1984年9月12日生まれ、東京都出身。2000年にドラマ『六番目の小夜子』(NHK)でデビュー。2004年に内田英治監督の映画デビュー作『ガチャポン』に出演し、他にもドラマや映画、舞台に多数出演。声優としても活躍。2018年、ドラマ『ホリデイラブ』(テレビ朝日)』で演じた井筒里奈の“あざとかわいい”キャラクターが人気を博す。2021年は内田監督のドラマ『向こうの果て』(WOWOWプライム)に主演したほか、ドラマ『それでも愛を誓いますか?』(テレビ朝日)』、配信ドラマ『東京、愛だの、恋だの』(Paravi)、『松本まりかクリスマス24時間生テレビ ~24時間で恋愛ドラマは完成できるのか!?~』(ABEMA)に主演。『教場 II』(CX)、『最高のオバハン 中島ハルコ』(東海テレビ・フジテレビ系)に出演。
人間らしくて愛着を持てるヒロイン“花子”
“あざとかわいい”のイメージが、痛快に覆される。松本まりかが最新主演作『雨に叫べば』で演じるのは、バブル景気に湧く1980年代後半、鳴り物入りでデビューを飾ろうとしている新人映画監督の花子。美貌と派手ないでたちでインパクト大だが、迷いに迷う彼女の演出に撮影現場は大混乱し、ベテランスタッフや俳優たちに囲まれた花子はパニック状態に……。
誇張された個性がぶつかり合う群像劇にして、花子の成長物語でもある本作品。異様な活気で暴走しながら、思いがけない着地をする世界を描いたのは内田英治監督(『ミッドナイトスワン』)だ。
男尊女卑やパワハラが横行する中で、必死に自分のヴィジョンを守り抜こうともがく花子の滑稽なまでの必死さを演じた松本は、役をイメージした80年代風の衣装で取材の場に現れた。花子が話しているような軽い錯覚に誘われるが、演じたキャラクターと作品を丁寧に見つめて語る言葉の数々は、やはり俳優・松本まりかのもの。
ドラマ『向こうの果て』で組んだ内田監督との仕事について、俳優という仕事について語ってもらった。
松本:ありがとうございます。
松本:全然違う世界でした。なにしろこっちはコメディーじゃないですか。
設定が80年代というのだけが一緒で、キャラクターも全く違います。撮影は2作品連続して撮ったのですが、本当にご縁があるなと思って。ワクワクしましたね。『向こうの果て』は結構つらい役だったので、「これが終わったら、ポップな楽しいのができる」と思いながら(笑)。本当にワクワクしましたし、内田さんから「またもう1個お願いしたい」と思ってもらえるのは、すごくうれしいことですよね。
松本:花子はすごく純なまま、子どものときにいろいろ感じたコンプレックス、トラウマみたいなものを表現として昇華したいと思っていて。ただ80年代の映画界ってまだ男社会ですよね。乗り込んでいっても、なかなか難しかった時代です。それでも自分を貫こうとした女性で、だけど全然できなくって、ダメダメなところもあって。貫こうとする意思の強さって素晴らしいんですけど、花子の指示する演出が全然意味がわかんない。「湯気が」とか(笑)、切羽詰まると閉じこもってしまったり。そういうところが人間らしくて、すごく出来のいいヒロイン像ではないから、愛着を持てるかな、と思います。
松本:そうですね。そこがまた笑えるところで、そういう面を持たせてくれたのがすごく良かったな、面白い役をもらえたな、と思っています。『向こうの果て』のときは、重い役だったので。
なかなかコメディーをやる機会もそんなになくて。結構シリアスな役が多かったので、うれしい。楽しかったです。
松本:そうそう(笑)。
松本:確かに頼りないですよね。駄目な監督だと思います。ファッションがすごい派手で、自分のスタイルや意思を持って貫こうとする姿勢は良いんですけど。確かに自分が俳優だったら、ちょっと困っちゃいますね。
松本:それは正直に。でも新人監督だし、すごく純粋なのは分かりますよね。監督としてもいつか化けるんじゃないかな、とも思うし。
妥協してうまくやれちゃう世の中だけど、ぶつかり合いもたまにはいいな
松本:「カット!」と言った瞬間にみんなが振り返って監督を見る。つまりみんなが自分を見る、その感じ。それはやっぱり私は経験したことがなかったんですよね。でも、確かに自分もやってたなと思って。実際演じてみて「カット!」とかけて、みんながサッとこっちを向くシーンがあるんですけど、監督って、この視線を向けられながら、撮影しているのかというのを知ることができて、それはすごく面白い体験でした。何回もNGを出していると、確かに「もう1回」って、とても言いづらい空気。言った瞬間のみんなの表情の変化が、もうまざまざと分かる。スタッフさんたちの感情もすごく分かるし、やっぱり監督というのは撮影現場を取り仕切る人なんだな、と改めて思いました。
監督がOKかOKじゃないかによって、現場って動いていくんです。本当に自分の発言1つで現場が動いていく感覚が、やっぱり俳優にはない体感なので、それはすごく面白かった。みんなの視線に胃がキリキリするのは、内田さんの実体験だそうです。自分の本当にやりたいもの、見せたいもの、撮りたいものがあるけど、時間が足りなかったり、ちゃんと演出を言葉で伝えなくちゃいけないプレッシャーもあります。映画は周りの人たちと作る総合芸術だから。監督にはその葛藤が常にあるのが分かりました。いつもは監督の気持ちに立って、というよりも、俳優目線で監督にどう伝えるか、だったんですけど、逆の目線はこういう感じなんだというのを体得できたのがすごく面白かった。今後に生きると思います。
松本:そんなに。
松本:そうですね、全然違います。昔は何十テイクもやったらしいですけど。今は撮影しながら、編集でどうしようとか考えられてるのかもしれないですね。
松本:共感しました。幼少期の家庭環境があって、大人になって表現したいと思うようになる。極端に言えば、表現しなければ生きられない、みたいな。それで彼女が選んだ職業は監督で、私はこの仕事を選んできたんです。生い立ちから突き動かされるという感覚は一緒だなと思いました。監督だろうが俳優だろうが関係なくって、核になる部分に何ら変わりはないんです。あのときの記憶をすごく美しいものに昇華したい、という花子の表現欲みたいなものは深く共感できました。
松本:全てのキャラクターが面白おかしく描かれていますけど、楓さんは本当に面倒くさい女優だなって(笑)。あんな要求されたら確かに面倒くさいかもしれない。でも、そんなとこが愛おしいですし、面白いですよね。彼女にも、自分の表現というものの美学がある。そういうポリシーみたいなものを全員が貫いた結果、カオスになってるんだと思うんです。こう撮影したいとか、照明をここに当てたいとか、個々の欲求そのままに動いてる感じ。でもそれはイコール、自分の表現なんです。ここだけは譲れない、妥協を許さない、という。それが衝突を生むんだけど、それは自分にとっての美しさを貫き通した結果。それぞれが美しいと思うものを表現したい欲が、バチバチバチぶつかるんだけど、美しさのぶつかり合いって、そういう面倒くささ、衝突がつきものなのかもしれません。今って、妥協してうまくやれちゃう世の中だけど、そういうぶつかり合いもたまにはいいなと思います。
松本:そういう環境が面白がれるのは、やっぱりいいなと思います。今は調和というのがすごく求められていて、そこからもいい作品はできますけど、同時に調和を優先しすぎて、抱え込むストレスもあると思うんです。私たちが20代前半だった頃に比べると、今の若い世代は本当に総合力が高くていい子で、かつ表現もうまくて。私たちの頃は、駄目なところやできないところも全然見せちゃって、その一方で自分のやりたいことを隠さずに貫いてる感じが私はすごく美しいと思ったし。カオスが理想という感覚はありましたね。
松本:すごく楽しかったです。踊りがそんなに得意じゃない俳優さんたちもたくさんいたので、みんなで一生懸命練習しました。このカオスがボリウッド映画みたいになって、歌と踊りでうまくまとまる。ハッピーな気持ちになって終わる。もう本当にこれ以外ないな、と。やっていてすごく楽しかったです。歌ったり踊ったりって、難しい思考を超えて、いいものだなって思いました。
松本:そうですよね。
松本:この2年間、私は本当にコロナと逆行していたような気がして。休みなく、それこそ周りを見る余裕もなく自分のことに突っ走った、一番忙しかった2年間なんです。たくさん仕事できるのはすごいありがたいことでしたけど、体験したからこそ分かるのは、本当に1つ1つ丁寧に私は仕事をしていきたいんだということです。1つ1つ向き合って、考えて、感じて、人生を味わって行きたい。素晴らしい現場ばかりだったんですけど、それを1つ1つ味わう余裕がなかった。たくさん仕事させていただいて、ありがたい反面、それが悔しいというか。自分のキャパというものがあることを、自分自身で知ることができました。やっぱり余裕とか余白を持つのが、いかに大切なことかを知りました。
自粛期間が自分の人生を考える時間になった方々もいらっしゃると思いますが、私にとっても転換期というか、人生観がガラッと変わるような体験をした2年間でした。今までは全力投球できていたけど、それすらもできなくなったら、やっぱりそれは自分の望んでいたことではないから。これからも1つ1つ、丁寧に取り組もうと思ってます。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
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