人って、もっときれいな生活してるんじゃないの?とか。部屋に花一輪、それが日本のカルチャーだと思ってる人も結構いるので。
寺島:谷崎潤一郎の世界みたいな感じよね。そこから変わってないと思われてるのかな。
平柳:そういうジャポネスクに憧れている人たちから見たら「なんだこの日本?」。あるいは、なんでもっときれいなロサンゼルスを撮ってくれなかったんだ、みたいなことも言われました(笑)。でも、それはわざと。裏の面というか、絵ハガキに出てくるような場所じゃないところで撮ったんです。
寺島:いい人でしたよね。
平柳:うん。
寺島:すごく真摯に監督の言うことを理解しようと、一所懸命な方だなと思いました。でも私は、ストーカーみたいな役だから、撮影中はあんまり仲良くしちゃいけないなと思って、ずっと遠くからずっと見ていて。たぶん気持ち悪がられてた(笑)。
平柳:(笑)気づいてないんじゃない?
寺島:気づいてないですよね。それぐらい、すごく朴訥な人。
寺島:あんな姉、嫌です(笑)。肉親なのにあんなにいがみ合っちゃうなんて。果歩さんとも「嫌だね」って言いながら、演じていました。
寺島:いません。
寺島:長女と弟だと、やっぱり断然、長女が征服してるんです、力関係で。妹もやっぱり征服される側だから、嫌なものだなと思って。
平柳:初めて気づいた。
寺島:うん、弟は嫌だったんだろうなって思います。
寺島:懐かしい。そうです。本当に「『幽婚』以来だね」というところから始まって。でも本当に、役所さんじゃなかったら、違った映画になっていたと思います。
平柳:今オリジナル作品を書いてます。エージェントから送られてくる脚本も読んでいますが、なかなかいいと思うのがやっぱり見つからないので、やっぱり自分で書かなきゃいけないんだなっていう感じですね(笑)。
(text:冨永由紀/photo:勝川健一)
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