主演に俳優の西島秀俊を迎え、日本を代表する小説家・村上春樹の短編を実写映画化し、第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で日本映画史上初となる脚本賞ほか全4冠に輝いた濱口竜介監督の最新作『ドライブ・マイ・カー』。公開を控える8月16日、濱口竜介監督、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授で美学者の伊藤亜紗、映画研究者の北村匡平によるトークセッションが都内で実施された。
・濱口竜介監督が『ドライブ・マイ・カー』西島秀俊と三浦透子のプロ意識を絶賛!
北村匡平、『ドライブ・マイ・カー』は「21世紀の羅生門」と絶賛
映画監督、美学者、映画研究者と各界のプロフェッショナルが集まった本イベント。濱口監督と伊藤は大学のゼミの同級生として、学部は違うながらも同じ授業を受けた仲であり、濱口監督と北村匡平は今回が初対面だという。
『ドライブ・マイ・カー』を見た感想について、伊藤は「3時間の映画ということで大丈夫かなと不安でしたが、びっくりするくらいあっという間。時間が流れていくというよりは、自分の中に時間が溜まっていってシンクロしていくような不思議な感覚でした」と語る。
続けて北村は「『ハッピーアワー』(15年)の上映の時に、間違いなく2010年代映画のナンバー1だと思っていたが、『ドライブ・マイ・カー』が『ハッピーアワー』の一歩先を行っている。『ドライブ・マイ・カー』を見た時に一番思い出したのが、黒澤明の『羅生門』(50年)という作品なんです。主題は違えども芥川龍之介の『藪の中』を『羅生門』や『
声を大事に。本読みを徹底する濱口メソッド
濱口監督は、“声”のこだわりが感じられる濱口作品のキャスティングについて「率直に話してくれている“声”、噓をつかないような…今、この人と自分はちゃんとコミュニケーションが取れている、と感じられる人に役をお願いしています」とキャスティングのこだわりを明かした。
ひたすら役者との本読みにこだわるという通称“濱口メソッド”。濱口監督は「『ハッピーアワー』くらいからすごく本読みにはこだわっています。ひたすら無感情、無抑揚で何度も何度も読んでもらう。無感情な状態でひたすらテキストを覚えて、何度か寝かせたりしながら、セリフが身体に刻み込まれた状態で口から自然に出てくる。発音が身体化されることによって本番の演技で開放される、リラックスした状態でセリフが放たれるという方法を意識しています」と本読みへの徹底した思いを語った。
濱口作品での他者とのコミュニケーションの描き方について、伊藤は「人間関係というより、“存在関係”を描いている。人と人との関係がまるでタバコの煙のような…人が吸っていると自分も吸いたくなるような、誰かの行動によって自分にもつながっていくという点で共振、共鳴を感じます」とコメント。濱口監督は「自分の映画を人間ドラマだと言われるとどこか違和感があったんですが、人間が関係することで、その存在が影響を及ぼすものをずっと見ている。役者とテキストの関係もそうだと思うし…今までいただいた感想の中でも一等嬉しいです」と伊藤の賞賛にはにかんだ。
最後に、北村は「間違いなく『ハッピーアワー』の一歩先を行く作品。自分の身体と同化した車を手放し、委ねることによって自分の感覚が開かれていくという感覚をぜひ体験していただきたいと思います。可能であればぜひ2回見た方がいい」と熱弁。
伊藤は「人と単に分かりあう、共感ということではなく、郷にじっくりと入っていき、自分の心の傷に向き合うということ。濱口監督は人間を違う視点で描いている監督。大学時代の作品を見た時はもっと実験的な監督になると思っていたが、人間の心を描いているというスタンスに同世代としてとても感銘を受けます」と同級生として思いのこもった言葉をかけた。
濱口監督は、最後に「同級生としてやっていた人(伊藤亜紗)とこうやって再会ができてとても嬉しかったです。また、北村さんが今日おっしゃっていた“委ねる”というテーマに関して、正直自分では意識していなかったのですが、今まで撮影したドキュメンタリー作品の中で自分が撮影したものの編集を人に委ねる、手放すということでまた新鮮な作品作りができるという過去の経験を思い出し、また違った観点から映画を楽しめるようなお話が聞けた」と語った。
『ドライブ・マイ・カー』は8月20日より全国公開。
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