少年時代のスティーヴィー・ワンダーやジャクソン5も! 映画で知るモータウンの黄金期

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メイキング・オブ・モータウン
『メイキング・オブ・モータウン』
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メイキング・オブ・モータウン
メイキング・オブ・モータウン

(前編「タランティーノ監督のセンスが光る「Baby Love」など映画を彩るモータウンの名曲たち」より続く…)

【映画を聴く】『メイキング・オブ・モータウン』後編

6・I Can’t Help Myself(Sugar Pie, Honey Bunch)/フォー・トップス(1965年)

4人組男性コーラスグループ、フォー・トップスが初めて全米1位を獲得した大ヒット曲。ベースとピアノのユニゾンによる覚えやすいフレーズにリズムやストリングスが重なっていくイントロの高揚感。ホーランド=ドジャー=ホーランドによる楽曲とアレンジ、ファンク・ブラザースの演奏、そしてグループの歌唱が一体となった、モータウン・サウンドの頂点を示す一曲だ。

・Black Lives Matterにも重なる、モータウン60年の軌跡「芸術に色は関係ない」

この曲が使われた映画といえば、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)。アメリカ陸軍に入隊した主人公のフォレストが戦地ベトナムに到着したシーンで、ママス&パパス「California Dreamin’(夢のカリフォルニア)」やビーチ・ボーイズ「Sloop John B.」、バッファロー・スプリングフィールド「For What It’s Worth」といった60年代半ばのヒット曲とともに流れる。ワンコーラス程度ではあるものの、思いのほか楽しげなキャンプの様子に当惑するフォレストの様子が、陽気な曲調とのギャップでさらに引き立てられている。『フォレスト・ガンプ』はBlack Lives Matter的な現在の視点で見返すと気になるところがいろいろあり、実際サウンドトラックも白人ポップス偏重だったりするのだが、そんな中にも普通に入り込んでくるところに当時のモータウンの圧倒的な人気ぶりがうかがえる。

7・Track of My Tears/スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ(1965年)

スモーキー・ロビンソンは、モータウンの看板グループのひとつであるミラクルズのリーダーにして、数々のヒット曲を他のアーティストに提供するソングライター、そしてベリー・ゴーディとともにモータウンを設立した会社の重役でもある。彼なくしてはモータウンもなかったと言っていい最重要人物で、この「Track of My Tears」の全米1位獲得で人気と存在感を絶対的なものにした。70年代以降のメロウな作風を予見させるような名バラードである。

先に取り上げた『フォレスト・ガンプ』と同じく、この曲もベトナム戦争当時にヒットした音楽としてオリバー・ストーン監督『プラトーン』(1986年)で使われている。想像をはるかに超える戦場の過酷さに疲弊した主人公のテイラーは、夜のキャンプで勧められるままに大麻を吸い、ラジオから流れるこの曲を仲間たちと合唱する。悲壮感の漂うジョルジュ・ドルリューによるメインテーマが劇中何度も繰り返され、あらゆる意味で気の抜けないシーンが続くこの映画にあって、ほとんど唯一ほっとできる場面である。

8・Uptight(Everything’s Alright)/スティーヴィー・ワンダー(1965年)

わずか11歳でモータウンと契約。1963年の「Fingertips」で初の全米1位を獲得したスティーヴィー・ワンダーの天才ぶりは、自身でプロデュースを手がけるようになる70年代以降の『Talking Book』や『Innnervisions』などのアルバムで全面的に開花した。変声期に伴うちょっとしたスランプを経てリリースされたこのシングルは、全米R&Bチャート1位を記録。「Fingertips」以来久々のヒットとなった。

『陽のあたる教室』(1995年)は、作曲家としての成功を夢見る音楽教師グレンの半生を追ったドラマで、ロックやジャズからガーシュウィンのミュージカルまで、多種多様な音楽が使われている。中でもジョン・レノンの「Beautiful Boy(Darling Boy)」を耳の不自由な息子に手話を交えて聴かせるくだりは、多くの映画ファンが涙したはず。この「Uptight(Everything’s Alright)」は、音楽が苦手な生徒にリズム感を叩き込むシーンで使われる。この曲のレコードに合わせてステップを踏み、ドラムを叩き、生徒に被らせたヘルメットをスティックで叩いてリズムを刻む。縦ノリでアッパーな曲調を活かした選曲だ。

9・I Want You Back(帰ってほしいの)/ジャクソン5(1969年)

ジャッキー(長男)、ティト(次男)、ジャーメイン(三男)、マーロン(四男)、マイケル(六男)という5人のジャクソン兄弟からなるジャクソン5。モータウンからのデビュー曲となるこの「I Want You Back(帰ってほしいの)」の録音当時、リードヴォーカルのマイケルはまだ10歳だったが、「ABC」「The Love You Save(小さな経験)」「I’ll Be Thre」と4曲連続の全米1位を達成し、一躍モータウンの稼ぎ頭となる。マイケルは最初から天才だったと心底思わせる歌唱と、ゴーディを中心とした制作チーム、ザ・コーポレーションによるサウンドプロダクションが光る、モータウンがモータウンらしかった最後の時代を代表する一曲である。

これまで様々な映画で使われてきた曲だが、ここではスペースオペラとして最高なだけでなく、選曲センスでも音楽ファンのツボをつきまくる『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を。主人公クィルらが彼の宇宙船、ミラノ号に乗り込み、ザンダー星をあとにするエンディングで、MCUお決まりの「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーは帰ってくる」というキャプションと呼応するような形で使われている。ちなみにエンディングの直前、クィルが母親の作ったミックステープを再生するシーンでは、同じモータウンの「Ain’t No Mountain High Enough」(マーヴィン・ゲイ&タミー・テレルのシングル曲)もかかる。これも歌詞と物語の連関性に驚かされる絶妙な選曲だ。

10・What’s Going On/マーヴィン・ゲイ(1971年)

ソロ歌手として、タミー・テレルとのデュオとして多くのヒットを生んできたマーヴィン・ゲイが、与えられた曲を歌うシンガーではなく、メッセージ性を持ったシンガー・ソングライターとしての個性を確立した一曲。本人のプロデュースによる同名アルバムは、ベトナム戦争や環境問題、人種問題に深く切り込んだ歌詞も話題となり、70年代のソウルミュージックの方向性を決定づける名盤となった。同時期にスティーヴィー・ワンダーもより作家性を高めたアルバム重視の活動にシフトしており、ポップなシングル曲を中心としたモータウンの時代はこの頃に終わりを迎えたと考えていいだろう。

「What’s Going On」は、今年6月にNETFLIXで独占配信が始まったスパイク・リー監督『ザ・ファイブ・ブラッズ』で使われている。アメリカで黒人の置かれる現実と向き合った作品を撮り続けてきたリー監督が本作で取り上げたのは、6の『フォレスト・ガンプ』や7の『プラトーン』と同じベトナム戦争。ただし、こちらは戦争当時を描いたものではなく、帰還兵がベトナムを再訪する“現代”の物語だ。リー監督は2018年の『ブラック・クランズマン』でもテンプテーションズの「Ball of Confusion」を使ったりしているが、本作では「What’s Going On」の収録された同名アルバムからの6曲など、マーヴィン・ゲイの曲を大々的に使用。物語とマーヴィンの音楽がほとんど二人三脚となって、帰還兵たちの闇を浮き彫りにしていく。中でもアカペラで「What’s Going On」が歌われるシーンの緊張感、切迫感は凄まじい。また、登場人物のデヴィッドが自身の名前について「旧約聖書のダビデと同じね」と言われて、「テンプテーションズのデヴィッド・ラフィンとも同じ」と答えるやり取りにもリー監督なりのモータウン・オマージュが感じられる。

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1959年の設立から現在まで続くモータウンの歴史は、大きく3つの時期に分けられる。第1期はデトロイトを拠点に活動した1959~1971年、第2期はLAに本社を置いた1972~1987年、第3期はMCAに買収されたのち、様々なレコード会社とタッグを組みながら音楽業界の荒波を生き抜いてきた1988年以降。これほどタフなレーベルは世界を見てもそうないが、“ヒット曲量産工場”としてフル稼働していた黄金期は? と聞かれれば、それは第1期、つまり1959年から1971年までの12年間に集約される。実際、今回取り上げた10曲も結果的にこの第1期の間にリリースされたものばかりで、10の「What’s Going On」は第2期モータウンの始まりを告げる楽曲である。

『メイキング・オブ・モータウン』の公開、ベリー・ゴーディの引退表明により、また新たなフェーズを迎えたモータウン。設立当初に掲げられた“The Sound of Young America” のスローガンの通り、「若いアメリカのサウンド」を世界に発信し続けてきたこのレーベルの全貌を、黄金期を飾るこの10曲あたりから掘り下げてみてはいかがだろう。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)

『メイキング・オブ・モータウン』は2020年9月18日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開