1977年アメリカ・マサチューセッツ州生まれ。カーネギーメロン大学演劇学部を卒業後にハリウッドに移り住み、ナニーとして働くかたわら、女優、脚本家としてのキャリアをスタートさせる。初監督作の短編『Mother』(06年)でカンヌ国際映画祭のシネフォンダシヨン部門を初めとする様々な賞を受賞。TVシリーズの脚本家を経て、『タルーラ 彼女たちの事情』(16年)で長編監督デビューを果たす。本作『コーダ あいのうた』が長編2作目となる。
『コーダ あいのうた』シアン・ヘダー監督インタビュー
サンダンス映画祭で史上最多4冠に輝いた胸熱の爽快感動作!
家族役には実際に耳の聞こえない俳優をキャスティング
サンダンス映画祭で史上最多の4冠に輝き、配給権争奪戦の末に映画祭史上最高額の約26億円で落札された爽快感動作『コーダ あいのうた』が、2022年1月21日より公開された。
高校生ルビーは4人家族の中で1人だけ耳が聞こえる。家族のためにルビーは幼い頃から“通訳”となり、家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。新学期、ルビーは憧れのクラスメイトと同じ合唱クラブに入る。すると顧問の先生がルビーの歌の才能に気づき、名門音楽大学の受験を強く勧める。だが、ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられず…。
主人公のルビーには『ロック&キー』で注目を集め、“NEXTエマ・ワトソン”の呼び声も高いエミリア・ジョーンズ。共演は『シング・ストリート』(16年)フェルディア・ウォルシュ=ピーロ。そしてルビーの家族には、『愛は静けさの中に』(86年)のオスカー女優マーリー・マトリンを始め、全員が実際に耳の聞こえない俳優たち。
フランス映画『エール!』(14年)をベースに、支え合う家族がそれぞれの夢に向かうことで絆を強くする姿を描いたシアン・ヘダー監督にインタビューを行った。
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監督:まずは見た人が感動してくれることを願ってます。私はストーリーテラーとして、いつも観客が物語に身を委ねられるような作品を作りたいと思ってます。物語に身を委ねながら、その旅の途中で笑ったり、浄化されたり、泣いてもらいたい。でも突き詰めれば、とてもシンプルな家族の物語だと思います。
また、私たちが触れたことのない文化やコミュニティーについても描いてます。多くのシーンには音がありません。そこがこの作品の面白いところです。登場人物は、アメリカ式手話をしながら一言もしゃべらずに座って会話をします。だからこそ、観客は見方を変えざるを得ない。この視点の変化を、自分の生活に持ち帰ってもらえると嬉しいです。
聾者と出会った時に、多くの人が恐怖を感じるという事実に私は驚きました。私たちは言葉を使わなくても体や顔を使ってコミュニケーションが可能だというのに。聾者と対面した聴者が対話の前に途方にくれたり、パニックになって心を閉ざす瞬間をたくさん見てきました。私もこの作品を機会に、久しぶりに自分の身体と向き合いました。
アメリカ式手話は「悲しい」と伝えたいときに、本当に悲しそうな顔をしなければ伝わりません。実際にその感情を体験しなければならないんです。その瞬間を生きなければ伝わらないコミュニケーション法だと思います。
手話に触れた人のほぼ全員が、手話をやってみたいと言います。しばらく手話を観察したあと、「これは手話でどうやるの?」と聞いてくるんです。私の子どもは3歳と5歳ですが、彼らが一番好きな手話は「破壊」です。「この手話は最高だよね」と言うんですよ。みんなが手話を学べば、コミュニケーション能力が増すように思います。
監督:耳の聞こえる俳優を雇うつもりはありませんでした。正直、そういった考えに嫌気が差してたんです。映画にはスターを起用しなければならないという、古い固定概念から生まれた風潮でしょう。でも、今は時代が変わって、そういう考え自体が良くないものとされるようになりました。それに私は真実味のある物語を作りたかったので、スターを起用することは考えてなかったんです。
監督:思い通りにキャスティングをさせてくれるプロデューサーに出会えたのが幸運でした。だからこそ、トロイやダニエル、マーリーのような俳優に出会えたんです。耳の聞こえる役を演じることはできませんが、彼らは本当に素晴らしい俳優です。彼らのように長く演劇に携わってきた聾者の俳優をキャスティングしない理由はありません。
私自身も手話を習得して、聾者たちと触れ合いながらの作品を撮影できました。スタッフ全員にとって、多くを学ぶ機会になったと思います。耳の聞こえる人たちもみんな手話を学び始めたんですよ。助監督と私は手話で会話しました。船に乗っている時は、お互いの声が聞こえづらいから手話が楽なんです。
俳優たちの間に生まれた本物の家族のような絆
監督:トロイはデフ・ウェストの公演に出演しているのを見ました。本当に素晴らしかった。その時は教授っぽい、お堅い役だったから、今回の役柄とは真逆の印象でした。ところが、オーディションではキャップをかぶって、グロスター地方の漁師みたいに見えたんですよ。役にぴったりだと思いました。それに彼の手話がとても好きだった。
彼は本当におかしいの。オフカメラで演技をしていると、どんなに真剣なシーンでも相手役の俳優が吹き出してしまうんです。トロイはいたずら好きだからね。演じた役柄のフランクそのものでした。
マーリーは、もちろん素晴らしい俳優です。かなり前から彼女の演技を見てきました。最初にキャスティングしたのも彼女です。マーリーに会った時、彼女となら真のコラボレーションができると確信しました。プロ意識が高く、無茶ぶりにも快く応えてくれました。ダニエルは、まさに大発見でした。
撮影中、キャストの間に不思議な絆が芽生えて、本物の家族のようになったんです。予想すらしませんでした。初めて一緒に食事をしに行くと、ウェイターの言っていることをエミリアが自然にトロイとダニエルに手話で通訳し始めたんですよ。映画の設定そのものだと思いました。リアルタイムで役を生きていたんです。
監督:脚本を書いていると、すべてのキャラクターを想像しながら書いているわけですから、登場人物の声が聞こえてきます。脚本の読み合わせでは、耳の聞こえる人たちが脚本を声に出して読みましたが、実際の映画では脚本の台詞を聞くことはないので不思議な感じがしました。この脚本の台詞は、いずれ「見る」ことになるわけですから。
台詞を手話に翻訳する過程はとても重要ですが、手話を文字として書きだすことはできません。だから、翻訳家に送った脚本がフランス語に翻訳されて戻ってくるような単純なプロセスではありませんでした。今では友人の手話監督アレクサンドリア・ウェイルズと脚本を読みながら、ひとつひとつのシーンについて話し合いました。彼女が台詞を手話にし、それを見て「それ面白いわね」「この言葉の手話はどうするの?」と聞いたり。
脚本に「死にたい」という台詞があったんですが、その手話から暴力的な印象を受けなかったので「この状況に殺されそう」というニュアンスに変えたことがあります。そうやって台詞を丁寧に手話に変換しました。その過程で「そうか、私はこういうことが言いたかったのか」と腑に落ちることもありました。彼女の手話を見ながら色んな感情を発見していくような体験でした。
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