タランティーノ監督のセンスが光る「Baby Love」など映画を彩るモータウンの名曲たち
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【映画を聴く】『メイキング・オブ・モータウン』前編
1959年の設立以降、No.1ヒットを次々に量産し、アメリカでのポピュラー音楽、黒人音楽の発展に大きく貢献した音楽レーベル、モータウン。創立60周年を記念して公開されたドキュメンタリー『メイキング・オブ・モータウン』の内容やレーベル設立までの経緯についてはこちらをご覧いただくとして、ここでは「映画の中のモータウン」として、レーベルを語る際に欠かせない10曲と、それらが印象的に使われた映画をご紹介したい。
・少年時代のスティーヴィー・ワンダーやジャクソン5も! 映画で知るモータウンの黄金期/【映画を聴く】『メイキング・オブ・モータウン』後編
1・Money(That’s What I Want)/バレット・ストロング(1959年)
1959年、29歳でモータウンの原点となるタムラ・レコードを設立したベリー・ゴーディ。第1弾リリースのマーヴ・ジョンソン「Come to Me」が地元デトロイトで話題となるも、早くも資金繰りに困り、十分な利益を得るには全米リリースがマストと考えるようになる。そして全国配給を実現させたバレット・ストロングの「Money(That’s What I Want)」は、「欲しいのはカネ」という当時のゴーディの本心をストレートに歌ったかのような歌詞も受け、全米R&Bチャート2位のヒットになった。ビートルズのカヴァーで知っているという方も多いだろう。
映画の劇中歌としては、最近ではジョン・M・チュウ監督『クレイジー・リッチ!』(2018年)のオープニング&エンディングで、シェリル・Kによるカヴァーが使用された。「確かにカネでは買えないものもある。でもそんなものは私には必要ない」と歌われる歌詞は、当時社会の“底辺”にあったゴーディの心の叫びから生まれたものだが、それが60年後のセレブ社会を描いた本作のテーマ曲として使われ、しかもばっちりハマっていることは、この曲の耐久力の高さと懐の深さの証しだ。エンディングの方には、劇中でヒロインの親友を演じたオークワフィナのラップを含むヴァージョンが使用されている。
2・Please Mr.Postman/ザ・マーヴェレッツ(1961年)
ザ・マーヴェレッツのデビュー曲として1961年にリリース。モータウンとして全米R&Bチャート&ポップチャート両方で1位を獲得した初めての曲になった。この頃からゴーディは自動車工場にヒントを得たレコードの品質管理を徹底するように。専属バックバンドのファンク・ブラザーズらによる高度な演奏と歌い手の声がAMラジオでどのように響くかを重視し、レコードが完成するとまず小さなスピーカーで試聴したという。これもビートルズやカーペンターズのカヴァーで人気のモータウン・クラシックだ。
映画では、マーベル作品の『キャプテン・マーベル』(2019年)で使われたのが記憶に新しい。物語の終盤、キッチンで洗い物をするキャロル・ダンヴァースと若きニック・フューリーがクリー人科学者「マー・ベル」の名の発音について「マー・ベルか、マーベルか」で言い合いになり、フューリーは「マーベルの方がマーヴェレッツみたいでいい」と主張。マーヴェレッツがピンとこないキャロルに振り付きで「Please Mr.Postman」の出だしを歌って聴かせる。本作の時代設定はニルヴァーナやナイン・インチ・ネイルズが人気だった1995年になっているが、1961年にヒットした“青春の一曲”をおどけて歌うフューリーの姿が何とも可愛らしい。
3・(Love Is Like A)Heat Wave/マーサ&ザ・ヴァンデラス(1963年)
この曲を機にモータウンで数多くのヒット曲を送り出すことになるソングライターチーム、ホーランド=ドジャー=ホーランドの作で、全米R&Bチャート1位を獲得。ジャズやドゥーワップの要素を積極的に取り入れた、従来の甘いティーンエイジ向けポップスとは一線を画すアレンジのインパクトも強く、その後のモータウンの快進撃を決定づける一曲となった。ザ・フーやフィル・コリンズ、リンダ・ロンシュタットなどにカヴァーされてきた、初期モータウンでも特に人気の高い曲である。
『天使にラブ・ソングを…』(1992年)の冒頭で歌われていた曲、と言えばピンとくる方も多いだろう。ウーピー・ゴールドバーグの演じるデロリス・ヴァン・カルティエは、ナイトクラブで歌う売れない歌手。マーサ&ザ・ヴァンデラスに似た3人組のコーラスグループのリードヴォーカルで、ゲームに夢中の客たちは彼女の歌など聴いていないが、その歌のうまさは明らか。「Heat Wave」に始まり、同じモータウンのメアリー・ウェルズ「My Guy」、ペギー・マーチの「I Will Follow Him」と続いてまた「Heat Wave」に戻ってくるメドレーを、目まぐるしく変わるキーやテンポも問題とせず、パワフルに歌いまくる様子が痛快だ。
4・Baby Love/ザ・スプリームス(1964年)
ゴーディがその才能を高く評価していたダイアナ・ロスを含む3人組、スプリームス。全米1位となった1964年の「Where Did Our Love Go(愛はどこへ行ったの)」を皮切りに、「Baby Love」「Stop!In The Name of Love」「You Can’t Hurry Love(恋はあせらず)」といったヒット曲を連発。ダイアナ・ロスの脱退後もグループは活動を続けるが、その黄金期はダイアナが在籍した1969年までとされている。
スプリームスから連想する映画といえば、何と言っても彼女たちをモチーフにしたミュージカル作品『ドリームガールズ』(2006年)が有名だ。ただ、実際のスプリームスのヒット曲を使った映画となるとそれほど多いわけではなく、クエンティン・タランティーノ監督の『ジャッキー・ブラウン』(1997年)あたりがよく知られるところか。ハティ・ウィンストンの演じる中年女性シモーヌが、派手なワンピースを着てロバート・デ・ニーロ演じるルイスの目の前で「Baby Love」を歌いながら踊るシーンがある。その時ルイスに電話をかけてくるサミュエル・L・ジャクソン演じるオデールが「彼女のモノマネいいだろ? メアリー・ウェルズもやってくれたか?」と聞くことから、シモーヌはかなり熱心なモータウン・ファンだと推測できる。既成のポップスを映画で効果的に使うタランティーノのセンスが、さり気なく活かされたシーンだ。
5・Shotgun/ジュニア・ウォーカー&オール・スターズ(1965年)
テナーサックス奏者兼シンガーのジュニア・ウォーカーがギタリストのウィリー・ウッズらと結成したのがジュニア・ウォーカー&ザ・オール・スターズ。基本的にはウォーカーのサックスと歌を中心としたモッド・ジャズの先駆けのようなサウンドで、レーベル内では異色の存在ながら、この曲が収録されたアルバム『Shotgun』は現在も根強い人気を保っている。
キャシー・ベイツの怪演が光るスティーヴン・キング原作の『ミザリー』(1990年)で、この曲が使われている。コロラドの山荘にこもって新作を書き上げた小説家のポール・シェリダン。ドン・ペリニヨンを開け、止めているタバコを1本だけ吸うという脱稿時のルーティンを済ませると、NYの編集者のもとへ原稿を届けるため、山を下りる準備を始める。愛車の65年型ムスタングのボンネットに積もった雪をかき集めて木に投げつけ、シェリダンが「どうだ!」と言った直後に「Shotgun」が流れ始める。直後に事故を起こし、“世界一のファン”を自認するアニーに救出されたことから始まる悲惨(misery)な日々。アニーにショットガンで撃たれてしまう老保安官。その後のそういった展開を考えると、この選曲がことさら意味深に思てくる。
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