1986年東京都生まれ、東京出身。映画『美しい夏キリシマ』(03年)で主演デビューし、映画、ドラマ、舞台でも活躍。2018年『きみの鳥はうたえる』、『素敵なダイナマイトスキャンダル』、『ポルトの恋人たち -時の記憶-』でキネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、毎日映画コンクール男優主演賞などを受賞。
主な映画出演作に『火口のふたり』(19年)、『アルキメデスの大戦』(19年)、『痛くない死に方』(21年)、『心の傷を癒すということ-劇場版-』(21年)、『殺すな』(22年)、『ハケンアニメ!』(22年)、『シン・仮面ライダー』(23年)など。また監督として『帰郷★プレスリー』(09年)、『夜明け』(『アクターズ・ショート・フィルム』(21年/WOWOW)、『ippo』(23年)などを手がける。2023年は映画『花腐し』が公開待機中(23年冬公開)。2024年NHK大河ドラマ『光る君へ』がある。
「バカみたいな色がいいんですよね」で決まった空色のTバック
動画撮影用にセットしたテーブルにつき、「ニュースキャスターみたいですね」と笑いながら話し始めた柄本佑。最愛の妻を亡くして以来、春画研究に打ち込む春画先生こと芳賀一郎(内野聖陽)と、彼と共に春画の魅力にのめり込むしっかり者の弟子・弓子(北香那)を描く『春画先生』で、柄本は芳賀が執筆する「春画大全」の編集者・辻村俊介を演じている。
・[動画]柄本佑、衣装で空色のTバックを選択、その経緯『春画先生』インタビュー【前編】
・[動画]柄本佑、映画に込められた秘密の「小津オマージュ」明かす『春画先生』インタビュー【後編】
春画を愛してやまない2人を客観視するようでいて、実はそんな2人に魅了され、共に冒険していく辻村の独特の色っぽさはどのように醸し出されたのか。念願だったという塩田明彦監督との仕事について、来年の大河ドラマ出演などについても語ってもらった。
柄本:ありがとうございます。出演を決めた理由というと、やはり塩田監督からお話をいただいたというのが一番大きいですし、それしかないと言っても過言ではないぐらいです。きっと、役者さんをやられている方は皆さんそうでしょうけど、やっぱり塩田組に入ってみたいな、というのが一番の理由です。
柄本:春画というものをテーマにしながら、洒脱で軽くて、かつ過不足のない簡潔さがあって、とても面白い本だなと思ったのを覚えています。
柄本:いや、特にないですね。衣装合わせの時に塩田さんから「辻村はいい加減な色男なので」と言われて、台本を読んだ感じから、確かにその言葉がしっくりくる気がしました。
この物語は登場人物が少ないですよね。1人1人のキャラクターが台本の段階でもう出来上がっているというか、自分で「こういう風に」とか「ああいう風にやろう」と考えるよりは、シチュエーションでそのセリフを僕が言えば、自然と成立する。そういう強固なものが台本の中に落とし込まれていたと思うので、身を任せて頑張ってセリフを覚えて言っていたという感じです。
柄本:確かに言い回しとか、ちょっと古い感じもありますね。ただ、それを僕は古いとはあんまり思わないんですよね。むしろ、作られたセリフという方がしっくりきます。もっと言えば、「映画のセリフである」という方が僕としてはしっくりくるんです。
そういうセリフって、覚えて喋ると面白いんですよね。何か発見がある。台本を読んで、大きな声でハキハキと言う印象があって、その方向で撮影前の本読みもやったら、監督から「方向性としてはその喋り方でいいと思います」と言っていただきました。
セリフやキャラクターがここまで作り込まれていると、逆にそのセリフさえ言っていれば、あとは何をしてもOKなんじゃないか、という感じです。塩田監督の書かれた台本にはそういう強度があります。セリフに身を任せて、何か発想が生まれればそっちの方向に行ってもいい。なので、現場はとっても楽しかったです。
柄本:それは監督の演出のおかげじゃないですかね。それと先ほど話した明確明瞭にハキハキと喋ることが、辻村という役がやってることと合いまって、変に陰気臭くならずに朗らかな役にもなったような気もしていて。基本的には、台本から立ち上がってくる発想を待って、徐々に具体的になっていきました。
柄本:先生と弓子と鑑定旅行に行く時のサングラスを、「かけませんか?」と提案させてもらいました。一応仕事なんだけど、こいつバカンスのつもりで来てんじゃんねえの?みたいな感じでサングラスをかけている(笑)。あとはパンツの色です(笑)。衣装合わせでは黒とか白だったんです。形はもともとああいうTバックを準備されていました。衣装合わせが終わった後に「なんかもうちょっとバカみたいな色がいいんですよね」と話をして、その時、天気が良かったんで、「こういう空の色みたいなやつとかありますか?」と言って、探してもらいました。黒や白だとちょっと真面目になっちゃう。辻村という役はそこにも遊びがあるというか。監督も「それが良いと思います」と言ってくださって、そういう細かいディティールも影響してるのかな、と思っています。
柄本:難しいですよね。インティマシー・コーディネーターの方が入って、今回の場合だと北香那さんにちゃんと話を聞いて意見をもらったり、撮影は少人数で行うということなど、いろいろあります。実際に触れていくのは僕なので、相手である北さんには気を遣ってあげられるように、と思っています。僕が撮影現場で直接一番近くにいるので、細かく感じていることであったり、そういったことを思いやってあげられたらいいなと思ったりするかな。
それでもやっぱり現場が始まってしまうと、演じる方はどこか夢中になっていくものなんです。だから、インティマシー・コーディネーターの方が入ってくださると、そういう忘れがちなところを思い出させてくれるので、非常にありがたい存在だなと思います。
塩田明彦監督の演技力の高さにびっくり!
柄本:いや〜、楽しかったですね。塩田監督は僕が抱いていた印象とまたちょっと違っていました。作品の印象から、繊細な方なのかと勝手に思ってたんですけど、現場に入ると全然違って……いや全然違うってこともない、繊細は繊細なんだけど。大胆で前向きな監督の男らしさみたいなものが現場にあって、そのギャップが非常に意外でした。監督がどっしりと前に突き進んで、常に役者の背中を押してくれるような演出でした。それから、今話していて思ったんですが、もしかしたら監督は作品によって出立ちみたいなもの、雰囲気が常に変わるのかな、と。そんな感じも若干しました。
柄本:今作はある種コメディなので、そんなに深刻に繊細に現場にいるというより、わりとあっけらかんと明るく現場を回していらっしゃったように思います。……なんて勝手なことを喋っていながら、そんなに器用な方でもあるのかな、という疑問も今湧いてきてたりするけど(笑)。
柄本:なかったですね。周りには一緒にお仕事されている方が何人もいらっしゃるんですけど、お会いして仕事をするのも初めてですし、衣装合わせや本読みで会うのが初対面だったと思います。塩田先生……(笑)いや、塩田監督って、めちゃくちゃ芝居うまいんですよ。
柄本:そう! 俺、びっくりして(笑)。本読みの時に、内野さんもいろいろ質問されたりして、それに答えながら「こういうふうな感じなんです」と塩田さんが軽くやってみせたんです。「こんな雰囲気なんですけどね」とやってみせたのが、すっごく上手くて。「うわ、めちゃくちゃ上手いな!」と思って、後日、『さよならくちびる』とかの撮影監督の四宮(秀俊)さんに会った時にその話をして、「塩田さん、芝居うまくないですか?」と言ったら、「そうなんだよ。軽くこうやってみせる芝居がめちゃくちゃ上手いんだよ」という話で大盛り上がりしました。
柄本:そう(笑)。思わず塩田先生って言っちゃったけど、お芝居が非常にうまいです。
柄本:あのシーンでは、僕は手を置いて芝居が始まってるんです。「ある時点まではここに手を置いたまま、セリフを喋っていただきたい」と言われまして。段取りをやって、セッティング中に監督が近寄ってきて、「ちょっと佑くんには言っておこうと思って」と言って、この作品ではいろいろな監督の作品の引用みたいなことをちょっとやってみたいところもあると話してくれたんです。そして「実はここは小津なんです」と。「ここまで手をこういう風に置いていただきたいというのは、そういう理由があったんです。佑くんには一応言っておこうと思って」と言ってくださった。僕は「大丈夫です。置いておけと言われば置きますから、全然大丈夫ですよ」と話したのを覚えてます。だからまさにそういう狙いがあったと思います。
柄本:そうなんですか(笑)? 今のところ台本もそうですけど、道長さんという人は、時の権力者であり、あんな歌(この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば)を残していたりするので、どこか悪という風な見方をされていますが、実は三男坊で意外にのんびり屋で、一番弟気質だったみたいです。でも父親が亡くなって兄貴たちが早死にしちゃって、そんな気もないのに政の世界に上がらされちゃった人物でもある。のんびり、あっけらかんとしているようなところは、ある種辻村さんの性格と通ずるものは、なくはないかもしれないです。
柄本:いやいや(笑)、なぜだか、続きますね。でも、とにかく僕1人でやってることではないので。チームとして道長像を正確に立ち上げられればいいかな、と思っています。
・[動画]内野聖陽、北香那に偏愛する春画を吐息を漏らし手ほどき/映画『春画先生』本編映像
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
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