『さまよう刃』舞台挨拶で寺尾聰が語った問題意識と演出への不満
少年犯罪によって最愛の娘を奪われた父親が、1本の密告電話によって犯人を知り、復讐のために犯人を追い始める──人気小説家・東野圭吾の150万部超のベストセラーを映画化した『さまよう刃』。10月10日に公開初日を迎えたこの映画の舞台挨拶が、撮影にも使われた複合商業施設ラ チッタデッラ内の映画館・川崎チネチッタで行われ、主演の寺尾聰が登壇。映画への熱い思いを語った。
「映画俳優になって40数年間、エンターテインメントとしての劇映画を作り続けてきたのですが、今回の方向性はちょっと違う」と社会派ドラマであることをアピールする寺尾。以前、山口県光市の母子殺害事件の被害者遺族で、加害者に対し極刑を望む本村洋さんの記者会見を見て、「僕らの想像できないくらいの怒りと悲しみを抱えていながら、冷静に受け答えしている若い彼を見て、本当の怒りや悲しみを胸にしまい込むのは大変なことだと感じた」と語った。
また、別の事件の被害者遺族のコメントも胸に残ったという。「最愛の旦那さんと息子さんを殺された女性が、犯人の死刑を望まないと言ったんです。2人があの世に行ってしまった。だから犯人を死刑にすることで同じ世界に行かせたくない、と。その言葉を聞いたとき、本村さんの時とは別の視点で、胸に突き刺さるものがあった」と、被害者にもいろいろな考えがあることを感じたという。
映画では、主人公は共犯者の少年を殺めた後、主犯を追って山中をさまようのだが、寺尾は、「主人公は共犯者を簡単に殺し、復讐を果たしたと思った後で、主犯に辿り着くまでに考えが変わってくる。そんなに簡単にラクにさせていいのかという気持ちや、死刑よりももっと重いものを背負わせるという風に……」と演じた父親の心情に思いを馳せた。
その一方で、自らの思いだけで完成させることができない映画作りという共同作業への戸惑いも口にした。
「共同作業なので、スタッフの考えもまちまちで、微妙にニュアンスが違い……。自分ではもう少しストレートに、思いを映画に焼き付けられたら、という気持ちが残っていて。もっと厳しい作品にできたんじゃないかという思いがあります」。また、ラストの演出についても納得しかねるものがあったらしいが、「まあ、いいでしょう」と言葉を濁していた。
そして、「楽しい、面白い映画ではないかもしれませんが」と前置きしてから、「若い人も含めて、何百人の内の1人でも、胸に突き刺さったり引っかかったりするものがあってくれれば。帰りながら、ラストについて考えてもらえれば、僕の思いは達成したかなと思います」と続けた。
さらに、「そろそろ、自分で撮りたいとウズウズしている」と監督への思いをほのめかすと、それとは別に、兄弟子・小泉堯史監督との仕事にも意欲を見せ、「映画はこの2本を考えています」と、今後について語っていた。
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