1996年パリ生まれ。俳優だけでなく脚本家としても活動する若手注目株。フランソワ・オゾン監督作『Summer of 85』(21年)でダヴィド役に抜擢され注目を集めた。主な出演作に、『ホテル・ファデットへようこそ』(17年)、『さすらいの人 オスカー・ワイルド』(18年)、『社会から虐げられた女たち』(21年)などがある。今後の待機作に、ディディエ・バルセロ監督の『Enroue libre』がある。
『幻滅』バンジャマン・ヴォワザン インタビュー
ジェラール・ドパルデュー、ジャンヌ・バリバール…名優たちと“ワルツ”踊るような共演の日々
グザヴィエ・ドランとはどういう風に演じるかなどたくさん話しました
19世紀フランスの文壇を代表する文豪のひとり、オノレ・ ド・バルザック。社会を俯瞰し、そのなかで翻弄されるさまざまな人間像を冷徹に描く彼が、44歳で書き上げた「人間喜劇」の一編、「幻滅——メディア戦記」を映画化した本作は、200年も前の物語とは思えないほど、現代と酷似したメディアの状況を鋭利に描いた社会派人間ドラマだ。
メガホンを握ったのは、『偉大なるマルグリット』(15年)『情痴 アヴァンチュール』(05年)等で知られ、バルザックの原作を学生時代から映画化したいと望んでいたグザヴィエ・ジャノリ監督。念願の本作で、フランスのアカデミー賞と言われるセザール賞の作品賞、最優秀助演男優賞(ヴァンサン・ラコスト)、有望新人男優賞(バンジャマン・ヴォワザン)を含む最多7冠を受賞した。
主演のリュシアンを演じるのは、フランソワ・オゾンの『Summer of 85』で大きな注目を浴びたバンジャマン・ヴォワザン。初のコスチューム劇で純粋な青年が野心と欲望に惑わされ堕落していく過程を見事に演じきったヴォワザンが、本作について語った。
・パリでは悪い奴ほど高い席に座る! セザール賞7部門受賞『幻滅』予告編
——本作のキャスティングが決まった時の感想をお聞かせください。
ヴォワザン:この「幻滅」という小説はフランス人だったら、だいたい若い頃に読む小説でとてもなじみのある物語です。僕も高校生の頃に読みましたが、その当時はこの小説を味わえるほどには成熟していませんでした。祖父はこの小説が大好きだったので、孫である僕の主演で映画化されるということになり、涙を浮かべて喜んでくれました。
——バルザック原作で19世紀が舞台と聞いて、現場に入る前に何か特別な準備をしましたか。また、話し方や立ち居振る舞いなどに気をつけた点はありますか。
ヴォワザン:役作りに関しては特に何もしていなくて、リュシアンの衣装を着て現場に入ったらすぐにリュシアンになれたけど、声に関してはどんな声にしようかなと少し考えました。だいたい3日間くらいで役の声は出来上がりましたが、同じ声のトーンで演技をし続けるところに、少し努力が必要でした。役作りについて事前に何か勉強をしたかということについては、事前にパリの美術館に行きました。19世紀のロマン派の絵画がある美術館で、そこでリュシアンと同じ二十歳くらいの少年のポートレートを見つけて、その絵がすごく参考になりました。身体が大人なのだけれど、少し自信がないような目をしていて。そのポートレートを役作りの参考にしました。
——衣装も美術も豪華でリュシアンもパリに行った後、どんどん派手になっていきますが、お気に入りの衣装やシーンはありますか。
ヴォワザン:映画の中で一番気に入っているシーンは、リュシアンが肩に猿を乗っけていたシーンです。なぜかというと、動物は映画の中で誰もコントロールできない一番自然もので、何も作っていないものだから。だから猿が肩に乗っていることで、そのシーンがすごくシンプルに良いものになるんです。
——ジェラール・ドパルデュー、ジャンヌ・バリバールなど大先輩たちとの共演ですが、彼らと比べてキャリアが浅いのにも関わらずスクリーンではひけを取らない力強さを放っていました。大先輩たちとの共演はどんな経験として残りましたか。
ヴォワザン:まず、最初にそう言っていただいてありがとうございます。本当に素晴らしい経験として残っています。フランスの最高の俳優たちに周りを固めていただいて、こんなに素晴らしい経験はないと思います。僕はほぼ毎日撮影現場に入っていて、現場にいない日というのはありませんでした。他の俳優たちはワルツのように出たり入ったりしていて、月曜日がジェラール・ドパルデュー、火曜日はグザヴィエ・ドラン、水曜日はセシル・ド・フランスというように、素晴らしい俳優たちに毎日とっかえひっかえに来ていただいて、まるでワルツを踊っているようでした。彼らの視線の投げ方だったり演技を見たりして学ぶことばかりで、こんなに素晴らしい現場はないと思います。このような作品に出る機会を与えてもらい本当に感謝しています。
——破滅的な結末を迎えるリュシアンですが、共感するところはありますか。
ヴォワザン:リュシアンに共感する部分はたくさんあります。彼の生き方はとても美しいと思います。楽屋でグザヴィエ・ジャノリ監督と、リュシアンが持つピュアな部分や、詩に対する気持ち、本物の情熱をもっているということをよく話していました。現代社会でもパッションをなくしてしまいキラキラした世界に憧れてくる人はたくさんいるのですが、リュシアンは本物の情熱を持っていて、才能もあって、それで片田舎を飛び出してパリにやってくる訳ですが、彼にはそうするだけの才能があったということだと思います。彼には本物の詩の才能がありますし、文学を目指していて中身があった人間です。そういう部分にとても共感しました。私の周りにも、田舎から出てきてパリでもまれた挙句、夢に破れていなくなってしまうという人をたくさん知っていますので、すごく共感できました。
——劇中ではどちらかと言えば対立しているような立場だったグザヴィエ・ドランでしたが撮影前後や撮影中にお互いの役柄や共演シーンについて話すことはありましたか。
ヴォワザン:もちろん、どういう役にするか、どういう風に演じるかなどグザヴィエ・ドランとたくさん話をしました。特にナタンとリュシアンの関係が一番ハッキリしないところだったので、観客にそれがきちんと伝わるように、好き勝手をやってはいけないと思ったのできちんと話し合いました。それから、撮影中にグザヴィエ・ドランは彼が監督する次作のドラマの準備をしていたので、そのスクリプトを読ませてもらったりしていました。
——本作はジャーナリズムを題材として扱っていますが、ご自身もジャーナリズムに興味がありますか? またリュシアンの様に文学に興味があるのでしょうか?
ヴォワザン:ジャーナリズムに関して特に思い入れがあるという訳ではないです。ただ詩に関しては大変興味をもっています。いつでもランボーの詩集を一緒に持ち歩くぐらい詩が好きです。文学で言うならば、フランスの作家ではセリーヌが好きです。また、哲学書が好きで、実際成長できないかも知れませんが、成長しようとする気にさせてくれるので気に入っています。
・[動画]バルザック原作、虚飾と快楽にまみれた世界/映画『幻滅』予告編
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