『エゴイスト』鈴木亮平インタビュー

「毎回嘘をつかなきゃいけないんだ、これは生きづらいぞ」と初めて体感

エッセイスト・高山真の同名の自伝的小説を、『トイレのピエタ』などの松永大司監督が映画化した『エゴイスト』。14歳で母を失い、田舎町でゲイであることを隠して思春期を過ごした浩輔は、東京でファッション誌の編集者として働きながら自由な生活を送っている。ある日、シングルマザーの母を支えながら暮らすパーソナルトレーナーの龍太と出会い、2人は惹かれ合う。時には龍太の母も交えて満ち足りた時間を重ねるが、彼らの前に思いもよらない運命が押し寄せる。

『エゴイスト』2022年2月10日より全国公開
(C)2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

本作でしなやかで強い主人公・浩輔を演じた鈴木亮平に役作りの苦労や作品への思い、また、テーマのひとつでもある性的マイノリティなどについて熱く語ってくれた。

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鈴木：まさしく僕も原作を読んで同じことを思いました（笑）。「この愛はエゴなんじゃないか？」と自分に疑問を抱き続けている男性の愛の話なのだと捉えました。

鈴木：2つありまして、まず原作が素晴らしくて、愛かエゴかというテーマに興味を持ちました。もうひとつは、ゲイカップルの話でもあるので、ゲイの方の監修を入れて、性的マイノリティへの偏見や差別を助長するような描き方を極力避ける体制を作っていただけると信頼できたからです。

鈴木：インタビューというかヒアリングをたくさんしました。原作者の高山さんは残念なことにお亡くなりになっているので、高山さんを知る方に話を聞いたり、雑誌編集者の方にも、そして、ゲイの方にもお話を聞かせていただき、性的マイノリティについて自分なりに勉強もしました。特に思っていたのは、ゲイの方たちが作品を見た時に違和感のあるものにはしたくないということでした。

鈴木：めちゃくちゃありました。今でも、「まだ自分のなかには拭いきれない偏見があるんだな」ってショックを受けることがあります。例えば、これまでは後輩に「彼女いないの？」「結婚しないの？」って何気なく聞いていたんですよね。尋ねること自体がすべて悪いことだとは思わないですけど、果たして自分の中でその人が異性愛者じゃないという可能性を考えていたかというと、まったく念頭に置いてなかったんです。劇中で「浩輔さん、彼女いないの？」と聞かれるシーンがあるんですが、「自分が同性愛者でそれを隠しているなら、相手に毎回嘘をつかなきゃいけないんだ、これは生きづらいぞ」と初めて体感しました。

鈴木：そうですね、浩輔の嫌な面をいっぱい考えました。監督は浩輔を愛される人にしたいと言われていて、その方向に導いてくれることはわかっていたので、それは僕がわざわざ意識する必要はないと思いました。それよりも浩輔の、人に対して冷たい部分や、実際の高山さんがそうだったように毒舌でズバッと言ってしまうところとか、劇中で見えるわけじゃないけど、浩輔のそういう面を自分のなかで持っていたかったんです。単純に愛に溢れた良い人になってしまうと、人間としての深みがなくなってしまうと感じたので。

鈴木：良い人だからって良い人の面を全面に押し出しちゃうと逆に違和感があって信じられないものになる気がして。僕は浩輔の、ちょっと近寄りがたくて一見嫌な人であるような面を意識していました。僕も観客として映画を見るとき、映っていないところにもたくさん人生があるんだろうなって思えるキャラクターに惹かれますし、そういう演技を目指す俳優でいたいと思っています。

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「#映画エゴイスト」とタグをつけて感想をアップしてほしい、読みますんで

鈴木：俳優としての相性がいいと感じました。食生活のアドバイスを受けるシーンをはじめのほうで撮ったんですが、アドリブでもやり取りがあってなんだかかわいらしいなって思ったんです。すごくピュアというか。嘘のないまっすぐなお芝居をされる方なので、僕もまっすぐぶつかっていけて、お芝居だけじゃなく、内面もまっすぐでピュアな方だと感じました。龍太のピュアさと似ていると思います。

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『エゴイスト』

鈴木：世間のイメージと御本人のイメージに差異がない稀有な方だと思います。

鈴木：龍太とのシーンでは、お酒を飲みながら家族旅行の話をするところです。肉体的な接触があるシーンも情熱的ですが、何気ない日常の幸せな場面がとても思い出深くて。監督が撮影当日にスマホを宮沢くんに渡して、動画撮ってって指示をしていて、そのアイディアは天才的だなあって思っていました。この作品の現場は特殊で半分エチュードのようで、カッチリとセリフが決まっているわけじゃなく、アドリブも多くて役として自然体で居ることが求められていました。このシーンは浩輔のなかでちょっとした心の傷になっていることを笑いながら話していて、龍太がそれを動画で撮っているんですよね。実際には高山さんは写真やビデオは絶対拒否する方だったらしいんですけど、龍太だけには許していたらいいなって思うんです。

『エゴイスト』の撮影風景

鈴木：いえ、原作ものを演じるというのはむちゃくちゃ難しいです。それぞれの人の中でキャラクターのイメージがあって、それがファン同士でも違っていて、全員の理想を成立させるのは不可能です。じゃあ原作を完コピすればいいのかっていうと、実写でそれをやってしまうとモノマネに陥ってしまう可能性が大きくて、一般の方々はもちろん、ファンでさえ喜ばないものになってしまう。さっきの多面性の話につながってきますが、そのキャラクターを現実の人間としてキチンと存在させなくてはいけないですし、それでいてファンの方が「これが見たかった！」って思えるように完璧に再現するのはほとんど無理ゲーといってもいいレベルなんです。でも、完璧とはいかなくとも、大切なキャラクターをお預かりする以上は、原作を読み込んで、ファンの方、原作者、原作へのリスペクトと愛情を最大限に持って臨まなきゃいけないと思っています。それが自分のポリシーです。

鈴木：うーん、そうですよね。一番見て欲しいところをこちらが提示するというのではなく、逆にこの作品を見てどう感じたかを教えて欲しいです。見る人によって感じ方や感想が違ってくる余白の多い作品だと思うので。見られた方はぜひ、SNSでつぶやいてください。とくに今回の作品は気になるので知りたいです。「#映画エゴイスト」とタグをつけて感想をアップしてくれれば、僕読みますんで。『エゴイスト』だけに“エゴサーチ”します（笑）。

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（text：入江奈々／photo：泉健也）