Black Lives Matterにも重なる、モータウン60年の軌跡「芸術に色は関係ない」

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『メイキング・オブ・モータウン』
(C)2019 Motown Film Limited. All Rights Reserved
『メイキング・オブ・モータウン』
(C)2019 Motown Film Limited. All Rights Reserved

1959年に米ミシガン州デトロイトで誕生し、スティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイ、ダイアナ・ロス、マイケル・ジャクソンら数多くのスターとヒット曲を世に送り出してきた音楽レーベル、モータウン。昨年9月にデトロイトで行なわれた創立60周年記念セレモニーの中で創設者のベリー・ゴーディが引退を表明し、それと前後してヨーロッパでプレミア公開されたドキュメンタリー映画『メイキング・オブ・モータウン』(原題:Hitsville: The Making of Motown)がいよいよ日本でも9月に公開される。

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モータウンの名を知らない人でも、先のスターたちの名は知っているだろうし、映画ファンなら好きな映画の劇中歌としてモータウンのヒット曲を記憶しているかもしれない。『テルマ&ルイーズ』ではテンプテーションズ「The Way You Do」が、『ミザリー』ではジュニア・ウォーカー&ザ・オール・スターズの「Shotgun」が、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』ではジャクソン5の「I Want You Back」が、『再会の時』では全編を通してマーヴィン・ゲイらの曲が使われたほか、本当に挙げ出すときりがない数の楽曲を様々な映画で聴くことができる。

モータウンの創設された1959年のアメリカは、長く白人からの人種差別に苦しめられてきた黒人たちによる差別撤廃を求める公民権運動が高まりを見せていた時期にあたる。アラバマ州モントゴメリーで1955年に起こったバス・ボイコット運動の指導者、マーティン・ルーサー・キング牧師が中心となり、公民権運動は南部全体に拡大。1960年に都市部の黒人票を多く獲得したジョン・F・ケネディが大統領に就任したことが運動をさらに活発化させ、キング牧師は1963年にワシントンで開かれた反人種差別大集会の中で有名な「 I have a dream」の演説を行なっている。

本作を見ると、ベリー・ゴーディがモータウンの創業当時から人種の壁、もっと言えば男女の壁や世代の壁を超えたビジネスを展開しようとしていたことがよく分かる。白人中心のアメリカの音楽業界で新興インディーズレーベルが一定のポジションを得るためには経験豊富な白人スタッフを雇う必要があると考え、販売宣伝部長にイタリア系アメリカ人のバーニー・エイルズ(2020年4月に老衰のため死去)を起用。仕事ができれば経験が少ない20代の女性スタッフでも幹部会議に参加させ、才能があると認めれば10代になったばかりの幼いスティーヴィー・ワンダーやマイケル・ジャクソンもデビューさせた。

もうひとつ本作に強く刻まれているのが、ゴーディの純粋無垢な商売人魂だ。人種・性別・世代の壁を取り払う努力も、すべては商売のため。自動車工場のラインにヒントを得て音楽制作のプロセスをシステム化し、マーケティング戦略を練るための品質管理会議を頻繁に行なう。専属のソングライターやバックミュージシャンを雇い、スタジオ・著作権管理会社・マネジメント会社なども社内に併設し、早くから独立系レーベルとしての自給自足システムを確立したことも画期的だった(バックミュージシャンたちにスポットを当てたドキュメンタリー映画『永遠のモータウン』が2002年に公開されている)。

「人種がなんだ? 俺はただ勝ちたいだけなんだ」「芸術に色は関係ない。音楽も無色だ。そこには感動や鼓動があるだけ」といった作中でのゴーディの言葉には、現在起きている「Black Lives Matter」にまつわる様々な動きを重ねないではいられない。60年にわたるモータウンの軌跡を追った本作は、ある種のアメリカンドリームであると同時に、黒人が生きにくいアメリカの社会と制度が本質的には今も変わっていないことを奇しくも浮き彫りにしている。アメリカのソウルミュージックやポピュラー音楽のファンはもちろん、アメリカという国の光と影を知っておきたい人にとっても必見のドキュメンタリーだ。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)

『メイキング・オブ・モータウン』は2020年9月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開