1959年10月21日生まれ、新潟県出身。1980年代に舞台俳優としてデビューし、1984年に『瀬戸内少年野球団』で映画デビュー。『タンポポ』『海と毒薬』などに出演し、1986年のNHK連続テレビ小説『はね駒』にも出演。翌87年にNHK大河ドラマ「独眼竜政宗」に主演し、以降、ドラマや映画で活躍。2003年、トム・クルーズ主演で明治維新直後の日本を舞台にした『ラスト サムライ』に出演し、第76回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされる。その後は『バットマン ビギンズ』(05年)、『硫黄島からの手紙』(06年)、『GODZILLA ゴジラ』(14年)などハリウッドの大作に数多く出演し、ガス・ヴァン・サント監督の『追憶の森』(16年)で主演を務める。日本でも『怒り』(16年)、『Fukushima 50』(20年)などに主演。
『TOKYO VICE』渡辺謙×伊藤英明インタビュー
ハリウッドのスケール感を実感、撮影現場の贅沢さ語る
舞台は90年代 すごくカオスで面白い時代を題材にしている/渡辺
1990年代の東京で、日本屈指の大手新聞の記者として裏社会の闇を追うアメリカ人青年がいた。
日本在住のアメリカ人ジャーナリスト、ジェイク・エーデルスタインのノンフィクションをもとに、『ヒート』『マイアミ・バイス』『コラテル』といったクライム・アクションを手がけてきたマイケル・マン監督がドラマ化したのが『TOKYO VICE』。
アンセル・エルゴートが演じる主人公・ジェイクが出会う敏腕刑事・片桐を渡辺謙、裏社会に通じる刑事・宮本を伊藤英明が演じる。
『ラストサムライ』以来、国際的に活躍する渡辺は快活にジョークを飛ばして場を和ませる。本作を機に更なる飛躍が期待される伊藤は、飾らず素直に言葉を紡ぐ。スケジュールの都合でまだ完成作を見る前だった2人に、パンデミック下で全編オール日本ロケの撮影について、マン監督との仕事について語ってもらった。
・[動画]愛と尊敬が止まらない伊藤英明 に渡辺謙が苦笑/『TOKYO VICE』インタビュー1
伊藤:はい、初めてです。その前に自分がグリーンカードを取得するとき、謙さんに推薦状を書いていただきまして、無事に取得できました。
渡辺:取得したらパンデミックが始まっちゃってね。
伊藤:幼い頃から(渡辺謙さんの出演作品を)見ていました。僕は時代劇が大好きで、謙さんが演じられた『独眼竜政宗』とか織田信長も大好きでした。海外でも活躍されていて、本当に偉大な先輩です。
謙さんは絶対人に緊張感を与えないんです。今日もそうですけど、現場の皆さんへの気遣いがあって。迫力があって、すごみがあって、優しさがあって……
渡辺:あんまり言いすぎるとね、ちょっと(笑)。
伊藤:いや、でも本当に俳優として最も尊敬できる方なので、ご一緒できて嬉しかったですし、今日も本当に嬉しいです。
渡辺:一緒に仕事したことなかったし、昔は週刊誌とかで遊んでる写真ばっかり見てたので(笑)、こいつ、ちょっと……と少し思ってました。でも、実際は真面目なやつだし、努力家だし、内に秘めたエネルギーにすごく強いものがあるので。「これから海外でもトライしてみたい」と言われた時に、「わかったOK」と推薦できましたね。体格的にもサイズがあるし、もちろん顔もね。なので、どんどん海外に出てほしいなと思う俳優の1人です。
渡辺:僕らまだ見てないんですよ。
渡辺:90年代って、近いようでいて結構昔なんだよね。アナログからデジタルに本格的に移行する過渡期でもあって、それは単純にテクノロジーだけじゃなくて。ある種、日本の精神構造だったり、社会構造が大きく変革しようとする時期だったと思うんですよね。すごくカオスで面白い時代を題材にしていると思いましたね。
渡辺:まず、やっぱりストーリーテリングの巧みさで、それぞれのキャラクターの背負うべき人生の描き方、そのプロセスから始まるんですよね。それゆえに、普段よく見る伊藤英明ではなく、よく見る渡辺謙でもない、菊地凛子でもない。そこにある役、人間みたいなものがあぶり出されてくる。それをマイケル・マンという、非常にリアリズムを重視する監督が執念深く切り込んでいった。そのプロセスは、海外のドラマとしても僕はかなり秀逸だと思う。
伊藤:きっとそれで終わってます(笑)。
伊藤:ものすごく魅力的な役なんですよね、ダブルフェイスだし。警察社会も知ってるし、ヤクザの世界もジャーナズムも知ってるし、良い部分と悪い部分をうまく自分の中で利用して暗躍する役だったので……
渡辺:英明ってさ、最終話まで知ってた?
伊藤:知らなかったです。
渡辺:そうなんだよなぁ。最初の段階では脚本を全部渡されてなかったんだよね。途中で最終回の脚本が出来てきて。ちょっとびっくりだったよね。
伊藤:読んでびっくりでしたよね。僕の場合はオーディションだったので、実際自分でテープを録って送って、それでコールバックが来て。最初は宮本役だったんですけど、2回目のコールバックでは笠原くんが演じた佐藤役だったんです。
渡辺:ああ、びっくりした。片桐役が来たのかと思った。(一同笑)
伊藤:そんなわけないじゃないですか(笑)。ただ、その後に山下くんが演じたホストの役もやりましたし、他の役もやりました。結局、最後の4回目のコールバックで宮本にまた戻って、今に至るわけです。
渡辺:一面的に見ないんだろうね。役についてもそうだし、伊藤英明という俳優のことも一面的に見ない。中にある可能性みたいなものをいろいろ探った上で、やっぱり適役はここだろう、と決めていく。そのプロセスもさ、なかなかのもんじゃない?
伊藤それがあったからこそ、役作りというか、役に厚みも持たせられたのかなと思います。いろんな役から見ることが出来たので。
渡辺:特に、宮本ってそういう男だもんね。
伊藤:ベースとしてはわかっていたんですけど、こういう描かれ方になるのか!と思いました。
渡辺:だってほら、人生、先までわかんないから。
伊藤:なるほど。
渡辺:そういうことなんだよ。よく伏線回収とかって言うけど、それは脚本家レベルの話で。役者がそれを全部知ったうえで、知らなかったかのようにやっても、やっぱりそれは驚けない。それが今回は俺ですら脚本を読みながら、「おお!? ええっ!?」と思う8回のエピソードだったので、たぶん視聴者の皆さんにもそういう風に感じていただけるんじゃないかと思います。1回ずつ、すごいモーメント(瞬間)があるんです。それぞれのキャラクターにね。それを全回通して見てもらいたいです。見ていて、「あれがこうなるのか」と繋がっていくのはやっぱり連続ドラマの妙だと思うね。
渡辺:やっぱり現役の方にお話を聞くのは難しいですね。現役を退かれた方の監修です。逆に言うと、90年代をよく知ってらっしゃる方ですし、必ずトークバックをもらって確認していきました。例えば、警察用語として正確であっても一般の方に理解してもらえないとダメなので、その辺のせめぎ合いもありました。暴力団員の呼び方にしても、実際はそうは言わないんだけど、僕らは全く聞いたこともない言葉だったりする。組員のランクとか、僕らにはわからないというところでのせめぎ合いも確かにありましたね。
渡辺:ほんとふざけてるよ。(一同笑)。「お前、真面目にやってんの?」って、いつも言ってたんですよ(笑)。
伊藤:(笑)。渋谷の一角を借り切った撮影なんですけど、とにかく撮影の規模が大きくて……
渡辺:なにをすごいビビってんのよ(笑)。
伊藤:もうビビりまくりでした、規模が大きすぎて。これは良い悪いじゃないですけど、日本の民放のドラマだと合理的に現場が進むことが多いんですね。合理的に進めるために変えてはいけないことを多少変えて、ゴールがちょっと変になっちゃうところがあるんです。今回は変えちゃいけないところをちゃんと変えずに妥協せずに撮り進めていくのはすごいと思いました。
渡辺:最初の場面はホテル・オークラの旧館で撮ったんです。取り壊す寸前のちょうどいいタイミングだったんですよ。全部閉めて、撮らせてもらったので、ちゃんと豪華さも出ますよね。
伊藤:伏線回収じゃないですけど、それぞれ理に叶っているというか……
渡辺:(脚本が)よく書けてるんですよね。
伊藤:2話でも……
渡辺:お、踏み込むね。
伊藤:いやいや(笑)。2話で、ジェイクが取材中に言葉のかけ違いで相手を怒らせるシーンがあるんです。実際にジェイク本人が体験したことかどうかわからないですけど、相手側のリアクションが、僕が昔聞いたことのある諺みたいだったので、日本人でもちょっと忘れているようなことを(脚本を執筆した)J.T.(ロジャース)はどこで知ったんだろう?って。そういう取材力とか脚本力も素晴らしかったです。
渡辺:それと、こういう時期だからってこともないと思うんですけど、脚本家がほとんどずっと現場に来るんですよ。「これをちょっと直したいですね」と言うと、その場で書いてくれるんです。ものすごい贅沢なことだと思うんですよね。贅沢だけど、すごく大事なことだなって。やっぱりある意思を持って書いたスクリプトがあるわけです。現場にライターがいなくても直すことはできるんだけど、ライターがちゃんと全体を通した上で「ここは変更できる。ここはできない」とジャッジしてもらえるっていうのは、すごく嬉しいし、すごく大事なことだと思うんですよね。そういう意味では、撮影時間全部ではないですけど、必ず1日1回顔を出して、相談に乗ってくれる。それはすごく贅沢なことでしたね。
渡辺:そう思いますよ。日本でもアメリカでも珍しいと思います。アメリカの場合は全権を委任してると、ライターは来なくてもこっちで直してもよし、となります。ただ、今回の場合はやっぱり熱意だと思いますね。やっぱり最初からJ.T.がこの企画をやりたいと携わってくれていたし、英語だけではない部分でもやるので、それは彼の情熱だと思います。
六本木で飲んだくれて学んだ所作が、この役に反映できた/伊藤
渡辺:どうだった?
伊藤:僕は切らないようにしてましたね。逆にそういう時間が持てたからこそ、よかった。自分の中であれもやらなきゃ、これもやらなきゃっていうパニック状態だった時もあったんです。なので切らずに英語とかのトレーニングもできたので。延期になったのをよかったというのは変ですけど。
渡辺:僕は切りましたね、エンジンは。
伊藤:切ったんですか。
渡辺:切ったよ(笑)。
伊藤:でも、その間もずっと台本をチェックしたり、やり取りして下さってましたよね。
渡辺:だって、それは役じゃないから。
伊藤:ああ、そうか。そういう意味ですね。
渡辺:それはもう全く冷静に、ある意味、客観的に見てるから。でも役としてのエンジンは切りました。ただ、キーは差しっぱなし。いつでもかけられる。でも、アイドリングしてると、ガス欠になっちゃう、この歳なんで(笑)。そういう意味では、僕は1回切りましたね。やっぱり、たぶん半年ぐらいは撮影再開は無理だろうと。GOサインが出ても、COVID対策のいろいろな準備もしなきゃいけなかったですから。ただ日本でも他の仕事は全く入れてなかったので、とにかくずっとキーは刺しっぱなしで、のんびり待ってました。
伊藤:僕はスケジュールがずれて、その間に別の作品が入ったんです。その作品をやりながらも、頭の片隅では英語をどうしようとか、常に考えてました。
渡辺:楽しみじゃないですか。どんなふうにこれを受け止めてくれるのかね。非常に未知の反応ですよ。これをどういう風に受け止めてくれるのか。セカンドシーズがあればいいですけど、あったならば、それにも反映するかもしれない。(登場人物たちの言動が)今だと、もう言えなかったり、やれなかったりすることばっかりじゃないですか。
伊藤:確かに、僕らでもなかなかそういうものを見る機会って少ないと思います。僕にとっては、オーディションから、もう『ラストサムライ』くらいの衝撃があって。
渡辺:(伊藤に向かって)お前、だって1番ワルかった頃じゃない? 90年代って(笑)。
伊藤:……そう……ですね。
渡辺:毎日飲んだくれて。六本木とかで。
伊藤:それがいいと思ってました(笑)。上澄みだけ見て、それが俳優だと思ってた……。でも違うな、と気づきました。
渡辺:とにかく対象になるものへのリサーチ、こういうふうに表現したいということに関しては、ものすごい徹底してますよ。最初にジェイクとヤクザに会いに行く。その時に片桐がどういうネクタイをするかは、もちろん大体決めてあったわけですよ。でも「いや、それじゃない。もう1回全部持ってこい」となった。20本ぐらいに絞ったら、さらに5本ぐらいに狭める。「それ、フィッティングの段階でしろよ」とは思うんだけど、違うんですよ。その場所で、いろんな並びを見て決めたい。現場で試して、最終的にこれと決めるんです。
渡辺:それはね、僕らも一応プロなので、僕らが作ってきたものを尊重してくれますよ。ただ、やっぱりそれをどういう風に撮るかについては、すごくこだわってましたね。彼が腑に落ちるまでは。でもテイク数は、それほど多くはなかった。
伊藤:たぶん、そこまでのプロセスの中でしっかり作ってるんで、あとはそのフィールドの中で、その人生を生きなさいという捉え方を僕はしました。どこから撮られているのかもかもわからないし、「こんな長い時間、何してればいいの?」という感覚に陥るぐらいの長回しもありました。カウンターにもたれながら女性を見たり、酒を飲んだり、トイレに行って帰ってきたら、まだ続いてる。でも「こうしろ」という指示はほとんどなかったです。
日本で「もう1回」と言われると、それはNGなんですが、ここでは「今度は違う切り口でやってみて」ということで、アンセルも全く違う芝居をします。その芝居は違うなと思ってたとしても、いきなり笑い出してみたり、怒ってみたり、全く真逆のことをやる。
渡辺:トライ&エラーだよね。
伊藤:そうですね。それも初めての感覚でした。
渡辺:現場で決めないんだよね。最終的に、やっぱり編集でつまんでいくから、とにかくいろんなモーメントが欲しいということだと思うんですよね。
伊藤:今まで自分が見てきたものや経験したもの、例えば六本木で遊びほうけていたことも、この役だったから反映させられたと思います。90年代の所作というか(笑)、喋りながらシャンパンを頼むとか。撮影で何度も繰り返しながら、こういう所作は遊びながら学んできたな、と思いました。
渡辺:自己肯定(笑)。
伊藤:織田信長じゃないですけど、うつけのふりをして、いろいろ勉強してきました。
渡辺::(笑)
伊藤:それは冗談ですけど、そういうのを出していいんだと。隠すんじゃなくて。隠して役を演じるんじゃなくて、そのまま自分のいいものも、悪いものも全部そこに活かせた。毎日、毎日、夢のような時間で、自信になったというか。自分の捉え方ですけど、マイケル・マンに選んでもらったことも、また謙さんと……
渡辺:いいよ、そんなの(笑)。
伊藤:いや、本当に。謙さんと同じ舞台の舞台に立てて……。自分の自信のなさも役に反映させられたんです。緊張感も使える。今まで自分がやってきたものだと、緊張を隠して芝居を置きに行く感じでした。でも「今、緊張しているものを全部使いなさい」とマイケル・マンに言われたんです。オーディションを4回続けて、役がもう手に届くところに来ると、僕はすごく緊張してしまって、パフォーマンスが落ちたように見えたそうです。その時に「何故そんなにナーバスになってるんだ。何故、最初に会った時みたいに、もっと明るく、エネルギッシュにできなくなったんだ?」と言われて。「全部を完璧に演じようとすると、何も生まれてこない。君がここに入ってきた瞬間、去る瞬間、1つでも輝く瞬間があれば、俳優としてはすごく魅力的に映るんだ」と。
渡辺:いい話だね。
伊藤:その時に「どうやったら君のナーバスの気持ちを取り除いて、芝居ができるんだ」と聞かれて、「この役を僕にくれればナーバスじゃなくて真剣にできる」と答えたら、「セットで会おう」と言われて。え、決まったの? 決まってないの?と悩んで、そこから返事もらうのに1ヵ月近くかかりました。でも自分にとって、本当に未知の経験、言葉でした。
渡辺:おっちゃん、かっこいいんだよな。マイケル・マンはかっこいいんだよ。
伊藤:やっぱり結婚して子どもを持ったことが大きいかもしれませんね。それまでは自分がこういう俳優になりたいとか、将来こういう風な役をやりたいというのは全くなかったんです。俳優としてのキャリアを大事に思えずにいた……自分の生き方のせいもあるんですけど、俳優の仕事とは関係のないところで自分自身を傷つけるというか、自分の自信をそぐこともあった時期です。自分に関わってくれる人たちの顔が見えていなかった。自分のことしか見てなかったんだと思います。
それが自分の恩人であり、父親のような先代の社長(津川雅彦氏)が亡くなったことも大きかったと思います。その後に変換期というか、いろいろ経験して、やっと自分は俳優をやってるんだと言えるようになったかもしれない。たぶん、前にお会いした時は恥ずかしくて言えなかったというか、自信が本当になかったんです。
渡辺:ありますよ。
渡辺:教えられませんよ(笑)。結構核の部分ですから。後半ね。
伊藤:僕はすごく嬉しかったです。ずっとやっぱり共演させていってもらいたいなと思っていて、それも海外の作品でというのは本当に夢が叶った思いです。
渡辺:僕はね、役の性質上、共演するのは楽しいですけど、なんというか、なかなか楽しいシーンではないんですよ。だから、結構バシバシやりましたよね。殴り合ったり、罵り合ったりするわけじゃないんだけど、腹の探り合いというか。
渡辺:いや。基本が英語の脚本ベースなんですよね。日本語のセリフに結局字幕がつくわけなので、そんなにいい加減なことは言えない(笑)。
基本的にはすごく自由にやらせてもらった感じです。1話では僕もそんなにやることはなかったので。「こうやりますね」とやらせてもらって、そんなにナーバスにはなりませんでした(笑)。マイケルの撮影が全部終わったのは、オークラのロケだったんです。その日に「お前は本当にムービースターだ。ちゃんと画面で見たらわかるよ」と言ってくれて、それは嬉しかったですね。
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(text:冨永由紀/photo:谷岡康則)
(渡辺謙 ヘアメイク:筒井智美/スタイリスト:馬場順子)(伊藤英明 ヘアメイク:佐藤光栄/スタイリスト:根岸豪)
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