子どもを産めなかったことで、彼女は自分のことを“失敗作”だと感じている 『アンモナイトの目覚め』
長編監督デビュー作『ゴッズ・オウン・カントリー』でベルリン国際映画祭をはじめとする各国の映画祭で絶賛され、一気に映画界の注目を集めたフランシス・リー監督が、ケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナンの二大女優をキャストに迎えた『アンモナイトの目覚め』が4月9日より公開中だ。
1840年代、イギリス南西部の海辺の町ライム・レジスで、母親と2人で暮らす古生物学者メアリー・アニング。かつて13歳の彼女が発掘した化石は大発見として一世を風靡し大英博物館に展示されるが、女性であるメアリーの名はすぐに忘れ去られてしまい、今は観光客の土産物用アンモナイトを探しては細々と生計をたてている。 そんな彼女はある日、裕福な化石収集家の妻シャーロットを数週間預かることとなる。美しく可憐で奔放、何もかもが自分と正反対の彼女に苛立ち冷たく突き放すメアリーだが、やがて自分とはあまりに違うシャーロットに惹かれていく。
世間とのつながりを絶ち、人を遠ざけて暮らしていた主人公メアリーと愛し合うようになるシャーロットを演じるのは、26歳にしてアカデミー賞4度のノミネートを誇るシアーシャ・ローナン。鮮烈な表現力を発揮し、演技派女優のケイト・ウィンスレットとのラブシーンも体当たりで演じた彼女がインタビューに答えた。
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──『アンモナイトの目覚め』はどのような物語でしょうか？
ローナン ：とても美しくてシンプルな物語よ。端的に言うと孤独だった2人が恋に落ちる。主人公のメアリー・アニングは実在の古生物学者だけど、ずっと歴史からかき消されていた。本作はメアリーの人生を想像で描いていて、彼女が私の演じるシャーロットと出会い恋に落ちる物語はフィクションなの。
──シャーロットはどんな人物でしょうか？
ローナン ：シャーロットはとても稀有なキャラクターで、演じていて楽しかった。シャーロットは努めて目立たないようにしている。注目を集めたいとか、輝きたいと思っていない。彼女の才能は他の誰かを引き立てて、その人のすばらしさを周囲に知らしめることで発揮されるのだけど、彼女もその才能に誇りを持っているの。シャーロットは謙虚さにあふれていてとても寛大な人。彼女自身も深く傷つき失意の中にいるけど、人を深く愛することができるし、愛することから逃げない。
──この役のどこに惹かれましたか？
ローナン ：全体に漂っている物静かで穏やかな空気かな。物語がとてもゆっくり進行していって、脚本には演技に遊びを持てる余白や余地がたくさんあった。それは俳優としては喜ばしいこと。それに脚本がプロットやキャラクターやドラマであふれかえっておらず、登場人物たちの日常を丁寧に描いているの。つらいことをたくさん経験した2人が、ゆっくりとお互いにたどり着いて、物語が進むにつれて自分の人生を見つけていく。すべてを穏やかに進行させるアイデアがとても気に入った。
──役作りについて教えてください。
ローナン ：フランシス・リー監督に役の背景を作るよう勧められて、シャーロットが生まれた時までさかのぼり、ライム・レジスに来るまでの人生を想像した。少し悩んだところもあったけど、役の人生を自分で作り上げる機会を持ったことで役への思い入れが強くなったし、撮影初期から役を身近に感じることができたわ。ピアノのレッスンも再開できて楽しかった。普段は弾かないけど、数年前に役作りで習っていたの。クララ・シューマンの美しい曲を習得するために撮影の1ヵ月前から準備を始めたのよ。
──フランシス・リー監督について聞かせてください。
ローナン ：フランシスははっきりとしたビジョンを持った監督。自分の美学や好みをとても明確に持っていて、それを早い段階でオープンに伝えてくれた。彼は『ゴッズ・オウン・カントリー』で実践したことをこの映画でさらに成長させ進化させようとしていて、そこに関われて光栄だった。私とケイトと彼でリハーサルを始めた時、まずじっくり時間をかけて脚本を読み込んで、彼がどんな経験をしてどのシーンに思い入れがあるかを聞くことができたの。何でもオープンに話せる関係だったわ。
──シャーロットはどう変わっていくのでしょうか？
ローナン ：シャーロットは裕福な男性の妻。結婚して数年が経っていて、完璧で理想的な、誰もが羨む生活を送っている。やがて彼女は妊娠し、そして流産してしまうという設定だったけれど、私なりの解釈で死産という設定にした。その方がシャーロットにとって、1年どころじゃ到底傷が癒えないような大きなトラウマになると思ったの。シャーロットは心に穴が空いてしまい自分を役立たずに感じている。つい最近までそうだったけど、この時代は女性の存在意義は結婚して、家事をして、子どもを産む、それだけだと思われていた。だからこそ子どもを産めなかったことで、シャーロットは自分のことを“失敗作”だと感じているの。衣装からも分かるように死産から半年以上経ってもまだ喪に服している。そして、子どもを失った絶望から抜け出せていない時にライム・レジスで夫に置き去りにされてしまう。メアリーとも最初はうまくいかないけど、メアリーはシャーロットに何も求めない。そういう人と一緒にいることで、シャーロットは安心して思い切り泣いて、悲しむことができたのね。そして絶望から抜け出し、健康と強さを取り戻す。2人は物語が進むにつれ、互いを絶望の中から救い上げていく。シャーロットの悲しみは最後まで消えないけど、それを受け入れて生きていく方法を見つけるの。
──シャーロットと夫の関係はどうなるのでしょう。
ローナン ：夫との関係は問題が山積みね。子どもを亡くし、2人の結婚生活はピリピリしている。セックスレスだし、たとえしたとしても気持ちのない機械的なものよ。シャーロットはただ誰かにそばにいて抱きしめてほしい、ただ気持ちに寄り添ってほしいと思っているだけ。夫も求めているものは同じだけど、2人とも相手や結婚に多くを期待するばかりで言葉にする術を知らないの。結婚生活が順調なふりをすることが2人にとって重荷になって、離れている間にシャーロットはまるで別人になったかのように強く生まれ変わる。そして夫は彼女の元を去り、自分が夢中になれる冒険に出るの。
──ケイト・ウィンスレットと共演していかがでしたか？
ローナン ：とても陽気で大好き。本作でケイトと私はとても親密な関わり方をする。女性同士のラブシーン自体も初めてだったけど、あんなに激しくて純粋なセックスシーンは初めてだった。それをケイトと演じられるのはとても心強かったし、安心感があった。ただ一緒にいるだけで何をしても大丈夫だと感じさせてくれたわ。
──思い出深い撮影エピソードはありますか？
ローナン ：撮影中で一番思い出に残っているのは、少し前にあった私の25歳の誕生日。誕生日に激しいセックスシーンを演じ、一糸まとわぬ姿で全部をさらけ出したのだけど、撮影を無事に終えた後はプレゼントを山ほどもらったのよ。部屋を出るとみんながケーキを持って待っていてくれた。撮影も何もかもが本当に楽しかった。プレゼントをたくさんもらえて本当にいい１日だった。
──時代劇の出演が多くありますが、魅力を感じますか？
ローナン ：出演作に時代劇が多いのはただの偶然で、作られる時代劇の数が多いから私に届く脚本も自然と時代劇が多くなる。多くの俳優も同意見だと思うけど、時代劇を“昔の物語”と思って演じるのは大きな間違いね。そうすると肖像画のように堅苦しくて現実感のない演技になってしまう。私が昔の人物を演じる時に大切にしているのは、人間味のある人にすること。できる限り、現代の私たちと変わらないように演じている。時代劇特有の神秘性を損なわない程度にね。物語の核心は時代に左右されないことを忘れてはいけないと思う。
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