1996年生まれ、神奈川県出身。2019年、ドラマ『初めて恋をした日に読む話』の不良高校生・由利匡平役で一躍話題に。同年、映画『愛唄−約束のナクヒト−』、『チア男子』、『いなくなれ、群青』で主演を務め、ドラマ『あなたの番です−反撃編−』、『4分間のマリーゴールド』に出演。ドラマ『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う』(20年)、『私たちはどうかしている』(20年)、映画『きみの瞳が問いかけている』(20年)に主演した他、21年はドラマ『着飾る恋には理由があって』、映画『あなたの番です 劇場版』など話題作にも出演。20年エランドール新人賞、第43回日本アカデミー賞新人俳優賞、第15回ソウルドラマアワード・アジアスター賞を受賞。22年はTBS×ハリウッド共同制作ドラマ『DCU』に出演中。その他、主演映画『嘘喰い』、映画『流浪の月』、主演映画『アキラとあきら』の公開も控えている。
『新聞記者』米倉涼子×綾野剛×横浜流星インタビュー
これは現実か? 政治問題に斬り込んだ話題作を語る
日本国内でこういうことが起こり得ているということに興味を持ってもらえれば本望(米倉)
2019年に公開され、進行形の政治問題やスキャンダルに切り込んだ内容が大きな反響を呼び、日本アカデミー賞で作品賞ほか3冠を達成した映画『新聞記者』。同作を手がけた藤井道人監督が、新たにNetflixのシリーズとして全6話で描く『新聞記者』は、さらにスケールアップし、東都新聞社会部の記者・松田杏奈を主人公に据えて、とある国有地払い下げ問題の真相に踏み込んでいく。
権力の不正を徹底追及しつつ、さまざまな葛藤や弱さも抱える松田杏奈を演じた米倉涼子、組織の論理に翻弄され、良心の呵責に苦悩する若手官僚・村上真一を演じた綾野剛、新聞配達をしながら大学に通う就活生で、監督自身の視線が強く反映された木下亮を演じた横浜流星に話を聞いた。
・官邸の圧力、事実のもみ消し…メディアと権力の攻防を描く映画『新聞記者』シム・ウンギョン×松坂桃李インタビュー
米倉:挑戦させてくださったのは藤井監督です。いつものようにやろうと思ったら簡単にできるんですよ、多分(笑)。でも、普段の自分とは全然違うところから出てくるキャラクターだったので、いろいろと“削ぐ”大変さがありました。監督には撮影中に「もっと優しい松田さんでいてください」と言われていました。削いでいく、抑えていく。なるべく歩幅も大きくしない。手も動かさない。カッコつけない。颯爽としない。私がいつも求められているようなキャラクターでは一切ないな、と思いました。そういうキャラクターを演じられたことを本当にありがたく思ってます。
米倉:お話をいただいたときにプロットはありました。映画の『新聞記者』はすごく好きでしたし、こういう風に描きたいとお伺いしていたので、あまり驚かなかったですね。今回はドラマなので尺が伸びますから、そこをどうコーディネートしていくのかにも興味がありましたし、私は社会派の作品が好きなので、この作品に私を、と思いついていただいて嬉しかったです。
米倉:やりたいことがやれる、ということでしょうか。私は地上波のドラマのお仕事がほとんどですが、(最近)例えば歩きながら携帯を使うのは絶対にやっちゃいけないし、思いついたことが生かせない場合が増えてきているんだと思います。いろいろと制限があるので、その意味では、今回はやりたいことを詰め込んで怯えずに作っていますし、日本だけじゃなくて世界の人に見ていただけるのは嬉しいことだと思います。
米倉:どの国でもきっとあるんですよね、ここに描かれるようなことは。今、日本国内でこういうことが起こり得ているということを、たまたま……もしかしたら時間潰しかもしれないですけど、再生してくださる方がいて、興味を持って共感してくださる方が少しでも多ければ、本望です。
米倉:私は東京新聞社に伺って、監督と一緒に4時間ぐらいかな、お話を聞きながらフロアを回らしていただきました。実際の記者の方々に仕事の仕組みや、その方たちのやられてきたことなどをお聞きしました。
横浜:実際の新聞配達の練習をしました。広告の折り込みのやり方を見せてもらったり。折り込み作業は初めてのことでしたけど、皆さんは日常的にやってることなので、僕も同じようにできるように、持ち帰って家でも練習しました。僕の演じた亮はどこにでもいる若者という立ち位置で、あることがきっかけで身の回りの環境が変わっていく役でした。全く政治に興味がなかったけれど、どんどん興味を持っていく。亮と同じ気持ちになれたらな、と思っていました。
綾野:僕の場合は誰かをベースにするわけにはいかなかったので、誰ともお会いしていません。この作品も、どこまでも一部に過ぎないのです。1つフィクションを通して、われわれが、監督が見てきたものがその1つの答えではありますが、それはごく一部の答えである。村上を生きるに当たって、別の誰かの習慣を入れるのではなく、台本から炙り出されたもの、米倉さん演じる松田さんの動き、台詞、日本国民としての立ち位置だとか、そういったものを素直に、この作品にとっての村上の習慣だけに賭けようと考えました。もっと言ったら、どの官僚の方にお話を伺えばいいのか、何が正解か。皆さんそれぞれの向き合いがあって正義があるはずですから、自分たちはそれを作品にしようとしている。まずは自分たちが感じてることをきちんと踏襲することから始めるというのが、俳優である以前に人間として大切です。
米倉:こんなイケメンが映画界にいるんだって、初めてお会いしたとき思いました。それだけです……っていうのは嘘ですけど(笑)、「思ったようにやってください」と言ってくださって。背が高いのに腰が低くて(笑)。
けれど、いざ、やっぱり撮影に入ると、粘り強くて一歩も引かない(笑)。監督の声が小さくて、「不思議な組だな」とはじめは思って。今まで私は地上波のドラマが多くて、映画の組はほとんど経験したことがないんです。なので、本当に新しい世界に飛び込んだな、と感じました。剛くんも流星くんも、監督とは一緒にお仕事されてるじゃないですか。私は全員「初めまして」でした。前に一緒にお仕事したことがある人は1人もいなかったので、ものすごく緊張して。そういう意味でリレーションシップを取ることもしたいですし、自分の役にも没頭したいんだけど、何が正しくて、どうしたいのかというのがまだ分からなかったので、『新聞記者』だけではなくて、もう一回、藤井組でリベンジしたいなと思っています。
横浜:最初にこの話をもらったときに、一番描きたかったところを託したいと言ってくれたので、非常に嬉しいことだと感じましたし、相当な覚悟が必要だなと感じていたんです。監督は寄り添ってくれました。いい作品を作るためには本当に一切妥協をしない人なので、だからこそ身を任せられるし、毎回たくさん、知らない自分を引き出してくれる。話していても、感覚というか考えが近いところがあるので、一緒にいて安心する人です。
横浜:……(深く考え込む)。
米倉:考え過ぎだよ(笑)。
綾野:(笑)。
米倉:仲が良すぎるんだよ(笑)。
横浜:そうだ。米倉さんに対して最初、めちゃ緊張してました。
綾野:してましたね。
横浜:(綾野に)めちゃ緊張してましたよね。
綾野:めちゃしてた(笑)。
米倉:うそ。
横浜:本当に。
綾野:一貫して言えるのは、芝居だけに集中できる環境があるということだと思います。流星君もこれからそういうことが起きてくると思うし、米倉さんはずっとやられていると思いますが、人によっては現場の態勢も見えすぎてしまいます。脚本というものに対して、俳優が芝居をするまでの間にいろんな時間があるんです。すごくシンプルに言うと、自分たちは自分たちの部署だけに集中するというのが、一番いい。それぞれの分担とリスペクトの集合体が組ですから。藤井組は、芝居以外のことは全部任せてしまえる器の広さというか、そういう努力をして作り上げた器だと思うので、素直に芝居のことだけ考えられる環境がそこにある。気を遣わなくていいと言ったら変ですが、気を遣うのは自分の役であったり共演者に対してであるということに帰着する環境を作ってくださっています。とても安心してできます。
綾野:はい。作品と生きてる時間に集中ができるといいますか。「芝居だけでいい。毎回。藤井組は」とふと気づくと思っている自分がいます。彼もそこをすごく大事にしている、各部署に対するリスペクトと、各部署を信じるから全部自分でやろうとしない。分担するというところに真価がある。
一緒に知っていきませんか、という思い(綾野)
米倉:私は信じると思ったら信じるし、信じないと思ったら無視しちゃう。人は会ってみないと分からないです。
綾野:同感です。架空じゃなく、現実を見つめないと。
米倉:じゃあ例えば、お芝居は? 役者さんが芝居してるじゃない? それを見て、「あの人、ちょっと得意じゃなさそう」とか、そういうのある?
綾野:僕、全くないです。
米倉:ゼロ?
綾野:全くないですね。
横浜:僕もないです。
米倉:私、すごくある(笑)。
綾野:それ、ちゃんとその方が役を全うしているってことじゃないですか(笑)?
米倉:でも、「そうなのかもしれない」って、ある作品を見て思ったことがある。
横浜:僕も会ってみないと分からないです。でも、どちらかというと最初はまず、物事に対しては、疑いから入ってしまう節はあるかもしれないです。多分、まだ臆病なんだと思います。信じるということについて。裏切られたら怖いと思っているんじゃないかな。まだ25歳で未熟というのはあるんですけど。
米倉:言論の自由がありますからね。普通に何かを思って、それを伝えたかったら伝える人がいていいと思うんです。それを「何様なんだ」と思う方もいらっしゃると思うし、そこは噛み合わないんですけど。それでも伝えたいと思う方は信念を持って伝えればいいですし、もし私に今後そういうことがあったとしたら、伝えたいことがあるならば私は言うと思います。
横浜:伝えたいことは伝えていいんじゃないですか。
横浜:なんで恐れるんですか。
綾野:伝えるという姿勢自体をマイナスな情報だと思い込んでいると、恐れるという言葉が生まれてくるように感じるんです、僕は。
綾野:僕はとてもシンプルで、役者を生業にしているので、役を通して伝えたいことを届けています。なぜなら明日の僕はもう分からないから。この何秒後も、もう僕は“今”の僕じゃないんです。
ですから作品で伝えているということです。お仕事をいただいて読んだ台本で感じたことを自分なりに表現する。その想いが誰かに気づいてもらえたり、感じてもらえたりするんではないかと、そういう思いを持ってやってますから、伝えたいことは作品を通して伝える。僕たちも作品を通して知っていく。だから伝えるというよりは、一緒に知っていきませんか、という思いです。ずっと。
一緒に芝居できる幸せを噛みしめながら撮影していた(横浜)
米倉:見ただけで、それぞれの色があって、それぞれのオーラでエネルギーがあるのは、もうお分かりだと思います。やっぱり一緒にやっていくに当たって、俳優という仕事をやることに対しての向き合い方が、真面目な2人だなと思いました。
綾野:米倉さんとのシーンは遠くから僕を見ていることが多かったですね。
米倉:そう。でも、病室のシーンで、2人で語ったときは楽しかったよね。私は楽しかったです。
綾野:僕もです。
米倉:楽しいというか、ものすごくいろいろ抱えていたので。
この作品は『新聞記者』というタイトルですけど、新聞記者を通していろんな人の正義や重みとか責任といったものを皆さんにお届けしている、松田杏奈はそういう役だと思うんです。役として、みんなの重みを、背負っている姿を私は見てきているので、剛くんが演じる村上さんの重みを一番感じたのは、あの病室の姿かな。
横浜:僕はそんな「ここがすごいですよ」と言うのもおこがましい。全てです。現場の姿とか、役への向き合い方、一緒に共演させてもらって、全てにおいて、すごいな、と感じましたし、一緒に芝居できてることが幸せだな、と毎回噛みしめながら撮影してました。
横浜:本当にフランクで、現場を引っ張ってくださる姉さんなので、その雰囲気を作ってくださるのが素敵です。亮が松田さんに会いに行って、そこでいろいろ話ができたシーンがあります。そのときの松田さんの本音や信念、素直に話してもらえたときの目だったり、全てにおいていろんなものを感じました。
綾野:2シーンです。
横浜:村上は亮にとって憎むべき立場の人です。でも、その人にもいろんなことがあって、実際に村上の姿を見たときに、どうでも良くなった、というか、よく分からなくなった。それは、剛さんのあの姿を見たらそうなりますよね。その空気感を作ってくださったこと、作品全てとの向き合い方、入り込み方を目の当たりにして、やっぱり改めて自分も、もっともっと考えていかないといけないと感じました。
綾野:もっと早く出会い、共演し、もっと早く背中を見たかったというのはすごく思いました、素直に、全部ひっくるめて圧倒的なプロだなと。
僕にも流星君にも、それぞれのプロ意識はありますが、どちらかというと、僕たちは内包してる体質で、米倉さんはちゃんと、それを表現されています。
米倉:でも、私の本当の姿じゃないからね、藤井組の私は(笑)。(普段は)もうちょっと元気。
綾野:知ってますよ(笑)。共演する前にTV局でお会いしたことがあって。すごく遠くから歩いてくる米倉さんの存在が魅力的で。向こうから歩いてくるのをずっと見とれてました。
米倉:ごめんね、廊下が部屋みたいになってて(笑)。
綾野:かっこ良かったです。
米倉:スタジオの前が廊下なんです。そこでみんなストレッチとかしてるから、通る人にはちょっと失礼な格好をしてるときがある(笑)。
綾野:今回ブロードウェイに再挑戦されることもそうですし、冷静にとてつもないことをやってるんです。
ニュースだけで人に鳥肌を立たせる。それを素直に受け止め体感できる人間で自分はありたい。敬意を持てる自分でありたい、といつも思っていますが、今回も、米倉さんに気づかせていただきました。
流星君にも、心を動かされています。彼は今、自分でいろんなカラーをまといながら、七色になって発光しようとしている。その中の、自分も一部になれたらと思っていますし、ここからさらに一緒に駆け上がっていきたいですね。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
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