1991年6月24日生まれ。愛知県出身。AKB48で活動した後、NGT48に移籍しキャプテンを務めるなど、注目を集める。2018 年に同グループを卒業したあとは女優として舞台やドラマ、映画で幅広い作品に出演し、活躍の場を広げる。主な出演作は、つかこうへいの名作舞台「『新・幕末純情伝』FAKE NEWS」や白石和彌監督作『サニー/32』、テレビ東京「女の戦争~バチェラー殺人事件~」など。
中国語の習得は挫折する暇もないほど大変!
2022年は日中国交正常化50 周年という記念すべき年だが、その幕開けにふさわしい作品となるのは日中合作映画『安魂』。中国国家一級作家にも認定されている作家の周大新が一人息子に先立たれた実体験を物語にし、『火垂るの墓』の日向寺太郎監督と『うなぎ』の脚本家・冨川元文がタッグを組んで映画化した。
中国から実力派俳優たちが集結するなかで唯一の日本人キャストに抜擢されたのは、物語において重要な役割を担う日本人留学生を演じた北原里英。映画や舞台などで着実にキャリアを積み重ねる中、海外作品で学んだことや中国の現場ならではのエピソード、そして結婚による心境の変化などについて語ってもらった。
・映画『安魂』死に別れた息子に瓜二つの青年に出会った父親は会いたい気持ちを抑えきれず…!
北原:お話をいただいたのは、中国での撮影が始まる1ヵ月くらい前のことで、急に飛び込んできたお話でした。しかも、全編中国語のセリフでオール中国ロケ。これはすごいチャレンジになるなと思いましたが、頑張りたいという気持ちのほうが強かったので、正式にお受けすることにしました。
北原:中国語は5単語くらいしか知らなかったので、最初は「大丈夫かな?」という不安もありました。でも、私ならきっとできると信じて声をかけてくださったと思うので、そこにはしっかりと応えたいなと。あとは、“追い込まれたい願望”みたいなものが私の中にあったので挑戦しました。でも、蓋を開けてみたら、思ったよりもセリフが多くて辛かったですけど(笑)。短い期間の中でも、あのときできるベストは尽くせたと思っています。
北原:中国にはAKB48の姉妹グループもあったのでイベントなどで行ったことはありましたが、上海に2回行ったくらいだと思います。ただ、今回の撮影で行ったのは小京都みたいな古い町並みが残っているところで、日本人が1人もいないような場所。観光地ではないので、英語も通じませんでしたが、すごくいい経験になりましたね。上達したと言えるほどではないですが、2週間いるだけで中国語に耳が慣れていくのも実感しました。
北原:中国語教室に通って、中国人の先生とのマンツーマンレッスンを2日に1回くらいのペースで受けました。とはいえ、本当に大変で何度か挫折しそうになったことも。ただ、そんなことで立ち止まっていたら間に合わないとわかっていたので、その度に自分を奮い立たせていました。
北原:そうですね。でも、それが逆によかったのかもしれないです。もし半年くらいあったら、途中で「もうやめようかな」となっていた可能性もありますけど、1ヵ月だったので「いやいや、ここでやめたら間に合わない!」という感じでしたから。
北原:めちゃくちゃ難しかったですね。というのも、中国語は発音が違うと意味が伝わらないんですけど、感情を乗せようとすると発音が変わってしまうことがあったので。そこを何度も注意されてくじけそうになりましたし、正直言って、心の中では何度も「できない!」と思ってましたよ(笑)。そんなことを考えながらも、なんとか、いろんな壁を乗り越えていきました。
北原:それは、バラエティ番組の「相席食堂」です(笑)。というのも、中国ではSNSや動画配信サービスなどで見られないものがあるのを知らなかったうえに、マネージャーさんと2人で1つのWiFiしか借りずに日本から行ってしまったので、朝10時の段階ですでに容量がいっぱいになったこともあって。インターネットが自由に使えない生活は本当に辛かったです。そんな中で、たまたまいくつか事前にダウンロードしていたのが「相席食堂」。電波がなくても見ることができたので、落ち込んでいたときはそれを見ながら頑張りました。本当に、私にとっては支えでしたね(笑)。
結婚は“絶対的な味方”ができて心強い
北原:一番驚いたのは、自由な環境だったことです。たとえば、助監督さんがいきなり肉まんを食べ始めたり、スタッフのひとりが「内緒だよ」と言いながら昼休憩に近くの売店でビールを飲んでいたり(笑)。カルチャーショックを受けたこともありましたが、徐々にそれがおもしろくなってきて、最後のほうはいいなとさえ思うようになりました。
北原:そういうユルさみたいなものは日本の現場にはないので、改めて日本人はまじめなんだなと思いました。でも、それぞれに違う良さがあるというのは感じています。あとは、年上の人を敬い、家族を大事にする文化があるので、日本人も中国人も関係なく、年下のスタッフが年上の方を慕っていて、家族感が強い現場だったのはすごく素敵でした。
北原:とにかくみなさんのお芝居が素晴らしくて、勉強させていただきました。言葉がわからなくても、どういう感情なのかがものすごく伝わってくるので、お芝居は言葉の壁を超えることを知りました。
北原:これまでは日本の映画を特に好んで見ていたこともあって、海外志向はまったくなかったんですが、自分の視野の狭さを痛感しました。こんなにがっつりと語学を学ぶ経験はなかったですし、長期で海外に行くことも、違う言葉で芝居をすることも、海外の人と仕事をすることも、すべてが初めて。本当に刺激的な2週間でした。最近は少しお休みしていますが、撮影から帰ってきても中国語は続けているので、いまは日本語以外の言語も話せるようになりたいという願望はすごく強いですね。この作品のおかげで初めて海外に興味を持つようになったので、自分にとっては大きな変化がありました。
北原:挑戦するなら、また中国の作品が良いなと思っています。あと英語圏といえば、過去に少しだけ英会話学校に通っていたことがあるんですが、私の英語ってとにかくカタカナ英語で、全然向いてないんですよ……。そういったこともあって、これまでは海外に興味を持てなかったのかもしれないですが、中国語の先生からは結構ほめてもらえたので、「もしかして中国語向いてるんじゃない?」と調子に乗っています(笑)。
北原:同じお仕事をしているというのもありますが、結婚によって絶対的な味方が1人増えたようには感じています。まだ結婚したばかりなのでわからないですが、今後仕事に対しての考え方も変わって行くんだろうなという兆しみたいなものは見えているところです。
北原:人生においても役者としても先輩なので、相談はしますし、アドバイスもかなりもらっています。いつも一緒に本読みをしてくれるんですが、ワークショップに行ったくらいの価値があるので、すごく勉強になっています。決して厳しくはないですが、いろいろと細かく指摘してくれるので、それで気付かされることは多いですし、自分はまだまだだなと感じることは多いです。家に先生がいるみたいで、心強いですね。
北原:実は、旦那さんが以前、ドラマ『大地の子』で、中国ロケを経験していたので中国語もまだ覚えていると教えてくれました。といっても、「僕は日本人の子どもです」のワンフレーズだけでしたが(笑)。
北原:はい、これはもう完全に超えましたね!(笑)
北原:「30歳はもっと大人だと思っていた」と感じると聞いていたので不安もありましたが、私自身は30代がすごくしっくりきている気がしています。いい意味で焦りがなくなり、いろんなことに諦めがついたというか。30代のほうが自分の中で折り合いをつけて進めて行けそうな予感がしています。
北原:それはあまり変わっていないですが、女優以外のことにも目を向ける時間が増えたように感じています。これまでは芝居がしたいという思いだけで走ってきたので、「女優でありたいと思っていなきゃいけない」という気持ちが強かったんですけど、最近は可能性があるなら色んなことにもっと挑戦してもいいんじゃないかなと思うようになりました。
北原:しゃべることが好きなので、バラエティ番組にもっと出たいですね。それ以外だと、子どもがすごく好きなので、「子どもにまつわる仕事はどうだろう?」と思うことも。子どもと関わる仕事には興味があります。
北原:今回は舞台が中国なので、中国の文化が色濃く描かれています。その根本にあるのは家族愛。グッとくるところが散りばめられていて、どの国の人が見ても伝わる作品になっているので、みなさんにもそのあたりをぜひ見ていただけたらと。あとは、頑張った私の中国語にも注目していただけたらうれしいです。
(text:志村昌美/photo:谷岡康則)
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