『MONOS 猿と呼ばれし者たち』アレハンドロ・ランデス監督インタビュー

外界から隔絶された世界で、8人の少年少女兵”モノス”の狂気が暴走する

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アレハンドロ・ランデス

コロンビアでは果てしなく続く内戦があり、すべてが膿んでしまったかのよう

映画『MONOS 猿と呼ばれし者たち』が10月30日より公開となる。

世間から隔絶された山岳地帯で暮らす8人の兵士たち。ゲリラ組織の一員である彼らのコードネームは“モノス(猿)”。「組織」の指示のもと、人質であるアメリカ人女性の監視と世話を担っている。ある日、「組織」から預かった大切な乳牛を仲間の一人が誤って撃ち殺してしまったことから不穏な空気が漂い始める。 ほどなくして「敵」の襲撃を受けた彼らはジャングルの奥地へ身を隠すことに。仲間の死、裏切り、人質の逃走……。極限の状況下で、”モノス”の狂気が暴走しはじめる。

新鋭アレハンドロ・ランデス監督の3作目となる本作は、南米・コロンビアで50年以上続いた内戦を下敷きにしている。暴力の脅威にさらされ続けたコロンビアの歴史と、外界から遮断された世界で生きる少年少女兵の思春期のゆらめきを重ね合わせ、幻想的な世界観で大胆に描写。サンダンス映画祭ワールド・シネマ・ドラマ部門の審査員特別賞をはじめ世界各国の映画祭で63部門にノミネート、そのうち30部門で受賞、そんなアレハンドロ・ランデス監督に話しを聞いた。

ゲリラとして生きる少年少女のサバイバル合戦…美しくも狂気に満ちた顛末が頭から離れない!

──このプロジェクトはどのようにして生まれたのですか?

監督:コロンビアでは、果てしなく続く内戦があり、準軍事組織、ゲリラ、麻薬マフィア、政府、外国の関係者、それらすべてが膿んでしまっているかのような状態です。現在(※)、平和の儚い可能性が漂っていますが、それには長い時間がかかっています。『MONOS』はこの瞬間を、戦争映画というプリズムを通して探ります。私の世代にとっては初めての和平のチャンスですが、コロンビアにとっては初めての和平プロセスではないので、亡霊に悩まされているように感じます。これらの亡霊に触発されて、私は取り憑かれたようにこの映画を作りました。
※本インタビューは2017年に実施。2016年8月、50年以上続いた内戦の終結を目指した和平合意が、政府とゲリラ組織「コロンビア革命軍」(FARC)の間で最終合意に至り、同年10月に合意内容の是非を問う国民投票が実施された。『MONOS』の実質的な制作が始まったのは2016年8月23日である。

『MONOS 猿と呼ばれし者たち』
2021年10月30日より全国公開
(C)Stela Cine, Campo, Lemming Film, Pandora, SnowGlobe, Film i Väst, Pando & Mutante Cine
──コロンビアの状況は、この映画に直接どのようなインスピレーションを与えたのでしょうか?

監督:サントス前大統領は2016年に、主要ゲリラ組織であるFARCと政府との和平合意に署名したことでノーベル平和賞を受賞しましたが、この和平合意は国民投票で否決され、行政命令で押し通す形となりました。
今回の合意では、山間部やジャングルで機関銃を振り回しているゲリラはすべて武器を手放し、街に向かうことになっています。彼らは歓迎されて再出発するのか、復讐のために路上で殺されるのか、忘れ去られるのか、一般の人々にどのように受け止められるのかはまだ不明です。この疑問はある種の時限爆弾を生み出している、とも言えます。

──本作は観客を脈絡のない不特定な環境に突き落としました。どういう意図だったのでしょうか。

監督:ストーリーからプロダクションデザインに至るまで、何もかもから遠く離れた、時代も場所も特定できないような、時間を超越した世界を作ろうとしました。少年少女兵のグループは、何者かによって訓練され、監視されています。彼らはミッションを遂行しており、秘密の組織の一部です。彼らは戦争の「後方」にいる兵士の小隊であると同時に、固い絆で結ばれた単なるティーンエイジャーの集団でもあります。コロンビアの内戦という特殊な状況からインスピレーションを得ましたが、この映画は、国境を越えて、それ自体がひとつの世界として存在することを目指しました。

意図したのは、リアルで冷酷な暴力を描くこと

──“十代の兵士”というテーマのどこに魅力を感じましたか?

監督:私たちの多くは、友だちと一緒にどこか遠くへ逃げて、誰にも監視されず、誰にも指示されずに好きなことをする、そんな夢を見たことがあるはずです。本作では、若者はコロンビアという国のメタファーとなっています。コロンビアはまだ若い国で、自分のアイデンティティを模索しており、壊れやすく暫定的な平和への夢を繰り返し抱いています。この映画は、少年少女兵について深く考察する以上に、思春期について語っています。それは、自分が何者で、何者になりたいのかを理解するために戦い始める時期だからです。仲間が欲しいという気持ちと同じくらい、一人でいたいという気持ちもあり、その狭間で揺れ動く人生の段階です。

──彼ら”モノス”の具体的な任務は?
アレハンドロ・ランデス

監督:人質の世話と監視です。世界中の反政府組織は、政治や金のために人質を利用します。一般的には、人質の世話をするのは最下層の若い兵士たち、時には少年少女兵も含まれます。それが人質を維持する最も金がかからない方法なのです。これらの兵士は、一般的には後衛や遠隔地に配置されます。しかし、そこでの争いは、最前線と同じように激しく、重要になることがあります。

──アメリカ人の人質“博士”役にジュリアンヌ・ニコルソンを起用した理由は?

監督:通信環境の整った世界では、戦争はローカルなものではなく外国人が関わっていることが多いです。本作では、“博士”という人物を通してこのことを認識します。彼女についての情報はほとんどありませんが、彼女は外国人、敵、そして母を体現しているのです。私がジュリアンヌについて特に魅力的だと思ったのは、生来の優しさと母性です。それが彼女の暴力的な変化をさらに面白くすると思いました。また、彼女の象徴的な容姿は、「白雪姫と七人の小人たち」をひねったような寓話的な側面を物語に与えています。つまり、若くて乱暴で異質な捕獲者たちの隣にそびえ立つ背の高い骸骨のような白い存在で、強烈なコントラストを生み出しています。

──十代の兵士たちのキャスティング・プロセスについて教えてください。

監督:大規模なキャスティングチームが、コロンビア全土から800人以上の若者たちを集めてくれました。その中から選ばれた30人が、アンデス山脈の高地で行われた基礎訓練キャンプに参加しました。数週間にわたり、アルゼンチンの女優イネス・エフロン指導のもと、午前中に即興や演技の練習を行い、午後には武器の持ち方や隊列の組み方などの軍事訓練を行いました。宙返りや射撃なども学び、本物の兵士のように行動しました。この軍事指導を行ったのは、ウィルソン・サラザールというFARCを脱退したゲリラ組織の元司令官で、彼は3年前、頭部に生死にかかわる傷を負いました。我々はたちまち彼に惹かれ、最終的に組織の“メッセンジャー”役を演じてもらいました。
この過酷な訓練で生まれた人間関係やグループの力関係を見て、私たちは“モノス”になる8人を選びました。このプリプロダクションが、本当にすべてでした。何週間も人里離れた場所で、出演者が非常に近い距離で一緒に生活することで、ユニークでダイナミックな体験を共有することができたと思います。撮影が始まる前から、この体験が彼らを結びつけていたのです。

──冒頭の舞台となった、山岳地帯について教えてください。

監督:何か別世界のようなものを探していたところ、世界の頂点のような場所に、廃墟となったセメント鉱山の名残である巨大な石造りの建物を見つけました。その巨大なスケールとシンプルな形状によって、年代や地図上の位置を特定することは不可能だと思いました。すぐに、この映画のオープニングの場所を見つけたと思いました。

『MONOS 猿と呼ばれし者たち』撮影中のアレハンドロ・ランデス監督

──「蝿の王」がこの物語に与えた影響は?

監督:「蝿の王」とコンラッドの「闇の奥」には、それぞれの時代や紛争、国をはるかに超えた寓意的な力があります。また、どちらの小説にも、トーテムポールのような、ある種のタトゥーのような、潜在意識に残る何かがあります。そのオマージュとして、「蝿の王」の最も象徴的なイメージである豚の頭を本作に登場させました。

──本作に描かれている暴力を通して、監督は何を伝えようとしたのでしょうか?

監督:暴力は戦争の本質的な部分であり、この若い小隊と人質にとっては逃れられない体験となります。意図したのは、画面上では楽しく勇敢に見える“グロテスクな暴力”や“ロマンチックな暴力”ではなく、暴力を使う者にとってさえも恐ろしい、リアルで冷酷な暴力を描くことでした。戦争は私たち人類の中にあるものです。

──コロンビア、そして世界全体に希望はあると思いますか?

監督:私はあると思っています。だからこそ、この映画を作ったのです。映画に描かれているのは答えではなく、過去、現在、そしておそらく未来の会話の一部ですが。
現実では和平合意にもかかわらず、一部の反体制派ゲリラは銃を捨てず、準軍事組織はソーシャルワーカーや組合のリーダー等を殺し続けています。状況は一触即発で、コロンビアそして世界中に多くの怒りが渦巻いています。この怒りはいたるところで表面化しているように見えますが、私はむしろそれは良いことかもしれないとも思うのです。何故なら、それらから目をそらすことができないからです。あなたはそういったことにすでに関わり、疑問を持つことを余儀なくされます。“モノス”(のメンバー)は、エンディングで非常に物理的な方法で帰途につき、私たちに(それをどう受け止めるのか)難題を突きつけるのです。

アレハンドロ・ランデス
アレハンドロ・ランデス
Alejandro Landes

1980年、ブラジル生まれ。エクアドル人の父とコロンビア人の母をもつ。米・ブラウン大学で政治経済学の学位を取得した後、ジャーナリズムの世界に入り、マイアミ・ヘラルド紙への寄稿や、政治トーク番組のプロデュースなどを行う。監督デビュー作『コカレロ』(07年)は、ボリビアの労働者のリーダーであるエボ・モラレスが、草の根運動で同国初の先住民族の大統領になるまでを描いたドキュメンタリー。2010年にはサンダンス・インスティテュートのディレクターズ・ラボと、スクリーン・ライターズ・ラボのフェロー・シップ、およびカンヌ映画祭のシネフォンダシオンの対象者に選ばれ、初の長編フィクション作品『ポルフィリオ』(11年)を制作。2011年のカンヌ国際映画祭監督週間でプレミア上映された後、多くの国際映画祭で最優秀賞を受賞した。実話をもとにしたこの作品では、警察の流れ弾に当たって半身不随になった男性が飛行機をハイジャックするに至った理由を探るもので、実際のハイジャック犯であるポルフィリオ・ラミレスが本人役で出演している。映画制作に加えて建築にも情熱を傾けており、15年には自身が設計したモダニズム邸宅「カーサ・バイーア」をマイアミに完成させた。現在はロサンゼルスに住む。