1997年2月5日生まれ、大阪府出身。2015年、『風に立つライオン』で長編映画デビューし、17年にNHK連続テレビ小説『ひよっこ』に出演して注目を浴びる。18年、テレビドラマ『この世界の片隅に』で応募者約3000名のオーディションを経て主人公・すず役に抜擢される。主な映画出演作は『おいしい家族』(19年)、『わたしは光をにぎっている』(19年)、『酔うと化け物になる父がつらい』(20年)や『みをつくし料理帖』(20年)に主演。他に『ミュジコフィリア』(21年)、『DIVOC-12』(21年)、『ユメミの半生』(21年)などに出演。
田所家は、サラリーマンの父、母、サキ、妹のごく普通の4人家族。けれども、大きな問題を抱えていた。父はアルコールに溺れていて、母は新興宗教にハマっているのだ。平日は泥酔して帰宅した父の介抱、休日も飲み仲間がやってきて酒と麻雀、それが姉妹にとっての日常だった。高校生になったサキは、漫画を描いている時間だけはつらい現実を忘れられることに気づいた。酔った父の姿をコミカルに描いた漫画は、友だちにも大好評だった。しかし、一度は禁酒した父が、再びお酒に手を出すようになり……。
原作は、菊池真理子の実体験に基づくコミックエッセイ。主人公のサキ役には、デビューからわずか数年で主演作が相次いでいる期待の女優、松本穂香。アルコールに溺れる父に振り回される娘の複雑な感情を繊細に演じた松本に、本作への思いやデビュー前後の思い出などを聞いた。
松本:そのオーディションの作品では役をもらえなかったのですが、片桐監督が印象に残っていたとおっしゃってくださって、オファーをいただきました。そういう経験は初めてでしたし、この作品につながったのでとても嬉しかったです。
松本:原作者を演じるということよりも、重たい題材ではあるので、その表現の仕方が難しかったです 。 監督は、「先生(原作者)を真似したり寄せたりしようと意識せずにサキという役を演じてくれればいいです」とおっしゃってくださったので、プレッシャーはなかったです。逆に原作を参考にさせていただくことはたくさんありました。というのは、この作品は長い年月を描いていて、いきなり10年後になるなど月日が飛んだりもするのですが、原作の中には先生が体験されたことや感じたことがリアルに言葉で表現されているので、その間のサキの心の動きを埋めるのに原作を参考にさせていただきました。
松本:特になかったです。台本も監督が書かれたのですが、監督は最初から「違和感のあるセリフがあれば好きに変えていいですよ」とおっしゃってくれて、私が自由に演じることを受け止めてくださいました。
松本:全部難しかったです(笑)。サキ自身、自分に自信がない人だと思うので、なんかそこにいてもいないようなフワフワした感じを出すのが難しかったです。でも、自信のなさだったり、自分の心に蓋をすればその場がうまくいくならそれでいいや、と思ってしまうようなところは、私も共感できました。私自身はサキのような状況になったことはないけれど、親に対するモヤモヤだったり伝えなくてはいけないことを伝えられなかったり、といった経験はあるので、そこを膨らませていけばサキに近づけるのではないかなと思いました。
松本:現場には笑い声も多かったです。作品が重い話なので、ドーンと暗い感じでやるよりも楽しく作りたいよね、ということで、片桐監督が楽しい雰囲気を作ってくださったので。ただ、監督いわく、私は本当に静かだったそうです(笑)。でも、私自身は楽しくやらせてもらっていました。
松本:カイロってずっと持っていると表面がモケモケしてくるじゃないですか。それをちぎっているのを監督に見られていたみたいで(笑)。
松本:そうですね。友達が多くてみんなとワイワイやっているような役だったら、現場でも和気藹々とやっていたと思うのですが……。今回は撮影期間も短かったですし、サキにとって楽しいシーンはあまりなかったので、現場ではいつもシーンの延長線上にいるような感じでした。それでカイロをむしっていたんじゃないかな(笑)。
松本:家族やコミュニケーションというものをもうちょっと簡単にとらえていたのですが、考えれば考えるほどわからなくなるなあと思いました。もし自分がサキの立場だったら親に気持ちを伝えられたかというと、きっとできなかったと思うので、血がつながっているって難しい関係なんだな、と感じています。
松本:お父さんが病気になったりする中でサキの気持ちが爆発するシーンです。そのシーンは一発でOK が出たのですが、それまでどのシーンを撮っていても、爆発するシーンのことが頭の中にあったので、やはりサキは心の中にずっとああいう気持ちを抱えたいたんだな、と実感しました。カットの声がかかった後も現場には重い空気が流れていて、みんなしんどい雰囲気になっていて、不思議な気持ちになりました。
松本:人間関係って難しいですけど、親子関係で悩んでいる方はたくさんいると思うので、この映画のようにお父さんがお酒に溺れていたりその娘であったりと色々な家庭があって、その中で吐き出せない思いを抱えている人たちに見てほしいです。私の周りにもそういう友達がいて、その子は「みんなの普通がうらやましい」と口癖のように言っていました。そういう人に見てもらえれば、救うことはできないけれど、何かのきっかけになったり気持ちを軽くできたりするかもしれないな、と思います。
松本:小さいころから憧れはあったと思いますが、私は飽き性なのでOLさんとかは無理だなと思っていて、そういう中で高校の演劇部に入ったのが一番のきっかけですね。事務所に応募しようと強く思ったのは、演劇部のライバル的な女の子が女優になりたいと私に打ち明けてくれたことです。私はその子に対して劣等感を持っていたので、 その子が女優さんになったら私はしんどいなあと思って(笑)。劣等感が背中を押してくれたような気がします。
松本:ほとんどなかったですね。部内のオーディションで役を決めていたのですが、その女の子がいつも主役でした。
松本:色々なところでお話しているのですが、魚の役もやりましたね(笑)。大阪の高校で、男子の部員がふざけてお芝居を作っていたので、変わった役が多かったです。
松本:みんなで作っている瞬間が面白いなあ、って感じます。みんなで「このシーンはどうしようか」と考えているときとか、“作ってるなあ”と感じる時が一番楽しいです。
松本:常にずっと迷っている感じなのですが、過信したくないな、と思います。気を抜くとそうなってしまうかもしれないので、毎回、常にこれで大丈夫なのかなぁと探りながら演じています。一つの作品が終わるごとに少しずつでもよいから成長できたらいいな、と思います。
(text:中山恵子/photo:小川拓洋)
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