【落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。/第19回】
昨年秋に映画にはじめて出演させていただき、今年はドラマにも出演できることになりました。
やっぱりきっと誰かがこのコラムを読んでくれてるような気がします。
どうもありがとうございます。
新しい世界を味わうことができて嬉しいです。
・【鯉八の映画でもみるか。16】鯉八、映画初出演! 自信のなさはポーカーフェイスで…。
撮影は昨年12月に終えました。
コロナ禍での真冬の撮影はとても大変でしたが、スタッフのみなさまの創意工夫には感動すら覚えました。
通常の撮影よりもきっとすごい経費がかかってと思うんですよね、感染対策などで。
それでもいいドラマを作るんだという気概は凄まじいものでした。
昨年の映画のときもそうでしたが、みんな親切なんですね。
イメージとしてはスタッフやキャストのみなさまがすべて恐くて、新参者の素人はひどい扱いを受けるんだと思ってましたがそんなことはありませんでした。
でもこれは相撲部屋と同じで、初日とってもやさしくて次の日から厳しくされるのと同じだと思っていたので気は抜きませんでした。
きっと相撲部屋も今ではそんなことないのでしょう。
いい時代に生まれて良かったです。
監督だけは昔気質の方でした。
打ち合わせの段階でお酒を酌み交わしたときに、ぼくは怒られるのが嫌いなので、怒るならば出ませんという、情けない条件だけ出しました。
「まさか~。怒るわけないですよ~」
というお言葉がまあ綺麗に裏切られました。
世の中にあんなに簡単に約束を破る人がいるなんて。
それもまあぼくの演技がひどいからでしょう。
プロの役者さんはやはり違います。
まず落ち着いてる。
台詞をきちんと覚えてる。
そんなの当たり前だろと思うかもしれませんが、相手に合わせて台詞を言うのは思ったより難しいものです。
相手の顔を見た途端に頭が真っ白になるのです。
迷惑をかけてはいけないという意識もまたマイナスに働くのでしょう。
あと監督に怒鳴られるのがこわくて常にビクビクしていました。
印象的だったのは、
「てめえ! 落語家みたいに流暢にしゃべってんじゃねぇ!」。
ぼくは、落語家です。
流暢にしゃべることがあまりできてない落語家です。
でもそう思われたみたいです。
芝居というのは奥深いものです。
だんだん監督に怒られるのもどうでもよくなりました。
自分を『用心棒』の仲代達矢だと思うようにしました。
するとどうでしょう。
なんにも恐くないのです。
今度誰かが何か文句いってきたらぶん殴ってやるつもりでした。
そのくらい猛ってるほうがいい演技ができそうな気がしたのです。
名優を気取ってみました。
気持ちかよかったです。
1発OKばかりになりました。
これだ! と思いました。
監督の指示も無視することにしました。
オーラが出てたかもしれません。
役ではなく、名優を憑依したのです。
新しいアプローチでした。
監督はじめスタッフのみなさまの厳しさは作品への愛情です。
軍隊のような現場でしたが、終わってみるとみんな抱き合って泣いていました。
体験してみると素晴らしい空間でした。
ゆとりな時代ですが、集団でなにかを作り上げるときにはゆとってる場合ではないのです。
ある種、みんな何かに狂信的にならなければならないときがあるのです。
それはすごく大切なことだと感じました。
また出演してみたいです。
ドラマもぜひ見てもらいのですが、まだ大人の都合で宣伝できないのが心苦しいです。
ぼくは失業したサラリーマンの役です。
シリアスな演技です。
5、6話のゲスト主役です。
おそらく。
そうなってるはずです。
来月のコラムでは詳しくお話できると思います。
名優を憑依させることができる、役者・瀧川鯉八。
やさしい監督からのオファーお待ちしております。
※【鯉八の映画でもみるか。】は毎月15日に連載中(朝7時更新)。
『用心棒』を【FOD】で視聴する。初回2週間無料トライアルも!
プロフィール/瀧川鯉八(たきがわ・こいはち)
落語家。2006年瀧川鯉昇に入門。2010年8月二ツ目昇進、2020年5月真打昇進。落語芸術協会若手ユニット「成金」、創作話芸ユニット「ソーゾーシー」所属。2011年・15年NHK新人落語大賞ファイナリスト。第1回・第3回・第4回渋谷らくご大賞。映画監督アキ・カウリスマキが好きで、フィンランドでロケ地巡りをした経験も。
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