漫画家。2007年にのちに実写映画化もされた「どうしても触れたくない」で鮮烈なデビューを果たす。他に「それでも、やさしい恋をする」や「NightS」(リブレ出版)などを発表し、BL界を牽引する存在として活躍中。BL作品以外にも青年誌「イブニング」(講談社)で「Op-オプ-夜明至の色のない日々」を連載中。
ついに劇場版が公開された『囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather』。原作はBLコミックの「囀る鳥は羽ばたかない」(大洋図書「Ihr HertZ」連載中)、フジテレビが立ち上げたBLに特化したアニメレーベル「BLUE LYNX」で劇場アニメ化されると発表があったとき、業界には驚きの声が上がった。
裏社会が舞台となっていて、メインは若頭の矢代と彼の愚直な部下の百目鬼(どうめき)の2人。飄々としているようで頭の切れる矢代は複雑な魅力を内包していて、百目鬼はどうしようもなく矢代に惹かれていってしまう。しかし、それぞれに暗い陰を持つ矢代と百目鬼は自己矛盾を抱えて生きており、2人はやがて組織の抗争に巻き込まれていく。一筋縄ではいかないストーリーと感情の揺さぶりに心が鷲づかみにされて目が離せなくなる。
この原作者であるヨネダコウに、原作誕生の逸話や、劇場版アニメへの想いからお気に入りキャラクターまで話を聞いた。
ヨネダ:実写化の話は今まで何度か来たことがあったんですが、まさかアニメ化の話が来るとは思っていませんでした。ただ、本当に実現することはないんじゃないかと思っていたんですが、あまり時間を空けずにフジテレビの方とお会いすることになって、これは実現するかもしれないと思うようになりました。
ヨネダ:一言で言えないほど丁寧に作ってくれました。初見でいきなり見たわけではなく、脚本段階やコンテもチェックさせてもらって、アフレコなども少し見て、出来上がっていく工程から見てきました。
ヨネダ:そうですね、要所要所で関わらせてもらいました。脚本の段階で「あ、これは良いものにしてくれるんだな」と感じました。原作に寄り添って深いところまで考えて作っていただき、とてもありがたいです。でも、自分がどの位置で感想を述べたらいいのか、わからないでいます。とても素晴らしいと言うには大変(原作に)寄せてくださってるので映画に昇華されているのだけど、原作にとても忠実に作ってくれています。
ヨネダ:そうですね、割愛はなかったですね。
ヨネダ:そうなんです。自分のものであって自分のものでない、別物でありながら原作とシンクロしてくれています。脚本の瀬古さんとの最初のディスカッションで、「この話を矢代の話にするのか、矢代と百目鬼の恋愛の話にするのか、どうすべきですか?」と聞かれまして。それを聞いて、そこを考えるほど原作と真剣に向き合ってくれるんだと気概を感じました。ストーリーにしても絵柄もキャラクターもできるだけ崩さないようにしているし、見る方を意識して作られたんだと思います。
ヨネダ:ラストのところで、ちょっと泣きそうになりました。ようやく矢代の感情が出てくるシーンなので。……で、あの曲じゃないですか!
ヨネダ:そうなんですよね。『囀る〜』はテーマとして極道を主体にしてるわけではなく、その実とても叙情的な内容だったりするので、ピッタリでした。原作を読み込んでくださったのが、曲から分かってありがたいです。
ヨネダ:それは矢代の方です。私もどちらにもっていけばいいのかと考えながら原作コミックを描いていたので。
ヨネダ:いえ、最初はありませんでした。一番はじめに描いた読み切りの「Don’t stay gold」では矢代は脇役だったので、この時点では背景はありません。この脇役が面白いキャラクターになったので、彼を主人公にして描こう、となりまして。矢代の話を描くのであれば高校時代の矢代から描かなきゃいけないなと思って、「漂えど沈まず、されど鳴きもせず」を描きました。
ヨネダ:私は読み切りにはオチをつけないと終わらせられないたちでして、矢代はドMの実はネコっていうオチをつけたんです。攻めっぽいインテリヤクザだけど、実はドMのネコだなんて、面白いキャラになったなって。まず恋愛しなさそうだなぁとも思いました。描くのが難しい話になるとは思ったんですが、チャレンジが好きでして。無謀なことをしたくなるんですよね。難しそう、だから描こう、みたいな(笑)。
ヨネダ:矢代の相手として漫画的に相性がいいのは三角とか、竜崎なんですよね。竜崎のようなタイプと合わせるのは、1〜2話で話を終わらせるならありかな、と。矢代の内面を深掘りしないなら。
ヨネダ:そういう分類でいうと、矢代は女王受けと言われたりもするけど、私は矢代を女王受けだと思ったことはないです。淫乱でもないですね。そう言われているし、評されているけれど。
ヨネダ:あれは自傷行為に近いです。自虐的な意味あいでやっているのだと思うから淫乱とは思わない。カテゴライズされるのはいいと思います。それで興味を持って読んでくれればいいと思っています。そこから入って読んでもらって、高校生の話の「漂えど〜」で引っかかりを感じてもらえたら良いな、と。
ヨネダ:ですね。恋愛偏差値が低い人ですね。こう言っちゃ身も蓋もないですけど(笑)。
ヨネダ:そうですね、映画ってあまり説明しないですよね、とくに海外の映画はそういうたぐいのものが多い気がします。私も想像して欲しいと思っているので、その余地を残して描いてます。
ヨネダ:それも感想だしとらえ方ですから。あとその人のその時のコンディションや年齢によってもとらえ方は違いますし。はっきり分かりやすく描かないせいか、よくそういった感想をもらいます。前はよくわからなかったけど……という。描くときも、もしかしたら違う風にとらえられるかもしれないけど、100%意図したようには伝わらないと思って描いてます。ただ、どうしてもここだけはこう受け取って欲しいというところは誤解されないように、他に受け取る余地がないように描いてます。かといって描きすぎても作風が違ってくるし、いつもそのせめぎ合いですね。作品として押しつけがましいものにはしたくないのでバランスをとりながら手探りって感じです。読む人全部にわかってもらおうというのはエゴだったりしますし。
ヨネダ:私は将棋はできないのだけど、将棋盤を挟んで読者さんと向き合っているように思ってます。「私の手、どうですか?」って。勝負に近い感じ。作品が面白いかどうかという勝負。だから信用っていうのとは違いますね。
ヨネダ:うーん、そうですねぇ、三角さんが車から降りて伸びをするところですかね(笑)。細かいところなんですけど、あ、アニメってそういうことなんだなって思いました。車から降りて伸びをするなんて漫画じゃあまり描かない、省略してしまうシーンなので。アニメだと人間臭い描写が増えるんですよね。あと、百目鬼が矢代の髪に触れるシーンも良かった。
ヨネダ:こんなにたくさんあったっけ?と思いました(笑)。漫画は時間をとばせるし、1コマに集約することもできますから。映像ってそこが難しいんだなって思いました。劇場版は、男性スタッフが何人かいらして、2人で同じポーズを写真で撮りながら描いてくれたそうです。申し訳ない気持ちになりました(笑)。
ヨネダ:ギャップ、ですかね。思い通りにいかないことやギャップに弱いです。
ヨネダ:ちょっと違います。根本的に近い何かがあるから惹かれ合うのだと思います。そういう恋愛心理学があるんですよ。最初に出会ったときはお互いの似ているところを見つけて共感して惹かれあって。私もこれが好きって意気投合したり、あるじゃないですか。そして、次には相手の自分にはない特徴に惹かれていく……。恋愛における類似性と相補性の法則です。
ヨネダ:人間って、相手の自分に近い部分にも遠い部分にも惹かれ合うという。逆に言うと、矢代と百目鬼も、一見すると違うけど、根底の部分で抱えているものが似ている2人でもあると言えると思います。何かしら共鳴する部分がないと惹かれ合わないと思うんですよね。そういう2人を描きがちかな。
ヨネダ:うーん、悩みますねぇ。でも、2人以外でなら、描きやすいのは久我と竜崎ですね、動かしやすいです。でも、お気に入りというのとは違う。うん、綱川さん(劇場版ではまだ出てこない、三和会の幹部)にしておきましょう。
(text:矢野絢子)
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