1985年5月5日生まれ、東京都出身。2002年デビュー、04年11月より公式ブログ「しょこたん☆ぶろぐ」を開始。女優として、ドラマではNHK連続テレビ小説『まれ』(15年)、TBS『あなたのことはそれほど』(17年)、NHK『デイジー・ラック』(18)など。声優としては、『劇場版ポケットモンスター』シリーズ、『塔の上のラプンツェル』ラプンツェル役(11年)、『トランスフォーマー』シリーズなどで、洋画吹き替えにも定評がある。06年にCDデビューし、歌手としても活躍中。新曲「blue moon」が11月28日リリース予定。
スパイダーマン最大の宿敵にして、「最悪」というストレートすぎる形容詞が似合うマーベル史上屈指のヴィランを主人公に据えた『ヴェノム』。敏腕記者のエディ・ブロックが地球外生命体に寄生され、ヴェノムとして共生していく物語で、彼を見守るのが恋人で弁護士のアン・ウェイングだ。ミシェル・ウィリアムズが演じたアンの吹替に挑戦した中川翔子に、声の仕事への真摯な取り組み方、女性としての生き方を聞いた。
中川:ああ、泣きそう。ありがとうございます。すごく嬉しいです。
中川:びっくりしました!「最高に面白い」が確約されている映画たちが積み重ねた素晴らしい歴史のある、あのマーベルの最新作です。しかも最悪と言い切っちゃうぐらい、恐らく最高であろうダークヒーローの物語にヒロインの声で参加できるなんて、めちゃくちゃうれしかったです。マーベル映画は“映画館に絶対見に行かなきゃ! わくわくを余すところなく体感するために”といつも思わせてくれる、ぶっ飛んだ面白さが約束されています。
中川:今までもスパイダーマンやアベンジャーズ、いろんなヒーローたちに興奮させていただいてきたので、『ヴェノム』単独の作品っていうのは超面白そう! と思いました。早い段階で、駅やいろんなところに「最悪」というコピーのポスターがドスンって貼ってあるのを見ていました。まさかそこにヒロインで、しかも最悪というヴェノムの恋人って一体どんな肝っ玉の強い女性なんだろうっていうことも想像しながら、わくわくしていました。
私は映画館では字幕を見ることもありますが、家で気に入った映画を何回も見るときは吹替で見て、なおかつ字幕も出して字幕と吹替のアメリカンジョークの表現の違いを見たり、台本があるとはとても思えないくらいナチュラルなシーンを探して、巻き戻して見るのも好きです。だからこそ、映画を見るときに吹替をした芸能人の顔が浮かんじゃうのは「要らない」と思います。なので、今回は光栄さと同時に、心から真摯にぶつからなければ、というプレッシャーを同じぐらい感じていました。
中川:今回は特に雰囲気が違うかもしれません。ポケモンとかラプンツェルとか、アニメ作品のお仕事をやらせていただく時には、キャラクター的にも「もっと年齢を下げて」と言われることが多いんです。お姉さんと思っていたキャラクターであっても自分の実年齢のほうが上なので。でも今回はアンのほうがお姉さんということもあるし、強くてクールで、エディに振り回されながらも、仕事もバリバリ燃えてキャリアウーマンで、恋愛も頑張って、だけど、ちょっともめたらすぐ切り替えて次の彼氏見つけちゃうみたいな、もう超かっこいい女性。だから、「年齢を上げてください」という今までとは真逆の指示が来たのがすごく難しくって。
中川:大人っぽいイコールただ低くするでもないし、彼女の表情も豊かなのでしゃべってる単語の中でもちょっとふざけてみたり。意外とすごい状況なのに冷静に努めようとしてみたりとか、パニックになるところでは思いっ切り、ぎゃっとなるし。普通だったらドン引きしちゃったり、「助けて怖い!」ってなっちゃうところでも「最高!」と言えちゃうような面白がる姿勢とかも、ほんとに吹替のシーンを演じていくうちに、アンのことがどんどん好きになりました。
中川:ファッションも髪型もメイクもすごくかっこよくって。年齢にとらわれてないというか、ミニスカートでばんばん街を走るし、恋愛だってガンガンするし。日本だと「もう30代でしょう」とか、周りの目を気にして大人っぽくしなきゃみたいなこともあるけど、彼女はほんとに、今が一番輝いてる感じで、それがすごく素敵です。だからこそ、彼女がこの状況にびっくりしたり楽しんだり、そして興奮してる様子を心からちゃんと、それこそエディとヴェノムみたいにナチュラルに融合できなきゃと思いました。
中川:なので、1回1人で全部録音したんですけど、もう1日いただいて諏訪部さんの声が入った状態で会話のキャッチボールができるような状態でやらしていただいたら、また全然変わったんです。やっぱり1人だと、どんなニュアンスなのかとか温度感がつかみきれない。距離感とか息遣いとかの感じも、やっぱりエディ役の諏訪部さんの声を聞きながらのほうが、ああ、こういう感じだなとわかって、やりやすかったです。監督さんの納得いくまで徹底的にビシバシお願いします、と申し出ました。一生残るものなので妥協したくなかったです。
諏訪部さんがトム・ハーディ演じるエディのあの色気と、ちょっと力の抜けた緩いクズさと、「素晴らしい宿主だ」と言わしめるほどの本来持った男らしさと強さと、全部を絶妙にやられてるのをやっぱりイヤホンで聞いた時に、もう引っ張られました。で、アンはこんな人と恋人同士であったけど、切り替えて次の彼氏つくっちゃうみたいな。何ならメンタルは一番強いですもんね。
中川:すごい素敵です。女子の願う「こういう女子になりたいわ」っていうところがいっぱいあって。よく男子の幻想として「元カノがずっと俺のことを好きでいる」とか思いがちだけど、あり得ないからっていうところを見せてくれていて。次に好きな人できたらどうでもいいんですよ、みたいな切り替えが「わかります」っていうところと、でもそれだけじゃなくって。人として優しいっていうのもあるけど、別れたからとバッサリ切るでもなく、エディを助けてあげようとするところも好きです。これぐらいさっぱり、そして強くいろんなこと楽しんで生きられたら、と思います。
中川:あの時まだ映像素材が日本に来てない状態で、誰も『ヴェノム』の本編を見てない状態でのプロモーションの中で、ヴェノムに中川翔子が変身する、やってみませんかっていうことだったんです。8時間かかりました。ペイント業界の中で8時間って相当早いと思うんですけど、ずっとじっとしているのはちょっと大変でした(笑)。ひとりっ子なので、生まれつき1人の時間が大好きなので、スマホで無限に映画とか見てれば全然余裕だったので、メンタル的には問題なく(笑)。でも、こういうものって自分が死んでも残る、生きた証しだから、やれたうれしさが大きいです。あのメイクは、かなりいろんな人から反響をいただいたので、本当にやれてよかったです。「ねえ、ヴェノムのメイクしてたよね、どうしたの?」と女子からもすごい言われたので、そういう「?」のフックから入ってヴェノムを知ってくれるのもうれしいです。
中川:すっごく日々考えています。20代の時は好きなことをいっぱい、絵を描くこと、歌うこと、そして興味を持ったことがお仕事につながることが多くて。それはたぶん、好きなことをブログでハッピーな遺書のように書いてたことが夢への種まきというか……。
中川:「これが好きでした」みたいなことを言ってから死んでいこうと思っていたんです。そこから始まって、いろんな夢が想像以上の形で叶って。だけど30代からって、いろんなこと1個1個ができて当たり前の世界になります。そうなると、いろいろやってると何の人だか分かんないって思われちゃうし、どうする? と会社の人とも話したりしています。でも、舞台とかドラマとか30代になってからチャンスをいただけて、すごく難しかったけど経験値もとてもあって。やってみたいこともまだ見つかるし、ますます今しかできないことだらけなんじゃないかとか。あとは仕事が楽し過ぎても、子孫は欲しいし、とか。昔、母が読んでいた女性誌に「30代は悩む」とあったけど、あ、これかっていうのが突然来た感じです。実感としては大人になってきたなって。自炊したり、健康管理したりとかもあるけど、好きなものは根源的には変わらなかったりもするから、そのギャップにも悩むし難しいところだな。世の中、20歳ぐらいで成し得ることを今やっとやっていたりするので(笑)。
中川:そうなんです。今回アンを演じさせてもらったからでもあるんですけど、化粧品や服も、おばちゃんっぽくなるの嫌だなとか思いながら避けてた色とか形とかも、いや、大人として素敵にまとえる形があるじゃないかと感じるようになりました。好きなことの道路拡張工事ができている感じがします。変わらない部分は変わらないでいたいけど、増やしていきたいなっていうところです。
中川:ありがとうございます。うれしいです。『ヴェノム』に関しては、マーベルファンの方々も、芸能人起用するの? どうなるの? と心配されているんじゃないかと思います。そういう方たちに、映画に没頭してもらえるようなアンじゃなきゃいけないと思って挑ませていただいたので、ぜひ「見てよかった。映画館で体感できて、今回もマーベル最高だな」という気持ちで映画館を後にしていただけるようにと願っています。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
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