『大きな家』⿑藤⼯&竹林亮監督インタビュー

児童養護施設のリアルな日常 ⿑藤⼯プロデュースの話題作

#ドキュメンタリー#大きな家#斎藤工#竹林亮

⿑藤⼯&竹林亮監督

自分の存在が“ノイズ”にならないように意識(齊藤)

俳優や監督としてだけでなく、プロデューサーとしてもさまざまな作品に携わり、いまや日本映画界において欠かせない存在となっている⿑藤⼯。新たに企画・プロデュースを手掛けた『大きな家』では、4年ほど前から自身が通い始めたとある児童養護施設で暮らす子どもたちの葛藤と成長をリアルに映し出している。

大きな家

『大きな家』
2024年12月20日より全国順次公開
12月6日より東京・ホワイトシネクイント、大阪・TOHO シネマズ梅田、名古屋・センチュリーシネマにて先行公開
(C)CHOCOLATE

監督としてタッグを組んだのは、『14歳の栞』(21)や『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(22)で注目を集めている竹林亮監督。青春リアリティ映画である『14歳の栞』は、1館スタートから45都市にまで拡大するヒットを記録し話題を呼んだ。旧知の仲でもある2人が、1年半に渡る長期撮影の裏側や自身の活動にかける思い、そして配信やパッケージ化をせずに劇場のみでの上映に決めた理由などについて語る。

[動画]齊藤工 (斎藤工)、あえて“透明な存在”に『大きな家』インタビュー/前編

[動画]齊藤工×竹林亮監督が語る製作秘話『大きな家』インタビュー/後編

──今回は齊藤さんからの提案で始まった企画ということですが、映画にしたいと思ったきかけをお聞かせください。ご自身で監督するという選択肢はありませんでしたか?

⿑藤:もともと映画にするというゴールを掲げていたわけではないので、始まりはとても漠然としていたと思います。最初は自分でカメラを回そうとしたこともありましたが、「なぜ子どもたちや職員の方々を撮るのか」という明確な理由が僕自身のなかで浮かばず、悶々としていた時期もありました。
そんななかで出会ったのが、『14歳の栞』。「被写体の子どもたちを守るために協力してほしい」と事前に伝え、配信もパッケージ化もせずに劇場だけで上映していることを知り、彼なら、“子どもたちを撮る意味”にたどりついてくださるのではないかなと考えました。

──そこからご自身はプロデューサーとして、どのような関わり方をされたのでしょうか。
『大きな家』

『大きな家』撮影中の様子

齊藤:以前からご縁のあった施設なので、子どもたちと竹林さんのチームをつなぐブリッジとして作品がどう展開していくのかを説明するのがまず僕の役割でした。そのあとはなるべく遠くから見守るだけにして、いかに自分が“透明な存在”になれるかを意識しています。
子どもたち全員が僕のことを俳優として認知しているわけではありませんが、作品の特性として僕の存在自体が“ノイズ”になる可能性があると強く感じていたので、関わりすぎないほうがいいなと。そういった観点から、撮影中はみんなとはほぼ会わずに、監督にお任せしました。

──作品からは被写体に対する愛情の深さも感じましたが、子どもたちとどのように関係性を築き、リアルな言葉や表情を引き出したのかをお聞かせください。
⿑藤⼯&竹林亮監督

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監督:いきなり行くとみんなの居心地が悪くなってしまうので、まずは一緒にご飯を食べたり、短い時間でも会いに行ったりということを繰り返して慣れてもらうようにしました。言葉やシーンに関しても、こちらが欲しいものを追いかけないようにすることに気を付けていました。撮影クルーにも、できるだけ引いた感じでゆるく構えてもらいました。特にテクニックはないですが、嫌われたくないという思いが一番大きかったように思います(笑)。

──そんななか、監督にとってプロデューサーの齊藤さんはどんな存在でしたか?

監督:齊藤さんとは定期的に話し合いをし、作品の視点についてつねにインプットをしていただきました。そのなかで「ドラマを求めて追いかけていく」のではなく、「日常の声に耳を傾けたい」という気持ちが強くなっていったと思います。
あとは、子どもたちや職員のみなさんも齊藤さんの眼差しを間接的に感じているので、得体の知れない僕たちが行っても「これはしっかりとした映画なんだ」という安心感を与えることができました。実際、疑問もときおり生まれていたようですが、そういうときには齊藤さんが時間を取ってみんなに話をし、関係を保ってくださったので、齊藤さんの存在は本当に大きかったです。

──最初に話されていた齊藤さんにしかできない役割というのが、まさにこういう部分につながっているんですね。

監督:ただ、齊藤さんが施設にいらっしゃる日はみんなが喜んで華やかな雰囲気になるというか、非日常的な空間になってしまうので、日常を撮りたい齊藤さんからするとそれはジレンマだったのではないかなと……。その様子を目の前で見ていて、やっぱり齊藤さんのオーラはすごいなと思いました。

齊藤:(笑)。

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若い人たちを映画館に呼べる導線を作りたい(竹林)

──では、齊藤さんからご覧になった竹林監督の魅力についても、教えてください。

齊藤:僕自身、被写体として作品に出ている人間として感じているのは、ときにカメラは暴力的にもなりえるということです。ただ、竹林さんはそうならないように、子どもたちや職員の方々1人1人ときちんと関係性を築いたうえで呼吸をするようにカメラを回しています。そのおかげで子どもたちもカメラが非日常であることを理解したうえで、自分たちの要望を竹林さんに投げかけていくように変わっていきました。そんなふうに、彼らのなかに生まれた変化というのは、竹林さんのチームがもたらしたものだと思っています。

──実際、この撮影を経験したことで子どもたちにどのような影響を与えたと感じていますか?

齊藤:撮影が終わって驚いたのは、子どもたちの数名が映像業界に興味を持ち始めたと聞いたことです。俳優志望の子が僕の撮影現場に見学で来たこともありますが、働く大人たちに近くで触れたことによって、彼らにとっては職業体験のようになっていたのだなと感じました。たとえ映像業界を目指さなくても、自分の未来に対する選択肢が増えていたらいいなと。
あとは、心を許せる大人というのは、そんなにたくさん出会えるものではないので、映画を作るという目的以上に、光のような存在である竹林さんのチームとの出会いが彼らにはすごく大きくなっているのだと思います。

──これほどまでの信頼関係があったからこそ、あれだけの映像が撮れたのだと改めて感じました。

齊藤:先日、監督と一緒に行ったイベントにも出演者の子どもたちが何人か来てくれましたが、「これから監督と一緒にステーキ食べに行くんだ」と話している様子を見て、『大きな家』の続編を見ているような気分になりました。
“被写体ファースト”と謳ってきましたが、撮影した僕たちにとっても、この物語は完パケして終わりではない。そこに関わった人たちがお互いに足し算や掛け算をしていく様子を見て、「映画作りってこうだったな」というのを実感しています。

──個人のプライバシーに踏み込まないと撮れない題材に向き合いつつ、同時にプライバシーを守るというのは非常に難しいことだと思います。今回も『14 歳の栞』と同様に配信やパッケージ化はせずに劇場公開のみに決めたそうですが、前回で手ごたえを感じる部分も大きかったのでしょうか。

監督:商業的に考えたら、劇場だけでの公開自体はなかなか厳しいことだと理解しています。ただ、『14 歳の栞』では、多くの観客の方々が協力者のように映画を応援し、映画館にもたくさん足を運んでくださったので、それが一つの実績となって本作もこういう形で上映できることになりました。そういう意味では、つながっているところはあると感じています。

──いい作品が正当な評価を得て、きちんと収益も得られるというのが理想ではあると思いますが、一方でそれがなかなかうまくいかない部分もあると感じていらっしゃるのではいかなと。

監督:確かに、それは時間がかかるものだと思っていますし、相当寛容な出資者がいないと難しいところですね……。
映画館でしか流れない映画を見るために、若い人たちが映画館に来てくれるようになる導線ができたら、それは映画にとっての“光”になると思っています。

──齊藤さんは「この作品を作るためにずっと映画に関わってきたのかもしれない」ともコメントされていますが、『大きな家』がご自身にもたらしたものとは何ですか?

齊藤:見て見ぬふりをして、きちんと見つめてこなかった場所の本質を切り取るというのは、映画における1つの責務だと僕は考えています。映画の歴史を振り返ると、エンタメに振った作品の美しさもありますが、遠くて見えないものを映し出した物語に共鳴するような体験を幼少期から映画館でたくさんしてきました。
今回の児童養護施設も存在は知ってはいるけれど、どういう状況なのかを1歩踏み込んで知るきっかけはあまりないと感じています。以前の僕自身がそうでしたから。ただ、竹林さんがおっしゃるように、僕たちが見たいものを搾取しに行くのではなく、被写体である彼らにとって“お守り”になるような作品にすることが映画の役割。そういう意味で、僕が観客として見てきた映画も、自分が携わってきた映画も全部この作品につながっているような気がしています。

──齊藤さんは撮影現場に保育所を設けたり、移動映画館「cinéma bird」によるイベントを被災地で開催したりと、社会的な活動にも積極的に取り組まれています。本作もそこに通じる作品となりますが、どのような思いからこのような活動を続けているのでしょうか。

齊藤:まず1つは、どの活動も自分単体で動かしているというよりも、同じ方向を目指してくれる仲間や師匠のような人の存在があってこそです。今回も竹林さんがいて、『14 歳の栞』で「いまの時代だから映画館がシェルターになるんだ」という革命的なひな形を作ってくれたおかげだと思っています。
あとは、演じるわけでも監督をするわけでもなく、その作品にふさわしい自分の活かし方を探しながら日々生きているだけ。「社会活動をしたい」というきれいな響きよりも、自分のためにすることには限界があると30代後半で気が付いてから、自分の存在意義を考えるようになったのがきっかけだと思います。自分を正しく活かすことによって、人にプラスの要素を生み出せるのであれば、自分がしていることも間違いではないのかなと。自分の活かしどころを探しているなかで、こういう形になったというのが正直な話です。

(text:志村昌美/photo:相馬太郎)
(ヘアメイク:Shuji Akatsuka/スタイリスト:Yohei “yoppy” Yoshida
セットアップ・スニーカーY’s for menシャツYohji Yamamoto

斎藤工
斎藤工
さいとう・たくみ

2001年俳優デビュー。『昼顔』、『シン・ウルトラマン』など数々のドラマや映画で主演を務め、現在配信中のNetflix『極悪女王』やTBS日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』など話題作に出演中。俳優業と並行して(俳優業では「斎」、制作では「齊」の字を使用)映像制作にも積極的に携わり、初⻑編監督作『blank13』で国内外の映画祭で8冠を獲得。劇場体験が難しい被災地や途上国の子供たちに映画を届ける移動映画館「cinéma bird」の主宰や全国のミニシアターを俳優主導で支援するプラットフォーム「Mini Theater Park」を立ち上げるなど、幅広く活動している。

竹林亮
竹林亮
たけばやし・りょう

CM監督としてキャリアをスタートし、JICAの国際協力映像プロジェクトや様々なドキュメンタリー番組を手掛け、同時にMV、リモート演劇、映画等、活動範囲は多岐にわたる。
2021年3月に公開した⻘春リアリティ映画『14歳の栞』は1館からのスタートだったが、SNSで話題となり45都市まで拡大した。監督・共同脚本を務めた⻑編映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(22)は、第32回日本映画批評家大賞にて新人監督賞・編集賞を受賞。同作はシッチェスカタロニア国際映画祭ニュービジョンズ部門にノミネート、ヴヴェイ・ファニー国際映画祭でグランプリを受賞するなど、国際的な評価を得ている。