1962年11月19日アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。3歳の頃からテレビCMでキャリアをスタートし、8歳のときに『ジョディ・フォスターのライオン物語』で映画デビューを果たす。1976年『タクシードライバー』で世界的に注目される。『告発の行方』(88年)、『羊たちの沈黙』(91年)と2度のアカデミー賞主演女優賞に輝く。主な出演作に、『コンタクト』(97年)、『パニック・ルーム』(02年)などがある。91年、自ら出演もした初監督作品『リトルマン・テイト』で高い評価を得た。92年には“Egg Pictures”を設立。同社が製作し主演も兼ねた『ネル』(94年)ではアカデミー主演女優賞にノミネートされた。Netflixオリジナルドラマでエミー賞受賞作『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』(13・14年)をはじめ、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』(14年)、『ブラック・ミラー』(17年)を監督。
『モーリタニアン 黒塗りの記録』ジョディ・フォスター インタビュー
不当に拘禁された男――絶望的な刑務所生活を生き抜いた方法とは?
9.11後、イスラム教徒たちに起きたことを世界中に伝えたかった
“黒塗り”にされたある男の手記がアメリカの闇を暴く、衝撃の実話を映画化した『モーリタニアン 黒塗りの記録』が10月29日より公開される。
時は2005年、弁護士のナンシー・ホランダーは無償奉仕活動として、キューバのグアンタナモ米軍基地に拘束された男性の弁護を買って出る。彼の名はモハメドゥ・スラヒ。アフリカのモーリタニア出身で、9.11の首謀者の一人として拘束されたが、裁判は一度も開かれていない。ナンシーは「不当な拘禁」だと訴える。時を同じくして、テロへの“正義の鉄槌”を望む政府から米軍に、モハメドゥを死刑判決に処せとの命が下り、スチュアート中佐が起訴を担当する。真相を明らかにして闘うべく、両サイドから綿密な調査が始まる。モハメドゥから届く手紙による“証言”の予測不能な展開に引き込まれていくナンシー。ところが、再三の開示請求でようやく政府から届いた機密書類には、百戦錬磨のナンシーさえ愕然とする供述が記されていた――。
弁護士のナンシーを演じるのは、『羊たちの沈黙』でアカデミー賞、ゴールデングローブ賞を受賞してハリウッドスターのトップを極めた後、監督・プロデュース業でも目覚ましい活躍を見せているジョディ・フォスター。情に流されず常にクールだが、心の芯は人間味にあふれたナンシーを堂々たる存在感で体現し、本作でゴールデングローブ賞を受賞した。実際にナンシーやモハメドゥにも会って話を聞いたというフォスターが、彼らから学んだこと、そして本作に対する思いを語ってくれた。
フォスター:私が魅力を感じたのは、実はパーソナルなストーリーの部分。(監督の)ケヴィン・マクドナルドもそうだったと思うわ。脚本に磨きをかける段階に入ったとき、彼はパーソナルなストーリー、エモーショナルなストーリーに重点を置いたの。大事なのはモハメドゥだった。モハメドゥの物語に報いたい、彼のためのスペースを確保したいという思いがあったの。そうすることで、9.11の後、イスラム教徒の男性たちに起きたことを、世界中の人たちが理解できるようにしたかった。9.11に対する、私たち全員の反応がいかに不公正なものだったか。怒り、恨み、裏切り、恐怖という反応が、イスラム教徒の男性たちに何とも異様な時期をもたらしたの。
フォスター:ナンシーは素晴らしい人よ。撮影前に2度ほど会うことができたし、撮影中も彼女が訪ねてきてくれたの。そのときはモハメドゥも来たから、二人で一緒に過ごしていたわ。まるで年老いた夫婦みたいだった(笑)。ケープタウンでペンギンを見に行ったり、博物館に行ったり、口喧嘩をしたり、外食したりしてたわ。ナンシーは並外れた人なの。社会的公正の偉大なる擁護者よ。あまり人気がないのは、彼女が、政府は異議を申し立てられるべきもの、と憲法が求めていると信じているから。もし政府が、誰かの有罪を証明できるのなら、彼女は、「彼らにもっと権力を。でも私の仕事は、擁護できないような人たちを弁護すること。そしてそのプロセスを通して、誰が有罪とされるべきなのか、誰が有罪とされないべきなのか、決めることができる」と言うの。
フォスター:ドキュメンタリー作品を作ってきたからこそ、この映画の監督として彼が最適だったし、この作品がこれほどパワフルな映画になったの。彼は、実際に経験しているような感じの作品にしたい、ディテールの一つ一つをすべて正しく描きたいと考えているの。彼は、収監者たちから弁護士たちに至るまで、あらゆる人たちを、何千時間にもわたってインタビューした。ものすごいリサーチをしたの。でも彼はアーティストでもあるから、観客の琴線に触れるような映画を作りたいとも考えていて、そのためにはキャラクターが大切だった。彼は、素晴らしい形で、その二つのバランスを取ったの。それってすごく希少なことだと思う。大抵の場合、監督はどちらか一方の立場に立つから。彼が二つのバランスを取ることができたことが、この映画の強みよ。
フォスター:ものすごくたくさんあるわ。9.11後のアメリカ人として私が興味を持ったのは、あの絶望的なまでの恐怖と戦慄の瞬間を思い出し、その感情を自分はどうするか、と考えることだったの。面白いことに、アメリカ政府にもそうした感情があり、彼らは、復讐心に燃えて法律に反したいじめっ子と化したわ。モハメドゥも不安や恐怖や不公正を経験したけれど、彼はその感情を逆方向に向けて、より良い人間、より寛容で率直で繊細で優しく愛情あふれる人間になった。それは本当に驚くべきことよ。政府は彼の信仰を打ち砕くことができなかった。彼は体験したすべてを崇高なものへと変えてしまったの。人間の精神力の証だわ。
フォスター:私にはわからないわ。笑顔だけではないの。彼のエネルギー、楽観性、他の人たちとつながりたい、他の人たちの話を聞きたいという姿勢。好奇心にあふれた人なの。希望にあふれていて、いつでもその瞬間を生きている。禅マスターよ。私たちはいつも彼に、禅マスターだねって冗談を言っているの(笑)。彼は本も出したの。絶望的な刑務所生活を生き抜く方法についてね。その答えは、愛、信仰、そして希望だったわ。
フォスター:たくさんあるわ。ものすごくインスピレーションを与えてくれる人よ。彼は傷ついた。身体的にもかなりひどい損傷を受けているけど、身体だけでなくね。そうしたダメージが彼に影響を及ぼしていないとは言わない。彼の人生に影響を及ぼしたし、今後も彼の人間関係にも影響を及ぼしていくから。でも彼は生き抜き、乗り越えることができるということを示してくれた。人間性まで手放す必要はないんだということを示してくれた。それは私が思いもしなかったことよ。怒り、復讐心に燃え、許すことなんてできない人間になってしまうと思うわ。彼はそうなって当然だった。だけどそうはならなかったの。
フォスター:私はディテールが好きなの。どんなものをコレクションしているのか。これはどこで買ったものなのか。両親との関係はどうだったか。そういうディテール、彼女の中の矛盾している要素すべてについて(質問した)。彼女はあの真っ赤な口紅とマニキュアやショッピングが大好きで、音楽はカントリーウェスタンが好きで、レースカーも大好き。聞いていると「え?」って思う。そうした矛盾が最高に素敵だなと思ったので、映画の中で、きちんとそうしたことに敬意を払おうと思った。
それと同時に私が知りたかったのは、モハメドゥが有罪かもしれないと考えるのをやめたのはいつなのか、そのことに確信を抱いたのはいつなのか、ということよ。彼女は信頼する気持ちを失ってしまった人なの。彼女が弁護してきた人たちのうち、85%の人たちは有罪だったし、彼女もそれを知っている。彼女の使命は、法の支配を擁護し、有罪か無罪かに関わらず人々を弁護することなの。
彼女は、この人は有罪だと考えても、弁護を断ることはない。だから、そうした考えを手放したのはいつだったのか。手放したのか。あるいは今も心のどこかでひそかに、そのことを自問自答しているのか。私が求めていたのはそれだと思う。「心のどこかで自分を守り、『モハメドゥが有罪だという可能性もあるか?』と思っていますか」という質問への答えね。いかにもナンシーらしく、彼女はこう言ったわ。「もし彼が有罪だという証拠、ほんの一かけらの証拠でもあったら、彼らはすでにそれを見つけているはず」って。「そんな可能性はない」とは言わなかった。彼女は弁護士だから、そんなことは言えないの。
フォスター:アメリカ人にとっては、他の国の人たちとは違う論点もあるわ。これは私たちのストーリーの別の部分だから。アメリカでは、イスラム教徒がテロリスト以外の形で主人公になる作品は極めて稀よね。両親に育てられ、自分の子どもを持った、本当に素敵な男性であるイスラム教徒の姿を追って、寄り添い、彼の身になって考えることはすごく大切なことだと思う。彼は本当に素朴で、素敵な人よ。モハメドゥのような人たちに大きなダメージを与えてきた、ステレオタイプを覆してくれる作品なの。世界の人々、そしてアメリカ人にとっても、人間の精神の適応力を見せてくれる。私たちは、人間性を武器に残酷さや非人道的行為と戦い、乗り越えていくことができる。(本物の)剣を持ち出す必要はないの。不正に対する最高の治療薬は、公正な世界なの。
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