1993年7月13日生まれ。兵庫県出身。女優、創作あーちすと。映画やドラマ、舞台で活躍し、長編アニメーション『この世界の片隅に』(16年)で主人公・すずの声を演じ、第38回ヨコハマ映画祭・審査員特別賞や第31回高崎映画祭・ホリゾント賞、2016年度全国映連賞・女優賞などを受賞。主演映画『私をくいとめて』(20年)で第30回日本映画批評家大賞主演女優賞を受賞し、近年の主な映画出演作は『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(19年)、星屑の町』(20年)、『8日で死んだ怪獣の12日の物語』(20年)など。『おちをつけなんせ』(19年)で監督・脚本・撮影・主演を兼任。22年は脚本・監督・主演を兼ねた『Ribbon』(22年)が劇場公開された。17年に自ら代表を務める新レーベル「KAIWA(RE)CORD」を発足し、翌年1stアルバム「スーパーヒーローズ」をはじめ多くの楽曲をリリース。20年5月よりオンラインライブ「のんおうちで観るライブ」を開催。アートの展覧会を開催し、22年3月には2度目の個展となる「のんRibbon展不気味で、可愛いもの。」を開催。
さかなくんには浮遊感があると思った/のん
魚に関する豊富な知識と明るいキャラクターでTVや全国各地での講演や著作発表で活躍するさかなクン。子どもの頃から魚が大好きで、そのまま“好き”を貫いて生きてきた道のりを綴った自伝的エッセイを、『おらおらでひとりいぐも』の沖田修一監督が映画化した『さかなのこ』。
主人公のミー坊はマイペースだが、一心不乱なその情熱に周囲はほだされるばかりか、幸せな気持ちにさせられる。そんな不思議な魅力を持つミー坊を演じるのは演技をはじめ様々なアートで表現をし続ける、のん。ミー坊は高校生になると、その“魚愛”を介して校内外の不良たちとも仲良くなっていく。ちょっと怖そうだが、とても気のいい不良たちを率いる“総長”を演じるのは、話題作への出演が相次ぐ磯村勇斗。現実とファンタジーが違和感なく共存する世界で素敵な友情を演じた2人に話を聞いた。
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のん:しましたね。でも、まず本読みに行った時に、ホワイトボードに「男か女かは、どっちでもいい」という貼り紙がされていて。沖田監督の直筆でした。それを見て「ああ、どっちでもいいんだ」とビビッときて。ただ、ミー坊という人間を体現する時、やっぱり体の使い方とか、さかなクンのことはすごく研究しました。YouTubeの「さかなクンちゃんねる」を見て、喜んだ時とかショック受けた時とか、どんな感じになるのか。それから『TVチャンピオン』の時の学ラン姿の宮澤君(注:90年代に高校生だったさかなクンが本名で出場していた)も研究しましたね。
宮澤君の時は全然今と雰囲気が違うんですよ。明るくないというか、どっちかというと暗めな静かな青年みたいな感じ。で、喜んだ時にだけ拳を突き上げて飛び跳ねてる。そこは「あ、さかなクンだ」と思えるところなんですよね。その様子を少し入れたいなと思ったので、ミー坊は宮澤君よりは明るめになってると思います。でも、宮澤君のころから体重感が軽いというか、浮遊感があると思いました。
磯村:そうですね。不良なんですけど、やっぱり沖田さんの世界観ですし、決して悪い人たちではないので、見ている人が愛せるような、愛くるしい不良を演じられたらいいなと考えていました。プラス、不良になりきれない不良たち。本物志向ではない、何か中途半端な総長っていうのができれば、ちょっと面白くなるのかなという点は意識してましたね。
のん:(笑)
のん:面白かったですね。衝撃的でした。脚本では全然違う感じのシーンもいっぱいありましたが、さかなクンをこういうふうに解釈して描くというのが楽しかったし、これを沖田監督が撮ったら……と想像すると、もうドキドキワクワクして、「やりたい、やりたい!」みたいな気持ちでいっぱいになりましたね。沖田監督のファンだったから、沖田組に参加できるのも、すごい幸せだったので。ファンタジー風味で描くという面白さは、さすがだなと思って。撮影が楽しみ!と思ってました。
磯村:最初読んだ時に、ほんとに、めちゃくちゃ心が温まる脚本だなって思って。会話の中にみんなが愛を持っている。愛を持って、その言葉を発している印象が僕にはあって。何かクスッと笑えるツッコミどころもあるんですよね。それも、すごい大きな笑いを狙いに行ってるというよりかは、沖田さんらしいというか、小さな笑みみたいなものが台本上にたくさんありました。読みながらも笑って、「いい台本だな」と、つい口にしてしまったぐらい、ほんとに脚本の段階ですてきだなと思いましたね。
のん:最高でした。すごく幸せな現場でしたね。沖田監督の集中力がすさまじくて、私のこともミー坊としか見えていないというか。映画にどっぷりつかってる方で、その空気がみんなに伝わってくる。役者にとってはすごく幸せな現場でした。
磯村さんも他のみんなも、私がミー坊をやってることに何の疑問も持っていない感触があったんです。だから、自分も現場に入った時に違和感がなくやれました。現場に入る前には、役を解釈したり、どういう振舞いなのかとか構築もしましたが、それでも「大丈夫なんだろうか?」と思ってもいました。それがいざ現場に行くと、先に来ていた不良チームのキャストたちがオフィシャルの写真を撮っていて。いいな、と見ていたら、磯村さんが「ミー坊も来なよ」と言ってくれて。「あ、磯村さんからはミー坊にしか見えてないんだ」という自信になって。「私は学ランのミー坊だ」っていう(笑)、その気になりました。
磯村:それは1つの解釈としてあるでしょうね。学生時代から変わらずにお魚を一途に愛しているその姿が、総長にしてみれば、やっぱり輝いて見えたでしょうし、それをとても愛おしく思えた瞬間でしたね。大抵は大人になっていく中でみんな変わっていく、変化してしまうところを、変わらず好きなことを突き詰めているというのは、とてもすてきなことだと思います。
のん:演技とか以外で、ですよね?
のん:ポテチ(笑)。ポテチがずっと好きですね。
のん:うすしお。
磯村:へえ、うすしおか。
のん:あと、何かあるかな……? ですね(笑)。
のん:「なのにポテチだけなの?」って感じですね(笑)。あ、お絵描き。絵を描くのもずっと好きですかね。
最近ハマっているのは魚をさばくこと/磯村勇斗
磯村:そう言われると、僕はいろいろ変化してきてしまった側かもしれないですね。昔から変わらずこれ好きだなっていうのは……僕は結構飽き性なので冷めてしまうんです、ハマったとしても。だから、ないかもしれない(笑)。
のん:絵描かれますよね。
磯村:絵も描いたりしますけど、でも、絵も……ねえ。
のん:最近は何ですか。
磯村:最近……。最近はお魚かもしれないですね。
のん:お魚。
磯村:魚をさばいたりするのが最近好きなんで。
のん:え? さばいてるんですか。
磯村:はい。
のん:日常的に?
磯村:日常的に。
のん:すごい。
磯村:だから、魚かもしれないですね。ほんとに、この映画に掛けてるわけじゃないですよ(笑)。ほんとにシンプルに。
磯村:それはミー坊のおかげですよね(笑)。
磯村:基本はまずお刺身にして、全部は食べ切れないので1回寝かせて、半分は昆布で締めたりとか、焼いたり、煮つけにして、2日3日に分けて食べますね。
のん:魚好きだ。
磯村:魚好きになっちゃった(笑)。
のん:すごいですね。
磯村:そうなんですよ(笑)。
磯村:そうです。魚さばけるようになったんだよって報告をしたいですよね、ミー坊に(笑)。
のん:私もこの映画をやって、バタフライナイフでさばけるようになった(笑)。ほんとにさばいてますから。
磯村:それは高度過ぎますよね、バタフライナイフは(笑)。
のん:名言ですね。そのとおりって思いました。
磯村:うん。
のん:好きなものを見てる時とか、好きなことやってる時とか、好きなもの食べてる時とか、そういう時は気持ちがオープンになって、何にでもなれる、何でもやれるみたいな無敵感であふれてくるから。それをさかなクンやミー坊が言っていると、すごく説得力ありますよね。自分もミー坊のように、好きなことに純粋にまっすぐ突き進めたら、ミー坊みたいになれるという希望になるとて思います。
磯村:おっしゃるとおりだと思いますね。その言葉で生きていけたら、それが一番楽しい人生だろうなって思います。大人になっていくと、そこにビジネスが入ったり、いろいろと壁ができたりして、なかなかできないとは思うんですけれども。それでも、さかなクンさんを見ていると、好きなものを追求してやっていって、お仕事でもやれてるし、全て楽しんでやってらっしゃると思うので、そういうふうになりたいなという憧れはありますよね。
のん:限度があるかもしれない。もう耐えられないみたいな、自分の才能が死ぬような“嫌い”には関わっていきたくないなと思うから。自分が信じている、自分の“好き”や才能が脅かされるような“嫌い”は避けますね。でも、好きなことをやるためにやらなきゃいけないことだったら……これはきっちり社会人としてやらなきゃいけないことだなというのはやっています。
磯村:僕はストレスになることはやらないですね。何かどこかに数%でも興味があったり、これをやることによって何か新しい発見があったりするのが見えるならばやりますけど、そもそもストレスになるものだったら僕はやらないですね。
磯村:ほんとに感覚肌なのかなと思うぐらい、現場でミー坊としてとても自由に生き生きされていました。お芝居も含めですけど、お芝居してないところでも、ほんとに自由な方だったという印象があります。だから、さかなクンさんを描くに当たって、僕ら不良チームで「のんさんしかいないよね、これをできるのは」と話してました。もうほんとに、ミー坊にしか見えなかったです。のんさんはお芝居以外にも音楽をやったり、絵を描いたり、好きなことをなさっているので、それを見てどこかうらやましいなって思う自分もいましたし、ほんとにすてきな女優さんでもありアーティストでもあるんだな、と感じてましたね。
のん:へえ。嬉しいです。
磯村:はい、すてきでした。
のん:でも私、ミー坊の時は「役者です!」みたいな感じでやってる、と自分では思ってたから。
磯村:そうだったんですね。
のん:沖田監督に、私がファンだとバレないようにしなきゃと思ってたので、「私、役者ですから。演じに来ました」みたいな感じでやってたつもりなんですけど。
磯村:バレてましたね、でも(笑)。
のん:バレてましたね(笑)。
磯村:バレてましたね、僕らに(笑)。
磯村:恥ずかしいな。
のん:演技に対して誠実な方なんだな、と感じました。役に集中してるし、映画の合間も「こうかな、ああかな」と不良役の方たちとみんなで話し合ってるし。そのシーンを作るということをみんなで共同作業でやっていて、めちゃくちゃ誠実に演技に向き合ってる方なんだなと感じました。一緒に演技させていただいてて、楽しかったですね。
磯村:うれしいです。
のん:絶妙ですよね。何か、ニュータイプのヤンキーでしたね。沖田風なのかもしれないですけど。
磯村:うん、うん。
のん:見ていて、「難しくない? それ」みたいなことを沖田監督に演出されて、それを見事に体現されてるから。愛されヤンキーで、すごいなと思いましたね。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
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