1974年にイギリスのドーセット州プールで生まれ、サマセット州のウェルズで育つ。20歳にして低予算のインディー映画『A Fistful of Fingers』(95年)で長編デビュー。同作の評価を受けてパラマウント・コメディ・チャンネル『Mash and Peas』の監督に抜擢される。BBCなどでコメディ番組の制作を手がけたあと、長編2作目のコメディ・ゾンビ映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04年)で世界的に注目を集め、以後は『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』(07年)『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(13年)『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(13年)などの話題作を次々と発表。『ベイビー・ドライバー』(17年)は自身初の全米興行収入1億ドル超えヒットとなった。
『ラストナイト・イン・ソーホー』エドガー・ライト監督インタビュー
60年代ロンドンと現代、異なる時代を生きる女性の“夢”と“恐怖”がシンクロ
スティーブン・キングを唸らせたタイムトラベル・スリラー
今最も新作を待たれる監督のひとり、『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライト監督4年ぶりの新作『ラストナイト・イン・ソーホー』が、12月10日より全国公開される。
キャストは『ジョジョ・ラビット』(19年)で脚光を集め、M・ナイト・シャマラン監督作『オールド』(21年)にも出演した新鋭トーマシン・マッケンジー、そしてNETFLIXオリジナルシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』でゴールデングローブ賞ミニシリーズ/テレビムービー部門の主演女優賞を受賞した若手女優アニャ・テイラー=ジョイが名を連ねる。
トーマシンとアニャは、ロンドンの異なる時代に存在する2人の若い女性を演じる。彼女たちはある恐ろしい出来事によって、それぞれが抱く“夢”と“恐怖”がシンクロしていく。同じ場所で異なる時代を生きる2人が出会ったとき、果たして彼女たちに何が起きるのか……。
ホラーの帝王スティーブン・キングは「この作品は特別」「捻りの効いたタイムトラベル」とtwitterで投稿。LAプレミアに参加したタイカ・ワイティティ、リチャード・カーティス、グラミー賞歌手のベックらも絶賛する。そんな60年代ロンドンと現代を舞台に、ホラー映画への愛を込めたエドガー・ライト監督にインタビューした。
・『クイーンズ・ギャンビット』のアニャ・テイラー=ジョイが歌い上げる60年代ヒット曲
監督:60年代には、成功を夢見て大都会に出てきた若い女の子が、その大胆さゆえに徹底的に痛めつけられるような映画がたくさんあった。とても道徳的でセンセーショナルに思えたので、そんな映画を現代と60年代の時間軸とを組み合わせて作れないかと思ったんだ。だから2つの物語が次第に絡み合っていくような形になってるんだよ。
監督:ホラー映画が与えてくれる“感情”が大きな参考になった。映画の題材を探す時、僕は自分が好きな映画や、その映画が与えてくれる感情から考え始めることがあるんだ。マイケル・パウエルやアルフレッド・ヒッチコック、イタリア映画だとマリオ・バーヴァやダリオ・アルジェントとか、敬愛するサイコスリラーやホラー映画がたくさんある。それらが与えてくれる感情を、どうやって現代の映画で呼び起こすかを考えたよ。
監督:僕とエロイーズは、大人になってからロンドンに来たという意味で共通している。僕もエロイーズのように、初めて大都会に引っ越してくることの大変さを経験してる。サンディについては一般的な60年代のイメージをもとにしてるけど、当時のことを綿密にリサーチして物語を拡げたよ。
監督:まず子どものころ、両親がかけていた60年代の音楽を聞いて育った。両親共稼ぎの家庭だったので、1人家で過ごす時間が多く、両親のレコードをよく聞いてたんだ。そこから自分が生まれる前の60年代への興味が生まれた。ロンドンへ移ってから、仕事や社交の場として、ソーホーは25年の間、僕の人生の大きな一部となった。建物は昔のまま、歴史的なスポットも残ってるし、60年代スウィンギング・ロンドンの震源地ともなった。多くの意味で思い入れの深いところなんだ。
監督:例えばソーホーの地下にある編集室で仕事していると、この古い壁は過去に何を見てきたのだろうかと、想像をかき立てられる。何百年もの間にここで何が起こったのだろうかと。またソーホーは娯楽や文化の歴史があるだけでなく、犯罪の世界でも大きな役割を占めた。2つの世界がとなり合わせになっている。60年代は特にそれを象徴する時代ではないか思う。人生誤った人と出会うことでとんでもない悲劇となる。そんな危険をはらむソーホーの側面にも興味がわいた。行きつくところホラーという発想は、僕のソーホーへのオブセッションから派生したと言えるね。
アニャとトーマシンの役柄を撮影前にチェンジ
監督:2015年のサンダンス映画祭の審査員を務めた時に、『ウイッチ』(15年)でアニャ・テイラー・ジョイを初めて見た。脚本はまだ書いていなかったが、そのときに彼女こそエロイーズだと思ったんだ。その後アニャは『スプリット』(16年)や『サラブレッド』(17年)に出演し、それを見て彼女はもうエロイーズ役を演じきってしまったのではないか、サンディのほうがふさわしいのではないかと感じた。脚本が完成すると、当初考えていた以上にサンディという役が広がり、とても重要な役となった。脚本を読んだアニャもサンディ役をすごく気に入ってくれて、サンディを演じたいと言ってくれた。
トーマシンは『足跡はかき消して』(18年)を見て、素晴らしい演技が印象的だった。すっかり役になりきった自然な演技が素晴らしい。本作品で彼女の演技がパワフルなのは、彼女が18歳というエロイーズの年齢だからだろう。18歳は初めて自宅を離れて大学にいく年齢だ。トーマシンはエロイーズと同じく、18歳でロンドンにやってきたんだ。エロイーズの体験を綴る映画で、トーマシンがエローズと同じ体験をした、その現実味には説得力があると思う。彼女の演技のおかげで、まるで実体験のような実感が出たと思う。
監督:ソーホーは近年急速に変わっている。にもかかわらず60年代のソーホーをスクリーンで再現できたのはうれしい。今でも心臓部のいくつかの場所がそのまま残っている。ディーン・ストリート、フリス・ストリート、他にもグリーク・ストリートでも撮影した。残念ながらカフェ・ド・パリは現在閉鎖され営業はしてない。だが実際の場所での撮影は多く、事実を知ったら多くの人は驚くと思う。当時の服装をしたエキストラや、当時の車などを使って。CGではないんだ。カフェ・ド・パリの内部撮影は、セットを作った。予算の上でセットのほうが現地ロケより安かったから。でも本物そっくりで、当時を知っているダイアナ・リグも驚いてたよ。
監督:2人の女性主人公が中心になっている映画なので、エロイーズとサンディをインスピレーションとして、60年代の女性シンガーを中心に選んだんだ。シラ・ブラック、パチューラ・クラークなど。彼女たちの曲には、明るくてもどこかにメランコリーな気持ちが込められていて、歌詞もどこかビター・スイートで、それが僕にとっては魅力だったんだ。またその点もこの映画にぴったりだよね。
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