1982年韓国生まれ。05年に大韓民国芸術院を卒業し、アシスタントディレクターやプロデューサーとしてCMやミュージックビデオの制作を手掛けた後、12年にロンドンの映画学校を卒業。数多くの短編映画やCMを監督。16年、後に釜山国際映画祭で注目を集めるSF短編映画『Habitat』(18年)の脚本がベネチア映画祭「ビエンナーレ・カレッジ・シネマプログラム」に選出されたことをきっかけに、『声もなく』で長編デビュー。初長編にして韓国で最も権威のある青龍賞新人監督賞、韓国のゴールデングローブ賞と呼ばれる百想芸術大賞監督賞を受賞する快挙を果たし、アジア・フィルム・アワードでも新人監督賞と脚本賞にダブルノミネートされた。
闇の掃除人と誘拐された少女、阻害されて生きる者たちの出会い
闇の仕事を請け負う口のきけない青年と誘拐された少女の邂逅を描き、アジア・フィルム・アワードで2冠(主演男優賞・新人監督賞)に輝くなどアジアの各映画賞を席巻したサスペンス『声もなく』が、1月21日より全国順次公開される。
貧しさゆえ犯罪組織からの下請け仕事で生計を立てる口のきけない青年テインと相棒のチャンボクは、身代金目的で誘拐された11歳の少女チョヒを預かる羽目になり、期せずして誘拐犯罪に巻き込まれていく。犯人と人質という関係でありながら、社会に居場所を持たない彼らは、いつしか疑似家族のようになっていくが、彼らの”誘拐”は予測不可能な事態へと向かっていく。
『バーニング劇場版』(18年)の若手演技派ユ・アインが、無名の新人監督のオリジナル脚本作に出演したことでも話題となった本作。アインは一切セリフがない難役に体重を15キロ増量して挑み、韓国のアカデミー賞と呼ばれる青龍賞の最優秀主演男優賞、百想芸術大賞の最優秀演技賞を受賞した。
メガホンを取ったのは、自身のオリジナル脚本をもとにした本作でデビューを果たしたホン・ウィジョン。犯罪映画の常識を覆すユニークな演出と個性的なキャラクター描写により、切なさとアイロニーが入り混じる新しいサスペンス映画を作り上げている。
青龍賞と釜日映画賞、アジア・フィルム・アワードの新人監督賞など多数の賞を受賞し、同じ80年代生まれの女性監督として『はちどり』(18年)のキム・ボラ監督と共に脚光を浴びるウィジョン監督。彼女にインタビューを行った。
・全国民に身代金要求! 韓国を騒然とさせる誘拐事件の裏に隠されていた真実とは!?
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監督:最初に考えたのは、「Without a Sound, We Become Monsters(音がなければ、私たちはモンスターになる)」という文章でした。自分ではコントロールできない環境で育ち、生き延びるために戦わなければならない時、人はモンスターに変化するのではないかと思ったんです。でも、よく考えると、「モンスター」という言葉にあまりにも強いイメージがあるので、その部分を外しました。
監督:子どもの誘拐という非常に重いテーマを、どうやって違和感なく表現するかに時間をかけました。現実的で恐ろしい表現ではなく、皮肉を込めて心地よく表現したかったんです。凶悪な犯罪ではなく、社会的な意識に焦点を当てたかった。
主人公たちは客観的なモラルの代わりに自分の基準で生きてます。あわただしい現代生活の中で、善悪の判断を捨てていく彼らの姿は、私たちをも象徴していると思います。
監督:2人の主人公の仕事を通して、善と悪の境界が曖昧な環境では人間が変化することを強調したいと思いました。犯罪組織の清掃員として働いても、直接的に他人を傷つけるわけではありません。「犯罪に加担したが悪人ではない。ただ自分の仕事を忠実にこなしているだけだ」と正当化することもできます。彼らは一見すると悪人とは思えません。多くの犯罪映画で見られるような、どうでもいい脇役なんです。
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対照的ながらも互いの弱点を補い合う完璧なペア
監督:本作を準備している間、テインとチャンボクのキャラクターのバランスをどのようにとるかについて最も悩みました。テインは言葉を話さないので体を使って表現しますが、チャンボクは足を痛めているので言葉を優先します。互いの弱点を補い合い、完璧なペアになっています。
また、少し年上のチャンボクは、人生の真実を知っていると思っており、それを年下の同僚に親切に、そして真摯に伝えようとします。その姿を皮肉を込めて描きました。テインとチャンボクだけでなく、多くの登場人物が先輩・後輩の関係でペアになっているのは、社会のもつれた構造を描こうとしたからです。
監督:チョヒは3世代に渡って息子が1人しか生まれなかった家庭で育ちました。そこでは女性が差別されていて、彼女は生まれた時から自分は弟より価値がないと本能的に思わされてきました。だから自分の価値を高めることで、生き延びる術を見つけなければならなかったんです。
家父長制に支配された社会に生まれた彼女は、社会の基準に合わせて激しい競争の中で生きていくことを学んできました。私は、社会が設定した価値基準に達することができない人たちのことを描きたいと思いました。テインやチャンボクと同じように、チョヒはこの社会との関係性において欠陥のあるキャラクターなんです。
監督:最も意識した要素はアイロニーです。それは設定にも含まれていますが、犯罪映画にはあまりない淡々とした日常的なトーンを使うことで、より極端なものにしたかったんです。登場人物の日常生活を観察していると、何気ない瞬間にアイロニーが垣間見えるようなものを目指しました。
重いテーマに重いスタイルで臨まなければならないこともありますが、私自身は困難な状況を直接的にではなく、象徴的に表現することが多いです。観客を退屈させてしまうようなシーンを避けつつ、メッセージをしっかりと伝えたいと思いました。
監督:チョヒとテインが直面する出来事に象徴的に表現されていますが、人は生きていくうちに決断を迫られることがあります。この映画の中で、彼らが状況をよく理解せずに行動せざるを得ないシーンが、皆さんが自分の人生を考える上での一種の慰めになればと思います。
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