秋元才加
あきもと・さやか
1988年生まれ、千葉県出身。2006年4月、AKB48第2期生としてデビュー。チームKのキャプテンを務めるなど中心メンバーとして活躍し、女優として映画『伝染歌』(07年)、『聖白百合騎士団』(09年・主演)などに出演。2013年8月にAKB48を卒業後、三谷幸喜作・演出の舞台「国民の映画」や映画『奴隷区 僕と23人の奴隷』(14年)、『マンゴーと赤い車椅子』(15年)、『媚空-ビクウ-』(15年)に主演し、三谷幸喜監督の『ギャラクシー街道』(15年)にも出演。ドラマや舞台、映画に出演する傍らTOKYO FMでは「秋元才加とJOYのWeekly Japan!」のパーソナリティを務めるなど、幅広く活躍。
(ハリウッドでは)赤ちゃんみたいに毎日学ぶことが多く、刺激的で楽しかった
1993年の第1作からスタートした『山猫は眠らない』シリーズ。トム・ベレンジャーが演じた伝説のスナイパー、トーマス・ベケットの息子・ブランドンに主役が継承され、チャド・マイケル・コリンズの主演で続くシリーズ第8弾『山猫は眠らない8 暗殺者の終幕』。外交官暗殺容疑をかけられ、追われる身となったブランドンをつけ狙う女性暗殺者が現れる。その名も「レディ・デス」という謎に満ちた腕のいいスナイパーを演じるのは秋元才加だ。物語のキーパーソンとなるキャラクターのしなやかな強さを体現した彼女に話を聞いた。
秋元:『山猫は眠らない』シリーズで今回、日本人のキャストを探しているので、とオーディションのお話をいただいたんです。チャンスがあるんだったら、ぜひ受けさせていただきたいとお返事しました。本国には行けなかったので、動画のオーディションでしたが、アクションの動きをしてみる動画だったり、ちょっとしたスクリプトをいただいて読んで、英語の発音を聞いてもらったり、そういうやりとりを何回かして、「秋元さんに決まりました」と連絡をいただきました。
秋元:祖母と母親が自立した強い女性が好きだったんです。あとスティーブン・セガールさんのアクション映画を見させられていて。幼少期から「女だからって、守ってもらえると思うな」「自分の身は自分で守れるようになりなさい」と言われていて。最初は、空手か柔道、合気道と選択肢があったんですけど、私は結構男勝りな部分があったので、空手を習ったら相手が男女を問わずけんかする子になっちゃうだろうから、と両親は考えたみたいです。合気道は相手が来ないと自分から手を出せないんですね。相手の力を利用する武道なので、こっちのほうが才加に向いてるんじゃないか、と合気道を習い始めました。
秋元:そうですね。やっぱり学生時代に武道をやっていたのは、体力や体の基礎、精神面でもすごく役に立っているなと常々思っていて。今回はこういう日本人らしさが求められる作品でもあり、武道をやっていることはアジア人の強み、日本人の強みになるな、と再確認しました。
監督も「主役のチャド(・マイケル・コリンズ)はアメリカっぽい、クイックな動きをするから、レディ・デスはもっと重い、静の部分を担ってほしい」と言われました。言い方によってはステレオタイプとも取れる日本人を求められているのを感じたので。海外の方は日本人について、こういうイメージなんだろうな、というものを分かりやすく持っていきました。そういうイメージは変わっていかなきゃいけないし、変わっていくとも思っていますけど。
秋元:3ヵ月くらいでした。
秋元:出演が決まってからは、トレーニングで体を大きくして、増量もしました。あとは、英語ですね。それまで英語を勉強しようとは思っていたんですけど、なかなか仕事で使う機会もなくて後回しになっていたのが急にやらなきゃいけない状況になって、決まってから毎日英会話の学校に通ってました。
秋元:1人で行きました。コミュニケーションが大切なので、通訳の方は1人付いてくださいましたが基本的には1人で行動していました。撮影現場で細かいニュアンスをキャッチできないと困るので、そういう時には通訳の方の助けも借りました。
秋元:私も初めてなので、ハリウッド全体がどうなのかは全然分からないですけど。みなさんそれぞれ、ちゃんと分業されていて、比較的余裕を持ってお仕事している。基本的に俳優部は俳優部、照明部は照明部で、フラットな感じで意見を言いながら、みんなで面白いもの作っていこう、クリエイトしていこうよっていう、明るい現場でした。
秋元:「つらい」はなくて。本当に赤ちゃんみたいに毎日学ぶことが多かったので、すごく刺激的で楽しかったです。台本では「レディ・デス、銃で撃たれる」とあって、撃たれた後、そのまま部屋から出るように書いてあって。日本でのお芝居だと、撃たれた後、どういうリアクションなんだろう? とか、リアルを求めて(撃たれた後は体が)動けなくなる、と考える。ハリウッドのアクション作品だと、撃たれてるのにすごい戦ったりするじゃないですか。どこまでリアルに表現したらいいのか、その加減が分からないまま、体当たりで演じる感じでした。そこはなかなか難しかったです。
監督も「アクターはアクターで、自分でプランを持ってお芝居してください」と。日本だと、監督が丁寧に指示してくださるイメージなんですけど、今回は「あなたがこの役なんだから、どういうプランを立てて動きたいかは、あなたの好きなようにしてください」と言われました。自主性というか、自立、「こうします」というものを常に提示してかなきゃいけない。作る喜びもあると思うけど、責任をちゃんと持ってやらなきゃいけないんだなっていうのをすごく感じました。
秋元:「あなたはどうなの?」「あなたはどうしたいの?」と聞かれて、常に自分でアイデアを考えてお芝居するのすごく楽しくって。「アーティストでしょ」って言われたんですね、監督に。初日に「あなたはこの役をどういうふうに演じてみたいと思ってますか?」「台本で嫌とところありますか?」「もっとこうしたら面白いというアイデアありますか?」と、すごいディスカッションしたんです。なかなか日本でそういった時間を取っていただけることは、そこまでなかったりすると思います。ましてや台本に口出していいのかな? という遠慮もあったんですけど、同じアーティストなんだからいいもの作るために意見を出し合おうよっていう、その空気感がすごく素敵だなと思いました。
俳優ですけど、アーティストという感覚がなかったので。「あなたもアーティストでしょ」と言われたときに「アーティストか。芸術家なんだ」と考えたら、お芝居に対する向き合い方というか、またちょっと違った目線で考えられるようになりました。
秋元:役者というと透明でいろんな方にプロデュースされるものみたいに思ったんですけど、ちゃんと自分を持って作っていく、自分がプロデュースしてく喜びも感じることができたので。より自分がどう在りたいかを、常に普段の生活から、考えて過ごしていかなきゃいけないな、と感じましたね。
秋元:本当に「技を見せられてる」という感じというか。カメラが回り出したら、ぱっと親子の空気感になる。基本的にハリウッドって、みんな演劇学校に通っていろんな基礎も学んでらっしゃる方が大多数だと思うんです。日本には日本のスタイルもあると思うんですけど、経験だったり、ワークショップ行った知識も詰まっての緻密なお芝居を見せられてる。しかもそれがこれみよがしのテクニックに見えない。すごく面白い空間にいるというか、自分の将来の糧になる時間なんだろうなと思っていて。でも、カットが掛かったらもう普通の人なんですよ(笑)。
トム・ベレンジャーさんとかは、常にファストフード店のコーヒーを片手に持って、現場にふらっと現れて「おはよう」みたいな、優しいおじいちゃんなんですけど。そこに普通に居過ぎて、誰も気付かないぐらい。これが私の理想とする役者さんだなって。常にラフな格好できて、レッドカーペットとかTPOによってドレスアップもされると思うんですけど、ちゃんと普段の生活をしている。皆さん、自分1人でちゃんと来て。そういうところも自立というか、常に選択をして素敵だなって、私も学んでいきたい部分だなと思いましたね。
秋元:面白かったのが、チャドやみんながいるシーンの撮影をしていた時に、途中でトムさんが「カット」って言い出したんですよ。監督じゃないから、「え?」ってなるじゃないですか。「撮れてるからもういいよ、やらなくて」「監督、撮りたいの、撮れただろ?」って。私、監督以外の人がカットをかけるのを初めて見ました(笑)。
秋元:トムさんだからできたことだと思うんですけど。あとはカットをかけずにカメラを回した状態のまま、「じゃあ、こっからもう1回やってみて」と、駄目だったら何回もやらせてくれたり。なかなか日本ではできない経験をしました。
秋元:今回のコロナ禍で、日本でも自粛期間があって、こんなにお仕事をしなかったのって初めて、という経験をしました。こういったお仕事をさせていただいたり、自分の好きなことを芸能界でやってることって、すごくすてきなことだしうれしいことだと思ったのと、反面、芸能人としてではなくて、一人の人間としてどう生きたいか、と考えたときに、自分のスタンスを変えてまでここにいたいかと思ったら、またそれもちょっと違うかな、という思いも出てきたりしていて。
海外で仕事をしてみて、みなさんが常に自分のスタンスを表明してると思ったんです。私はこう生きたい、あなたは?と。他人に強要するとかではなくて、私は人としてこういう意見を持ってるというのがあって、そのうえで自分の気持ちいい生き方をしながら、できるお仕事をしていきたいな、と思っています。
秋元:皆さん、本当に不安だと思いますし、この大変な状況の中で、自分の信念を曲げてまでこの仕事をする意味があるのだろうか? と考えたりもします。その反面、エンタメにすごく救われた部分はたくさんあったので、その中でいただけるお仕事は本当に精いっぱいやりたい、ちゃんと期待以上のものを返したいと思っています。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
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