『クリエイション・ストーリーズ〜世界の音楽シーンを塗り替えた男〜』アラン・マッギー インタビュー

オアシスを見いだし、クソみたいな成功を収めた男が語るレーベルへの思い

#アラン・マッギー#イギリス#クリエイション・ストーリーズ〜世界の音楽シーンを塗り替えた男〜#音楽

アラン・マッギー

カタギの仕事をしたくなかっただけなんだ

オアシス、プライマル・スクリーム、ジーザス&メリーチェイン、ティーンエイジ・ファンクラブ、フェルト、パステルズ……1980年代から90年代にかけて、世界最大のインディペンデント系音楽レーベルとして数多くのバンドを抱え、様々な記録を打ち立てたイギリスのクリエイション・レコーズ。その創始者であるアラン・マッギーの人生を、多少の脚色を加えつつドラマティックに描いた映画『クリエイション・ストーリーズ〜世界の音楽シーンを塗り替えた男〜』がいよいよ公開される。

クリエイション・ストーリーズ

『クリエイション・ストーリーズ〜世界の音楽シーンを塗り替えた男〜』
2022年10月21日より全国公開
(C)2020 CREATION STORIES LTD ALL RIGHTS RESERVED

『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』のニック・モランが監督を務め、製作総指揮は『トレインスポッティング』のダニー・ボイル、共同脚本は同じく『トレインスポッティング』の原作者であるアーヴィン・ウェルシュが担当。アラン・マッギーを演じるのが同作でスパッド役として多くの映画ファンの記憶に刻まれるユエン・ブレムナーとあっては、クリエイションやアランのことを知らない映画ファンも、ピンとくるのではないだろうか。

ここではロンドンのアラン・マッギーにリモートによるインタビューを敢行。クリエイションの設立から現在に至るまでの彼のキャリアを断片的に振り返ってもらった。

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──先週、日本では「SONICMANIA」というフェスが開催されたのですが、そのステージでプライマル・スクリームが1990年のアルバム『Screamadelica』の再現ライヴを行ない、大きな話題となりました。アランさんにとって、プライマル・スクリームや『Screamadelica』、そしてボビー・ギレスピーという人は、今でも大きな存在でしょうか。

アラン・マッギー(以下 AM):そうだね。彼らが僕の人生の中でも特に重要な位置を占めているのは間違いない。『Screamadelica』は、僕個人としてはもちろん、クリエイションにとっても最高に大切なアルバムだし、ボビーとはお互いが10歳、11歳の子どもだった1971年に出会って以来、ずっと良い友人であり続けているよ。

──そのSONICMANIAには、日本のコーネリアス(小山田圭吾)も出演しており、彼は90年代の日本でいち早くクリエイションというレーベルの魅力を日本の若い音楽ファンに紹介してくれた人物です。コーネリアスの音楽はご存知ですか?

AM:コーネリアスはもちろんよく知っているよ。90年代後半だったかな、実は彼と契約したいと思っていたんだ。

──最近は、元フェルト(1986年から89年にかけてクリエイションに在籍)のマーティン・ダフィとの7インチ・シングルも出しています。
クリエイション・ストーリーズ

AM:それは知らなかったけれど、音楽でいろんなアーティストがつながるのは良いことだね。

──自身の半生が映画になって、どのような気持ちで見ましたか?

AM:最高だったよ。とても気に入った。自分の人生が映画になるなんて、普通に生きていてはなかなかできない経験だからね。

──製作総指揮のダニー・ボイルや監督のニック・モラン、共同脚本のアーヴィン・ウェルシュとは、どんなやりとりがあったのですか?

AM:映画の原作になっている僕の自伝本があるんだけど、ある時それをアーヴィンに贈ったんだ。ただ友人として、彼に読んでほしかったから。そうしたら彼が本の内容を気に入ってくれて、「映画にしたい」と言い始めた。別に映画化してほしかったわけじゃなかったから、とても驚いたよ。ただ、気持ちは嬉しいけれど、絶対にカネが集まらないだろうなと思っていた。ところが早い段階で15万ポンドぐらい集まって、「当面の製作費を確保することができた」という知らせがあった。その本は僕の日本の友人が出版権を持っているから、近いうちに日本でも翻訳されるはずだよ。

──キャスティングについては?

AM:アーヴィンはもともと僕の役をユアン・マクレガーにしようと考えていたんだ。だから言ってやったよ。「彼はスウェーデン人のように端正な顔をしている。でも僕は、どこにでもいるスコットランド人だぜ」とね。そうしたら数時間後に彼から電話がかかってきて、「じゃあ、ユエン・ブレムナーはどうだ?」と。彼は『トレインスポッティング』のスパッド役でユアンと共演していて、とても好きな役者だから「ああ、いいね」と答えた。彼もスコットランド人だしね。

──ユエン・ブレムナーの演技についてはいかがでしたか?

AM:普段の僕をけっこう忠実に演じてくれていると思うよ。ただ、僕はあんなに大声で叫んだりはしない。映画だから、多少の演出は加わっているよ。

──アランさんはパンクムーブメントに刺激を受けてレーベル設立を思い立ったとのことですが、そこにはどんな感情があったのでしょうか。自己表現? 社会への怒り? ビジネス的な目論みは?

AM:特に何も考えていなかったよ。ただ、カタギの仕事をしたくなかっただけなんだ。

──ご自身のバンド、ビフ・バン・パウの成功よりも、レーベルの成功を優先された?

AM:そうだね。正直なところ、自分自身の音楽活動というのは趣味に近くて、ビフ・バン・パウもパーティ・バンドのようなものなんだ。気が向いたらドイツへ行って、200人ぐらいのキャパのライヴハウスで1週間ぐらい演奏する、みたいな感じでね。だから、自分にとって大切なのは何よりレーベルの運営だったと思うよ。

クリエイションの作品は、すべてが素晴らしいという自負がある

──多くの音楽ファンはクリエイションを「アラン・マッギーのレーベル」と認識しています。それは確かな事実ですが、一方で僕は映画を見て、アランさんとエド・ボール、ジョー・フォスターとの絆の強さを強く感じました。彼らの存在はクリエイションにどんな作用をもたらしたのでしょうか。

AM:その通りだよ。クリエイションは、彼らの貢献なくしては成功できなかったと思う。ジョーは僕に音楽的なインスピレーションを与えてくれる存在だし、エドもずっと一緒にやってきた友人だ。

──劇中では「電車に乗り遅れる」という偶然がアランさんの運命を大きく変える描写がありました。ご自身やクリエイションにとって最大の転機を挙げるとしたら?

AM:ごめん、先に伝えるべきだったね。僕が毎度電車に乗り遅れるという描写は、映画のためにアーヴィンが考えた演出なんだ。言ってしまうと、映画で描かれている半分は彼による創作で、実際に起きたことじゃない。その上でクリエイションにとって最大のターニング・ポイントを挙げるとしたら、やはりオアシスと出会ったことだろうね。もちろん、90年代初頭にプライマル・スクリームがヒットしたことも大きかった。個人的な転機は……深刻な薬物依存から抜け出せたことだよ。

──アランさんが今でも聴くクリエイションのレコードを教えてください。

AM:いい質問だね。やっぱりよく聴くのはプライマルの『Screamadelica』かな。あとは……(しばらく考えながら)……さっき名前の出たマーティン・ダフィがキーボードを弾いていたフェルトの何枚かのアルバムは、今でもよく聴き返すよ。

──90年代のインタビューを読むと、クリエイションの設立にあたってあなたは「変化を受け入れることや多様性があること、音楽を共有して他の人たちと感動を共有すること」というビジョンを掲げています。それは16年間の歴史で達成されたと思いますか?

AM:僕がそんな知的なことを言っていたの? 悪いけどよく憶えていないよ(笑)。レーベルを運営していた期間は1983年から2000年までだから、17年間じゃないかな。いずれにしても、クリエイションがリリースした作品は、すべてが素晴らしいものだったという自負があるよ。特に90年代のある数年間は、クソみたいな成功を収めることができた。だからそのビジョンはある程度達成されたと言っていいんじゃないかな。

──クリエイションの運営から離脱されたのち、あなたは新レーベル「ポップトーンズ」を立ち上げました。コズミック・ラフ・ライダーズやキャプテン・ソウルといった新人バンドだけでなく、60年代の伝説的グループであるミレニウムなどの再発も含まれており、よりアランさんの趣味性が高いように感じられますが、このレーベルで目指したことは?
アラン・マッギー

AM:その頃のことはよく憶えていない。ただリリースできるものをがむしゃらにリリースしていたというのが正直なところで、その中にはコズミック・ラフ・ライダーズのような良いバンドも含まれていた。でも、実際は自分が何を目指しているのか分からないままやっていた気がするよ。

──現在アランさんは7インチレコード専門のレーベルを運営されていますが、サブスクリプションで音楽を聴く昨今の音楽シーンについてはどうお考えですか? やはりレコードなどのフィジカル・メディアに愛着がある?

AM:そうだね。フィジカル・メディアは大好きだよ。ただ、最近はヴァイナルのプレス工場が完全にパンクしていて、9ヵ月待ちなんてこともざらにある。だから、フィジカル・メディア専門のレーベルを続けるのはなかなか難しいというのが現状だよ。

──今やっていること、今後の予定などがあれば教えてください。

AM:まずは、今マネージメントしているバンドのレコードを作って、彼らが正当な収入を得られるようにすることだね。やっていることはごくシンプルだよ。

──この映画は音楽ファンだけでなく、「これから何かを始めたい」と考えるすべての人に訴えるものがあると思います。そういう人に対して、何かメッセージをお願いします。

AM:ありのままの自分に忠実でいること。好きなことをやること。ハッピーであること。それだけだよ。僕は今ロンドンでひとり暮らしをしているんだけど、とてもハッピーだ。この映画を見てくれたみんなもハッピーになってくれると嬉しいね。

(text:伊藤隆剛)