徳島県出身。2014年に映画『渇き。』でデビュー。その後もTVCM、MV、ドラマなどに多数出演。2019年に大河ドラマ「いだてん ~東京オリムピック噺~」に出演し、2020年には映画『眠る虫』で初主演を務め、MOOSIC LAB2019長編部門グランプリを獲得。2021年には映画『となりの井戸』LIKE YOUで主演を務める。2023年には現在公開中の映画『赦し』に出演しており、今年公開予定の映画、MVなどの待機作を複数控えている。
加害者・夏奈が抱える負の感情は、学生時代の私も持っていた
高校生だった娘がクラスメートに殺害された元夫婦と、犯行時に17歳だった加害者の女性。7年の時を経て、懲役20年で服役中の加害者・福田夏奈に再審の機会が与えられ、愛娘を亡くした深い悲しみの果てに別離した樋口克と元妻・澄子は再会する。過去への向き合い方ですれ違う被害者の遺族、そして改めて罪と向き合う加害者という三者三様の葛藤を描く『赦し』。
日本でアニメーターとして活躍するインド人のアンシュル・チョウハン監督が、外国人の視点で少年犯罪というテーマに臨む本作で、服役中の福田夏奈役に抜擢されたのは、ミュージックビデオやCM、映画で活躍する新進女優の松浦りょう。自らの罪と過去を負い、迷い苦しみながら生き直そうとする女性を真摯に演じた彼女に話を聞いた。
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松浦:オーディションでした。3回あって、1回目は事前に台本をいただいてセリフを覚えた状態で行きました。ですが、緊張し過ぎてセリフが飛んでしまって(笑)。「台本見てもいいですか」と言ったら、それで大丈夫と言ってくださって一応終えましたが、本当に緊張しすぎて、帰り道に胃が痛くなるくらいでした。
もともとアンシュルさんの作品の大ファンで、絶対出たいという気持ちがあって、過剰に緊張してしまったみたいです。
松浦:そうですね。すごく辛かったです。福田夏奈はこういう人間だというバックボーンも教えていただいたので、台本を読んで、本当に壮絶な人生を歩んできた子だと思いました。私は全然同じ境遇でもないです。ただ、少しだけ彼女に共感できる部分があったので、絶対私が演じたいと思いました。
松浦:彼女が抱える負の感情というものは、私も学生時代に持っていました。彼女ほどすごく大きいエネルギーではありませんが、私もあまり友だちと仲良くできない人間で、すごく浮いていました。だから、少しだけですが、彼女の気持ちが理解できると思っていました。
松浦:この役が決まった時はまず嬉しかったのですが、それ以上に、本当に彼女を演じられるのかどうかわからない不安がありました。それを監督に相談したら、「しっかり役作りさえしてくれれば、絶対に福田夏奈になれるから」と言われました。では自分で何をしたらいいんだろう?と。私は殺人を犯したことも刑務所にいたこともないですし、役作りで経験できることではなかったので、殺人を犯した人のインタビューや記事を徹底的に調べました。どういう感情になったら、人を殺めるという行為をしてしまうのか、役に落とし込んで考えたり、刑務所での生活を、できる限り自分で再現してみました。食事やタイムスケジュールを制限して、電子機器にも触れない。孤独を経験して役を作り上げていった感じですね。
松浦:はい、孤独を知ることが出来ました。孤独を知らない限り彼女を演じてはいけない、という勝手な使命感があったというか、生半可な気持ちで演じては駄目だと思っていたので、修行じゃないですけど、やろうと決めました。そんな生活を、1週間ぐらい試みました。
松浦:すごくありました。彼女が抱える反省の気持ちや、それだけではなく、形がわからないけど、何かに追われるような苦しみがあったと思うんです。それは多分、言葉にもできないことだと思うし。孤独に1人で考える時間、役に向き合う時間でした。
松浦:全部英語でした。私は英語が全く喋れなかったので、プロデューサーの茂木美那さんが通訳してくださいました。
松浦:ありました。最初は監督も、私のことをそこまで信じられていなかったと思います。もちろん私を選んでくれましたが、福田夏奈を演じるのは本当に難しいことだし、監督にとってもすごく責任のあることとわかって役をくれたので、最初のうちは不安だったのか、いろいろ連絡が来ました。「今の君だと健康的すぎる」とか、いろいろご指導いただきました。
松浦:そうですね。体重も落としました。でも、体重よりも監督が言っていたのは「普通の人に見えてしまう」ということでした。刑務所に7年間いると、痩せているというよりも健康に見えてはいけない。幸せに見えてはいけないから、そこを作ってほしいと言われました。もちろん撮影用のメイクのおかげもありますが、それに頼るだけじゃなくて、と言われました。
松浦:そう言っていただけてとても嬉しいです。
「“夏奈が可哀そう”で終わってほしくない」という監督の言葉
松浦:MEGUMIさんとの1対1のシーンはクランクインの日に撮りました。
松浦:そうなんです、リハーサルも一切せずに撮影しました。実はオーディションで演じたのがそのシーンだったんです。だから、自分の中ですごく作り込んで臨んだのですが、監督にその4分の1の長さにしてほしいと言われました。
アンシュルさんは基本的に台本通りに喋らなくていいというタイプの監督です。極端に言えば「台本は読んだら捨てろ」くらいな感じで、「ちゃんと役作りしていれば、絶対間違ったことを言わない。だから、書かれたセリフ通りに言わなくていい」という考えなので。そこで私は最初、結構な時間かけて喋ったんです。それを4分の1に、といきなり言われて。「どうしたらいいんだろう」と思いながら、セリフは必要な部分だけにして、ちょっと間を詰めたりして、どうにか乗り越えました。その日は「テンパった」という記憶しかありません(笑)。本当に演じることで精一杯で、MEGUMIさんとどんなお話したかも覚えていないくらいです。
松浦:あのシーンでは監督に「夏奈には意志を持っていてほしい。相手にのめり込まないように」と言われました。その演出を言われていなければ、多分、夏奈が自分を責めるシーンになっていたと思います。(監督には)「自分を責めるシーンにはしないでほしい」「“夏奈が可哀そう”で終わってほしくないから、ちゃんと自分の意思を持って向き合ってくれ」と言われたんです。その言葉があったから、私も負けずに演じられたと思います。
松浦:それは本当に今回の作品のテーマだと思います。
松浦:私は撮影中、一切他の人と会話していなかったんです。コミュニケーションを取らないように言われて、楽屋でも1人でしたし、法廷のシーンも一切誰とも喋ってなかったので、現場の雰囲気も、ちょっと覚えていないくらい、自分の世界に入って、あえてオンオフを作らないでやっていました。一度オフになって、次にオンになれなかったら怖いなと思って。現場以外でも基本はやっぱり福田夏奈でいることを最優先して、監督からもらった夏奈のイメージの音楽、私が夏奈に合うと思う音楽を聞くくらいでした。
松浦:その当時所属していた事務所の社長に、モデルは向いていないと思うから、もう辞めようと思うと話したのがきっかけです。今はモデルのお仕事も大好きですが、当時はスカウトがきっかけだったので、モデルを自分の意思で始めたわけではないことだったのと、自分に対してすごいコンプレックスがあったんです。モデルとしては身長も低く、スタイルも良くない。やはり容姿で戦う仕事なので、モデルをもう辞めようと思っていると話をした時に、じゃあ1回俳優をやってみたら、と言われて『渇き。』のオーディションを受けたんです。
松浦:私も、中島監督が怖いというエピソードを聞いていたので、ビクビクしながら現場に行きました。でも、私の出演シーンは基本的に全然そんな感じじゃなくて、「のびのびやって。いつも通りの君で」と言われて。4人くらいの仲間で一緒にいるシーンがあったのですが、楽しくて。「好きなようにやっちゃって!」みたいな感じで言ってくださって、怖さは一切なくって。それはある意味良かったと思いますし、結局自分発信じゃないと何も始まらないことに気づきました。俳優の仕事は、自分が演じるということに対して前向きにならないと、カットされてしまう可能性もある。そういう臨場感、スリルみたいなものがすごく刺激的で、初めてのことだったので、「楽しかったな。やりがいあるな」という印象から始まりました。
松浦:どんどん楽しくなってきています。
松浦:すごく刺激を受けました。10月前半から15日ぐらいまで行って、帰国してから2ヵ月くらいの間に映画を80本ぐらい見ました(笑)。
松浦:やっぱり映画をやりたいという気持ちがすごくあります。いろんな役をやりたいのはもちろんですが、『赦し』の時のように、本当に自分の人生かけて身を削って演じたいと思う役に出会いたいと思っています。
(text:冨永由紀/photo:泉山美代子)
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