脚本家/監督/プロデューサー。初監督長編映画『Monsters and Men』(18年)が18年度サンダンス映画祭でプレミア上映され、審査員特別賞初作品賞を受賞した。また、ドレイクとスプリングヒル・エンターテイメントが製作総指揮を務めたNetflixのシリーズ『トップボーイ』(11、13、19)のシーズン3の3エピソードを監督した。その後、2作目の監督長編映画『Joe Bell』(20年)が20年度トロント国際映画祭でプレミア上映され、21年夏にAmazonとロードサイド・アトラクションズにより配給された。現在、デビッド・サイモンとジョージ・ペレカノスが脚本・製作総指揮を務めるHBO放送の待機ミニシリーズ『We Own This City』でメガホンを執っている。また、脚本と監督を務める予定のボブ・マーリーの伝記作品に取り組んでいる。
『ドリームプラン』レイナルド・マーカス・グリーン監督インタビュー
自身もメジャーを目指した監督が描く、アスリート家族の愛の物語
映画スタッフには姉妹の家族も! 家族の雰囲気を身近に感じて手にしたのは様々な「物語」
2度のアカデミー賞ノミネート、人気・実力共にハリウッドのトップを極めたウィル・スミスの最新作『ドリームプラン』が2月23日より公開される。
ウィル・スミスがプロデューサーとして映画化を熱望したのは、世界最強のテニスプレーヤー姉妹、ビーナス&セリーナ・ウィリアムズの破天荒な実父リチャードの驚きの実話。本作品は、テニス未経験のリチャードが、2人の娘が生まれる前から独学で作った唯一無二の「計画書=ドリームプラン」と、その計画を信じ続けた父、娘、家族の絆、2人の世界チャンピオン誕生の知られざる秘密を描いた感動作だ。
監督を務めるのは、レイナルド・マーカス・グリーン。実話を元にした作品でありながら、「この映画にしかできないこと」を追求したという監督に、制作の経緯や思いを語ってもらった。
・衝撃の実話!テニス経験ゼロの父が、娘を最強のテニスプレーヤーにするために作った78ページの「ドリームプラン」とは?
監督:何の予備知識もありませんでした。正直に言うと、この一家のことはほとんど知らなかったのです。私は熱心なテニスファンというわけではなかったですからね。
私が持っていたのは、ビーナスとセリーナに対する敬意だけでした。テニスというスポーツにおける“ブラック・エクセレンス”(=黒人の優秀さを示す存在)としての彼女たちへの敬意です。
私はタイガー・ウッズについても同じ敬意を持っています。「なんてすばらしいことだ。有色人種の人が何かすごいことをしている」というような気持ちでした。こういうことは応援したくなります。すばらしいことです。ウィリアムズ家についてはインターネットや業界紙で目にしたことがある程度で、それ以上は何も知りませんでした。けれども、この家族のことをよく知るにつれ、複雑にからみ合った、とても豊かな物語が見えてきました。
脚本もすばらしいものでした。ザック・ベイリンは見事な脚本を書いてくれていました。ですから、私に課された仕事のひとつは、彼と一緒にいかにこの作品をより深いものにするかを考えることでした。私たちが本当に追求するものは何か。私たちは何を捜し求めているのか、私たちは何を言おうとしているのか。これらの点を明確にする努力が、それからの数ヵ月間における本作品製作のプロセスでした。
監督:私の父親は、子育てにおいて2人の野球選手を育てているつもりの人でした。そのため私たち兄弟も、ウィリアムズ姉妹と似た境遇で育ちました。人生の最初の3分の1を野球場で過ごしたのです。これは冗談ではありません。子ども時代に野球場以外の場所で過ごした記憶が私にはあまりないのです。数え切れないほどのチームでプレーし、オールスターチームに参加し、遠征旅行にも行きました。
けれども私たちはシングルファーザーの家庭で育ったので、いつも父親がそばにいてくれました。いつもです。私たちは、他の人たちもほとんどがこんなふうに育つものだと思っていました。いつどんなときも親がそばにいて、父が、私と兄に与えてくれたのと同じように、過剰な愛情と時間を他の人たちも受けているものだと思っていたのです。
さて、話を進めますと、私は大学でも野球をしていました。メジャーリーグのトライアウトを2回受けました。成功はしませんでしたが、かなりいい線までいきました。ですから、私は、ハイレベルな競技スポーツのアスリートになることがどのようなことであるか、また、そのようなアスリートにとって挑戦とはどのようなものであるかを知っていました。ある一定のレベルまで達すると必ず直面すること、諸々のプレッシャーのことなどです。
いいですか、テニスと野球はまったく異なるスポーツですが、スイングの動作に関しては、多くの共通点があります。(テニスラケットの振りは)ピッチングとヒッティングを同時に行うようなものです。私は子どもの頃から野球で多くのことを学んできたため、それらをテニスに当てはめて考えることができます。そして、テニスのことを知り、ご家族の方々と話しているうちに、当然のことながら、このスポーツに惚れ込むことになり、テニスを深く学ぶこととなりました。
私にとって、テニスについての映画を作るということよりも重要なことがありました。それは家族についての映画を作るということでした。テニスをする家族です。
ビーナスとセリーナが史上最高のアスリートに数えられることは誰もが知っていることです。ならば私たちの映画の中にしかないものは何なのか? これが、私が自問自答していたことであり、脚本の中に探し求めたことであり、キャストたちに求めたことでもありました。我々がまだ知らなかったことを見つけよう。この家族がどのようなものであるかもっと深く掘り下げよう。そしてこれらの追求は、ご家族の方々との対話のおかげで可能になりました。
ザック(脚本家)とプロデューサーたちと私は、ビーナスとセリーナとオラシーン(母親)に会うことができました。イーシャ・プライス(オラシーンの三女)は、本作品のエグゼクティブ・プロデューサーです。リンドレア・プライス(オラシーンの次女)は、本作品の衣装担当です。ですから、私は一日中、この家族の雰囲気を身近に感じながら仕事をすることができました。
私たちが手にしたのは、様々な「物語」でした。私はストーリーテラーとして、そうした物語以上にすばらしいものはないと思っています。これは彼女たち全員にとっての父親についての物語です。彼女たちすべての視点から、彼がどんな人物であったのかを語る物語です。
インターネットは、ある方向からリチャードの人物像を描きますが、彼の家族はまた別の方向から彼の人物像を描きます。我々の語る物語において、この方向から光を当てることは大切なことだったと思います。それによって「おお、それは本当に面白い話だ。彼についてのその話は聞いたことがない。知らなかった話だ。5人の黒人の少女たちがフォルクスワーゲンのバスに乗って妹たちのためにボールを取りに行っていることも知らなかった。クールだ。リアルだ。それこそが大事なところだ」となるのです。
なぜそれが大事なのか? それは、彼女たちが、単にロボットのようにテニスをしてチャンピオンになった2人の少女ではないからです。
彼女たちは愛情をたっぷりと受けた2人の少女でした。愛情を浴びるように受けて育ったのです。姉たちや両親が、彼女たちを全面的にサポートしてくれていました。彼女たちの人生をより豊かにするために自分たちの人生を捧げてくれていたのです。
お金の面でのサポートではありません。自分自身をどう扱うべきなのか、自分自身をどう尊重するかに関するサポートです。これこそが、映画を鑑賞する中で皆さんが出会うものであり、私たちがこの映画と共にたどる旅の軌跡なのです。
ですから、脚本から出発してスクリーン上の作品へと至るプロセスの多くを占めたのは、ザックや家族と共に、ある確認を行う作業でした。映画の映像がうわべだけの装飾を排し、映画を見る人々にとって、この家族について知ると興味深いと思われる最高の場面が選ばれていることの確認です。そうでなければ、この映画を見る意味がありませんからね。
私たちは新しい発見がしたいのです。そして願わくは、映画を見る過程で、リチャードについて知らなかったこと、オラシーンについて知らなかったこと、この家族について知らなかったこと、ビーナスやセリーナについて知らなかったことを発見してほしいのです。
もしもあなたがこの映画がどんなものか分かっていると思って映画館に来たとしても、実は(まだ)分かってはいないのです。ビーナスとセリーナが現在どうなっているかは誰でも知っています。しかし、彼女たちがどのようにしてそこにたどり着いたのかという旅の軌跡は知らないのです。これこそが(この映画を作る際の)課題だったと思います。
けれども同時に、この映画を作る上ですばらしかったのは、自分たちでこの答えを見つけることに挑戦したことでした。そして、私たちはそれを成し遂げたと思います。
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