リッチな豪邸とアートなワンルーム。映画の中のインテリアが映す2人の心情『キャロル』
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本稿で映画の中のインテリアを題材に見直すのは『キャロル』。2015年公開のアメリカ映画で、監督はトッド・ヘインズ。原作は、ミステリー作家パトリシア・ハイスミスのベストセラー「太陽がいっぱい」(52年)。
・前編/50年代のポピュラー音楽が引き立てる、女性同志の美しすぎる恋愛『キャロル』
荘厳なサウンド。ふたりの世界観に一気に引き込まれる
舞台は、1950年代のニューヨークのクリスマス。デパートに4歳の娘へのクリスマスプレゼントを買いに来た人妻キャロル(ケイト・ブランシェット)が、対応してくれたデパートの店員テレーズ(ルーニー・マーラ)と出逢い、それぞれの境遇を分かち合うロマンスだ。
冒頭の地下鉄の騒音と荘厳なサウンドトラックに一気に引き込まれる。
女性の心の琴線を投影するようなハープと重厚な弦楽。テレーズのアドバイスを容れ、4歳の娘に購入した鉄道模型。ぐるぐる回る姿は、堂々巡りで満たされない思いを反映しているかのようだ。
ファッションがふたりの境遇の描写
テレーズは、キャロルが忘れた手袋を届けた御礼にランチに誘われる。
現れたキャロルは赤いリップに赤いストール。憧れていたテレーズだったが、夫のハージと離婚の危機に陥っていることを知る。愛娘も奪われそうなことも。
キャロルは、ヴォーグ誌を見て高級ファッションを身に纏うリッチで上品な奥様。金髪ショートで赤いリップにタバコをくわえ、グレイッシュブルーの服が印象的だ。城のような豪邸に夫と暮らし、4歳の娘にも恵まれ不自由ないようだが、心を開く相手を求めていた。
一方のテレーズは、カメラマンを目指す若き女学生で、アーティスト&キュート。
しかしオシャレにはさして興味がない。ファッションは原色系チェックやストライプのベレー帽&マフラーでガーリーと、キャロルとは対照的だ。
同棲する男からは結婚を迫られ、作家を夢見るカメラマンとも出逢うが、それも満たされない。しかしキャロルと一緒にいるときは夢見心地で、次第に惹かれていく。
インテリアはヴィクトリアン・スタイル。どこかヨーロッパの香りも
このふたりの家のインテリアも、ファッション同様、対照的だ。
キャロルはニューヨークの郊外ニュージャージー州に住み、夫と住む自宅のインテリアは完成されたヴィクトリアン・スタイル。
白いペイントに美しいモールディング、チークの腰板、暖炉。草花柄のカーテン。家具も含めて、ニューヨークの上流階級の家でありながら、どこかヨーロッパの匂いがする。
様式美やミッドセンチュリーがちりばめられていて、「キチンとしなければならない」ことを押しつけられているかのようだ。
リーズナブルな手作りインテリア。若者の手本となりそう
一方、地方から出てきたテレーズが住む家は、マンハッタンの安アパート。
部屋と部屋を繋ぐアーチの仕切りが可愛らしいが、何度も塗り重ねたであろう壁に、スチールの椅子など、全体的に無機質で、唯一可愛らしいのがGEの冷蔵庫ぐらい。現像用のフィルムを保管するためのGEの冷蔵庫が鎮座し、私にはこれさえあれば十分と言わんばかりだ。
忘れてはならない印象的なアイテムが、ひとつだけ。大きな赤い張り地の椅子だ。これは後々アーティストとして成功しそうな素晴らしいセンスと秘めた情熱を感じさせる。
こちらも、キャロルの家に劣らぬほどインテリアコーディーネートとしては完成されていて、金を掛けずにオシャレなワンルームを創りあげたいと考える若者の手本となりそうだ。
「家」の意味が異なる、ふたりの境遇
キャロルの境遇に深く同情して受け入れたテレーズは、誘われて旅に出る。ふたりは籠の中の鳥から一瞬解き放たれるが、それも一瞬だった、
実は「家」は、キャロルにとっては自分を拘束する籠であり、同居する男がモノにした女を飾るディスプレイエリアだった。
したがって、そのインテリアは、キャロルの心情を映すというよりも、テレーザが視覚的に捉えていた貴婦人の姿とは違う、悲しい境遇だ。だから結局は、キャロルはこの家を出ることになる。
一方、戻ってきたテレーズは、自宅の壁をキャロルの服と同じグレイッシュブルーに塗り替える。手許の写真を見返すなど未練たらたらだが、こちらはテレーズの心情そのものである。
空間描写から見えてくる、ふたりの境遇と心情
思い返すと、はじめてキャロルの家に招かれたときにテレーズが感じた興奮は、憧れのキャロルの心に足を踏み入れたことによる嬉しさだった。しかし同時に、それが虚像であることを知ったとき、そのギャップに苦しむことになる。
その意味で、インテリアはやはり主人公の心情との対比で見ると興味深い。主人公のふたりそのものに目を奪われがちだが、空間描写に目を配りながらもう一度味わいたい映画だ。(文:fy7d)
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