アカデミー賞総評:『ノマドランド』最高賞受賞はアカデミー会員の意思反映

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『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督
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助演女優賞を獲得したユン・ヨジョンと、プレゼンターのブラッド・ピット
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第93回アカデミー賞が4月25日(現地時間)に発表され、『ノマドランド』が作品賞、監督賞、主演女優賞の最多3部門を受賞した。クロエ・ジャオ監督はアジア系女性として史上初、女性としてはキャスリン・ビグローに次ぐ2人目の監督賞受賞という快挙となる。

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発表順に変化 アンソニー・ホプキンスはまさかの主演男優賞受賞

今年の授賞式は例年と違い、通常は最後に発表される作品賞が、主演俳優部門より先に発表という進行。『ノマドランド』のタイトルが呼ばれると、同作に主演し、プロデューサーでもあるフランシス・マクドーマンドとジャオ監督は、出演者でもあるノマド生活者の女性たちと一緒に登壇。マクドーマンドは「いつか、すぐ近いときに、知り合いみんなを連れて映画館に行ってください。肩と肩を並べて、あの暗闇の中で、今夜ここで紹介された全ての映画を見てください」とスピーチした。

直後に主演女優賞を受賞したマクドーマンドは「私に言葉はありません。私の声は剣の中にあります」(I have no words, my voice is in my sword)とシェイクスピアの戯曲「マクベス」に登場する貴族マクダフのセリフを引用し、続けて「私たちの剣は仕事、私は仕事が好きです。それを知ってくれてありがとう」とスピーチした。

授賞式のラストを飾った主演男優賞は『ファーザー』のアンソニー・ホプキンスが受賞した。ホプキンスは83歳、史上最高齢での受賞記録となる。

前哨戦で受賞が続いていた『マ・レイニーのブラックボトム』の故チャドウィック・ボーズマンが大本命視され続けた中での異例の結果、しかもホプキンスはロサンゼルスの会場にも、ロンドンの会場にも姿を見せず、受賞スピーチはなし。そのまま授賞式は静かにお開きとなった。

ユン・ヨジョン、ブラッド・ピットの名前言い間違えにチクリ

助演女優賞は『ミナリ』のユン・ヨジョンが受賞。こちらもアジア系の受賞は1957年のナンシー梅木(『サヨナラ』)に次いで2人目となった。プレゼンターをつとめたブラッド・ピットに名前を読み間違えられたユンは「やっとお目にかかれました。今までどこにいらしたんですか?」「私の名前はユン・ヨジョンですが、今夜はみなさんがどう呼んでも許して差し上げます」とユーモアたっぷりにチクリと指摘。そして「私は競争が嫌いです。私たちは違う役を演じているのだから、競うことはできません。ここに立てているのは、私がほんの少しだけラッキーだったからです」とスピーチした。

ユン・ヨジョンとブラッド・ピットの2ショット写真はこちら!

助演男優賞は、『Judas and the Black Messiah』(原題)でブラックパンサーのフレッド・ハンプトンを演じたダニエル・カルーヤが受賞。スピーチで、「生命を祝福しなければ。私たちが呼吸しているのは素晴らしいことです。ママとパパがセックスしたおかげで僕はここにいる! これはすごいことです。生きているのがとても幸せだ」と喜びを語ったが、この開けっぴろげな発言には、カルーヤの地元・ロンドンの会場で感涙にむせんでいた彼の母親と姉妹はびっくり、恥ずかしそうに顔を隠す一瞬もあった。

最多10部門で候補となった『Mank/マンク』が美術賞、撮影賞の2部門を受賞。『ファーザー』『マ・レイニーのブラックボトム』『ソウルフル・ワールド』『サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜』も2部門ずつ受賞し、さまざまな作品が評価される結果となった。

例年2月に開催される授賞式は、コロナ禍によって2ヵ月遅れて行われたが、それは候補者やプレゼンターが集う対面式のセレモニーを実現するためだった。メイン会場は、換気やソーシャルディスタンスを保つのにも適したロサンゼルスのユニオン駅。参加するのは各賞の候補とその同伴者各1名、プレゼンターという最小限の人数で開催された。

ヨーロッパ在住の候補者は、ロンドン、パリ、プラハ、ローマなどから、助演男優賞、脚色賞で候補になっていたサシャ・バロン・コーエンはシドニーから参加した。

『ノマドランド』の最高賞受賞はアカデミー会員の胸中の現れ 多様性&包摂性重視の傾向も

最初のプレゼンターをつとめたレジーナ・キングが、用意されたオスカー像をつかんで、参加者たちが着席して待つメイン会場まで駅の構内を歩いていくオープニングは、「Starring」と銘打って参加者たちの名前が映画のオープニングクレジットのように画面に打ち出され、3月に「1本の映画のような授賞式にする」と語ったプロデューサーの1人、スティーヴン・ソダーバーグの言葉通りの幕開けとなった。キングはオープニングのモノローグも兼ねて、参加者のワクチン接種を含めて事前対策は万全であること、カメラが回っていないときはマスクをつけることなど、今回のセレモニーについて説明。候補者の紹介もストーリー仕立てに、それぞれの背景を紹介するものになった。

監督賞、脚本賞を女性が受賞、俳優部門は候補者の20人中9人が非白人で、受賞者は白人2人、アフリカ系とアジア系が1人ずつ。NetflixやAmazonの作品も数多く受賞したが、最高賞はサーチライト・ピクチャーズの『ノマドランド』が受賞という結果は、多様性と包摂性を重んじつつ、映画という伝統も守りたい映画芸術科学アカデミー会員たちの胸中が現れた結果となった。

(文:冨永由紀)

【アカデミー賞受賞一覧】

■作品賞
『ノマドランド』

■監督賞
クロエ・ジャオ『ノマドランド』

■主演男優賞
アンソニー・ホプキンス『ファーザー』

■主演女優賞
フランシス・マクドーマンド『ノマドランド』

■助演男優賞
ダニエル・カルーヤ『Judas and the Black Messiah』(原題)

■助演女優賞
ユン・ヨジョン『ミナリ』

■オリジナル脚本賞
『プロミシング・ヤング・ウーマン』エメラルド・フェネル

■脚色賞
『ファーザー』クリストファー・ハンプトン、フロリアン・ゼレール

■長編アニメ映画賞
『ソウルフル・ワールド』

■短編アニメ映画賞
『愛してるって言っておくね』

■国際長編映画賞
『アナザーラウンド』

■長編ドキュメンタリー映画賞
『オクトパスの神秘 海の賢者は語る』

■短編ドキュメンタリー映画賞
『Colette』(原題)

■短編実写映画賞
『隔たる世界の2人』

■美術賞
『Mank/マンク』

■衣装賞
『マ・レイニーのブラックボトム』

■メイク・ヘアスタイリング賞
『マ・レイニーのブラックボトム』

■撮影賞
『Mank/マンク』

■編集賞
『サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜』

■作曲賞
『ソウルフル・ワールド』トレント・レズナー、アッティカス・ロス、ジョン・バティスト

■歌曲賞
「Fight For You」『Judas and the Black Messiah』(原題)

■音響賞
『サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜』

■視覚効果賞
『TENET テネット』

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