『GUNDA/グンダ』ヴィクトル・コサコフスキー監督インタビュー

驚異の映像美と臨場感で迫る驚異のドキュメンタリー

グンダ

1匹の母ブタと農場の動物たちが織りなす深淵なる世界

『GUNDA/グンダ』
2020年12月10日より全国順次公開
(C)2020 Sant & Usant Productions. All rights reserved.

“最も革新的なドキュメンタリー作家”と称されるヴィクトル・コサコフスキー監督の最新作『GUNDA/グンダ』が、12月10日より公開される。

コサコフスキー監督が新たな題材に選んだのは、母ブタのGUNDAと農場に暮らす動物たちの深遠なる世界。生まれたばかりの子ブタたちが必死に立ち上がり、GUNDAに乳を求める。一本脚で力強く地面を踏み締めるニワトリ。大地を駆け抜けるウシの群れ……。迫力の立体音響で覗き見るその世界には、ナレーションや人工的な音楽は一切ない。研ぎ澄まされたモノクロームの映像が動物たちの本質に宿る美に迫り、驚異的なカメラワークが躍動感あふれる生命の鼓動を捉える。

そこで暮らす生き物たちの息吹に耳を傾けると、普段であれば誰も気に留めないようなその場所が、突如“無限の宇宙”に変わる。斬新な手法と叙情豊かな語り口で描かれる映像詩に、名優ホアキン・フェニックスがエグゼクティブ・プロデューサーに名乗りをあげ、世界の名だたる映画作家たちが賛辞を送った。

これまでに国内外で100以上の映画賞を受賞し、本作で再び脚光を浴びるコサコフスキー監督にインタビューを行った。

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──本作を制作したきっかけは何ですか?

監督:私たちが地球を共有している生き物たちについての映画をずっと作りたいと思ってきました。彼らを見下したり、擬人化したりすることはしません。また、感傷的に表現するのは避け、ヴィーガンのプロパガンダにならない映画を目指しました。しかし、私の企画は、イルカやパンダなど可愛らしい見た目の動物たちの映画ではなかったため、資金調達は不可能でした。30年近く努力して、ついにノルウェーの映画制作会社Sant&Usantがリスクを冒して製作を引き受けてくれました。『GUNDA/グンダ』は私が映画監督として、そして人間として作った作品の中で最もパーソナルで重要なものです。

──母ブタGUNDAとの出会いを教えてください。

監督:信じられないほどに幸運だったのは、リサーチのためにノルウェーの郊外に訪れた初日にGUNDAに出会えたことです。私がブタ小屋の扉を開くとGUNDAがやってきたので、プロデューサーにこう言いました。「私たちの“メリル・ストリープ”を見つけた」と。
GUNDAは非常にパワフルなキャラクターで、彼女の感情や経験を理解するのに通訳は必要ありません。そのため、私は一切の字幕や吹き替え、音楽を抜きでこの映画を作ろうと決めました。観客がただGUNDAを見て、身を任せ、感じられるように。私にとって、映画の本質は見せることです。伝えることではありません。

──本作には台詞も、音楽も、字幕もありません。なぜ動物と自然の音だけで、その他の説明を排したのか教えてください。

監督:通常、動物についての映画は、人間が動物について語ったり、説明します。そうすると、動物から注意がそれてしまいます。動物の屠殺や血なまぐさい詳細を説明する映画も目指しているものとは違います。それはプロパガンダであり、人々から拒否されてしまうからです。制作者の感情を排除し、動物たちの息遣いや、彼らがどのようにコミュニケーションをとるのかを見せたかったのです。
音楽を使わないという決断もとても重要でした。だからこそ、立体音響技術「ドルビーアトモス(Dolby Atmos)」を取り入れ、様々な複雑なサウンドをすべて手に入れました。録音技師兼音響デザインのアレクサンダー・デュダレフの助けもあり、成しとげることができたと思っています。
そして、カメラの力で何ができるかチャレンジしました。そもそも「映画」はそのためにあって、私たちが普段見逃しているかもしれないことを見せてくれるものです。「映画」の原点に立ち返ることが正しいアプローチだと思いました。

──モノクロで撮影した理由は何ですか?

監督:モノクロで撮影したのも、似たような理由です。ひとつは「映画」の原点に私を立ち戻させてくれるから。また、状況によっては観客が色に圧倒されてしまうことがあるからです。生々しい血の色や鮮やかな色味の背景にはつい気を取られてしまいますよね。私は本作で可愛らしいピンク色の子ブタたちを見せたいわけではありません。そのような形で観客を誘惑したくなかった。モノクロにすることで、見た目よりも魂に焦点を当てることができると感じたのです。

──どのような機材を用いて撮影を行ったのですか?

監督:デジタルシネマカメラ「アリ(ARRI)」のアレクサミニ(Alexa Mini)を使用しました。軽量小型ボディーでハイスピード収録機能があります。ズームレンズは「アンジェニュー(Angénieux)」24-190mmです。照明はごくわずかに使用しました。実際、ほとんど気づかない程度です。

ウシの声域は人間の7倍、鳴き声の種類は300以上

──冒頭のローアングルショットの撮影について教えてください。

監督:そのシーンの撮影は信頼する共同撮影監督エーギル・ホーショル・ラーシェンが行いました。優れたプロだけが知っている秘密がひとつあります。それはカメラと被写体の距離です。近すぎると居心地が悪く、遠すぎると物足りなくなる。もっと近づいても良いのかどうか、人間関係においても私たちは常にこの心配の種を持っています。カメラも同じなのです。

──撮影する際に気を使ったことは何ですか?
グンダ

監督:私は撮影前に動物行動学について学び、自分に何ができて、何ができないのかをよく理解してから撮影に挑みました。まず、GUNDAと子ブタたちが住む場所を観察し、同じ小屋を隙間つきで設計しました。そして、カメラのレンズと8本のマイクを小屋の中に入れたので、どこへでも移動して様々な角度から撮影することができました。
また、ウシの声域は人間の約7倍以上あるので、非常に低い音から高い音まで出すことができます。鳴き声に着目したところ、少なくとも300種類の「モー」がありました。さらにウシが特定の状況で特定の種類の「モー」を言っていることに気づきました。GUNDAも子ブタに呼びかけるときに特定の音を出します。間違ったタイミングで別の音を使いたくなかったので、音声の編集は慎重に行いました。

──編集はどのように進めたのですか?

監督:撮影時間は7時間なので、編集はスムーズに進みました。人々が長尺の映画を見るのがあまり好きではないことを知っていますから。より芸術的な方法で構成して、門の前で始まり、門の前で終わるようにしました。私はとても直感的な映画監督です。ある場所に来たら、どこにカメラを置けばいいのかがすぐにわかるし、何が起こるか予測できるので、ショットを見て自分自身でカメラを回します。撮影後はすぐに編集をします。毎回自分でチェックしていれば、撮影時に必要なシーンが把握しやすい。撮影をしているときは、すでに頭の中で編集が始まっていますね。

──ホアキン・フェニックスがエグゼクティブ・プロデューサーになった経緯を教えてください。

監督:共同プロデューサーのジョスリン・バーンズが本作を観て、「フェニックスなら気に入るだろう。彼と話をするべきだ」と言いました。私は本気にしていませんでしたが、本作を観た彼の反応は素晴らしかった。彼は、この映画に関わりたい、もっと多くの人に見てもらいたいと言ってくれました。彼がいなければ、何百万人もの人に予告編を見てもらうことはできなかったでしょう。