『ハート・ロッカー』が6冠を獲得した今年のアカデミー賞だが、映画評論家のケネス・トゥランはロサンゼルス・タイムズ紙で、『ハート・ロッカー』が『アバター』に圧倒的な勝利を収めたのには、ある背景があると分析した。
トゥランは『ハート・ロッカー』が本当に今年最も良かった作品であり、キャスリン・ビグローの監督ぶりは見事だったとした上で、この映画の圧勝の背景には、今はもうなくなってしまった「かつてのハリウッド」に対する、アカデミー会員のぼんやりとした憧れがあるというのだ。
登場人物やドラマそのものより、映画から派生するおもちゃや続編にこそ価値があるとされ、若者好みの最先端CGと下品なユーモアが、興行成績で上位に食い込むために必要不可欠なものとされている現在のハリウッド。そうしたハリウッドの現状においては、『ハート・ロッカー』のような映画は、ある意味「異常な」映画である。もしこの映画がアカデミー賞を受賞することができたら、「かつてのハリウッド」が健在だと信じることができる。だからこそアカデミー会員は票を投じたのだ、と──。
味わい深くて刺激的で、登場人物こそを大切にした映画を作り続けてきたハリウッド。実際にはそんな古き良きハリウッドはとっくになくなってしまったのだが、とトゥランは続ける。
さらに、『ハート・ロッカー』がハリウッドのメジャースタジオに無視され続けたことも、大成功の要因だとも。大資本の力を借りずに苦境を乗り切ったこの映画は、だからこそ、スタジオからの干渉を受けずにすみ、作り手たちは妥協せず、思ったように映画を仕上げることができたというのだ。
さて、メジャースタジオにとっては、自分たちが無視し続けた映画の圧勝に終わったアカデミー賞。今後のハリウッドはどのような方向へ向かって行くのだろうか。
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