2001年俳優デビュー。『昼顔』、『シン・ウルトラマン』など数々のドラマや映画で主演を務め、現在配信中のNetflix『極悪女王』やTBS日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』など話題作に出演中。俳優業と並行して(俳優業では「斎」、制作では「齊」の字を使用)映像制作にも積極的に携わり、初⻑編監督作『blank13』で国内外の映画祭で8冠を獲得。劇場体験が難しい被災地や途上国の子供たちに映画を届ける移動映画館「cinéma bird」の主宰や全国のミニシアターを俳優主導で支援するプラットフォーム「Mini Theater Park」を立ち上げるなど、幅広く活動している。
自分の存在が“ノイズ”にならないように意識(齊藤)
俳優や監督としてだけでなく、プロデューサーとしてもさまざまな作品に携わり、いまや日本映画界において欠かせない存在となっている⿑藤⼯。新たに企画・プロデュースを手掛けた『大きな家』では、4年ほど前から自身が通い始めたとある児童養護施設で暮らす子どもたちの葛藤と成長をリアルに映し出している。
監督としてタッグを組んだのは、『14歳の栞』(21)や『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(22)で注目を集めている竹林亮監督。青春リアリティ映画である『14歳の栞』は、1館スタートから45都市にまで拡大するヒットを記録し話題を呼んだ。旧知の仲でもある2人が、1年半に渡る長期撮影の裏側や自身の活動にかける思い、そして配信やパッケージ化をせずに劇場のみでの上映に決めた理由などについて語る。
・[動画]齊藤工 (斎藤工)、あえて“透明な存在”に『大きな家』インタビュー/前編
・[動画]齊藤工×竹林亮監督が語る製作秘話『大きな家』インタビュー/後編
⿑藤:もともと映画にするというゴールを掲げていたわけではないので、始まりはとても漠然としていたと思います。最初は自分でカメラを回そうとしたこともありましたが、「なぜ子どもたちや職員の方々を撮るのか」という明確な理由が僕自身のなかで浮かばず、悶々としていた時期もありました。
そんななかで出会ったのが、『14歳の栞』。「被写体の子どもたちを守るために協力してほしい」と事前に伝え、配信もパッケージ化もせずに劇場だけで上映していることを知り、彼なら、“子どもたちを撮る意味”にたどりついてくださるのではないかなと考えました。
齊藤:以前からご縁のあった施設なので、子どもたちと竹林さんのチームをつなぐブリッジとして作品がどう展開していくのかを説明するのがまず僕の役割でした。そのあとはなるべく遠くから見守るだけにして、いかに自分が“透明な存在”になれるかを意識しています。
子どもたち全員が僕のことを俳優として認知しているわけではありませんが、作品の特性として僕の存在自体が“ノイズ”になる可能性があると強く感じていたので、関わりすぎないほうがいいなと。そういった観点から、撮影中はみんなとはほぼ会わずに、監督にお任せしました。
監督:いきなり行くとみんなの居心地が悪くなってしまうので、まずは一緒にご飯を食べたり、短い時間でも会いに行ったりということを繰り返して慣れてもらうようにしました。言葉やシーンに関しても、こちらが欲しいものを追いかけないようにすることに気を付けていました。撮影クルーにも、できるだけ引いた感じでゆるく構えてもらいました。特にテクニックはないですが、嫌われたくないという思いが一番大きかったように思います(笑)。
監督:齊藤さんとは定期的に話し合いをし、作品の視点についてつねにインプットをしていただきました。そのなかで「ドラマを求めて追いかけていく」のではなく、「日常の声に耳を傾けたい」という気持ちが強くなっていったと思います。
あとは、子どもたちや職員のみなさんも齊藤さんの眼差しを間接的に感じているので、得体の知れない僕たちが行っても「これはしっかりとした映画なんだ」という安心感を与えることができました。実際、疑問もときおり生まれていたようですが、そういうときには齊藤さんが時間を取ってみんなに話をし、関係を保ってくださったので、齊藤さんの存在は本当に大きかったです。
監督:ただ、齊藤さんが施設にいらっしゃる日はみんなが喜んで華やかな雰囲気になるというか、非日常的な空間になってしまうので、日常を撮りたい齊藤さんからするとそれはジレンマだったのではないかなと……。その様子を目の前で見ていて、やっぱり齊藤さんのオーラはすごいなと思いました。
齊藤:(笑)。
若い人たちを映画館に呼べる導線を作りたい(竹林)
齊藤:僕自身、被写体として作品に出ている人間として感じているのは、ときにカメラは暴力的にもなりえるということです。ただ、竹林さんはそうならないように、子どもたちや職員の方々1人1人ときちんと関係性を築いたうえで呼吸をするようにカメラを回しています。そのおかげで子どもたちもカメラが非日常であることを理解したうえで、自分たちの要望を竹林さんに投げかけていくように変わっていきました。そんなふうに、彼らのなかに生まれた変化というのは、竹林さんのチームがもたらしたものだと思っています。
齊藤:撮影が終わって驚いたのは、子どもたちの数名が映像業界に興味を持ち始めたと聞いたことです。俳優志望の子が僕の撮影現場に見学で来たこともありますが、働く大人たちに近くで触れたことによって、彼らにとっては職業体験のようになっていたのだなと感じました。たとえ映像業界を目指さなくても、自分の未来に対する選択肢が増えていたらいいなと。
あとは、心を許せる大人というのは、そんなにたくさん出会えるものではないので、映画を作るという目的以上に、光のような存在である竹林さんのチームとの出会いが彼らにはすごく大きくなっているのだと思います。
齊藤:先日、監督と一緒に行ったイベントにも出演者の子どもたちが何人か来てくれましたが、「これから監督と一緒にステーキ食べに行くんだ」と話している様子を見て、『大きな家』の続編を見ているような気分になりました。
“被写体ファースト”と謳ってきましたが、撮影した僕たちにとっても、この物語は完パケして終わりではない。そこに関わった人たちがお互いに足し算や掛け算をしていく様子を見て、「映画作りってこうだったな」というのを実感しています。
監督:商業的に考えたら、劇場だけでの公開自体はなかなか厳しいことだと理解しています。ただ、『14 歳の栞』では、多くの観客の方々が協力者のように映画を応援し、映画館にもたくさん足を運んでくださったので、それが一つの実績となって本作もこういう形で上映できることになりました。そういう意味では、つながっているところはあると感じています。
監督:確かに、それは時間がかかるものだと思っていますし、相当寛容な出資者がいないと難しいところですね……。
映画館でしか流れない映画を見るために、若い人たちが映画館に来てくれるようになる導線ができたら、それは映画にとっての“光”になると思っています。
齊藤:見て見ぬふりをして、きちんと見つめてこなかった場所の本質を切り取るというのは、映画における1つの責務だと僕は考えています。映画の歴史を振り返ると、エンタメに振った作品の美しさもありますが、遠くて見えないものを映し出した物語に共鳴するような体験を幼少期から映画館でたくさんしてきました。
今回の児童養護施設も存在は知ってはいるけれど、どういう状況なのかを1歩踏み込んで知るきっかけはあまりないと感じています。以前の僕自身がそうでしたから。ただ、竹林さんがおっしゃるように、僕たちが見たいものを搾取しに行くのではなく、被写体である彼らにとって“お守り”になるような作品にすることが映画の役割。そういう意味で、僕が観客として見てきた映画も、自分が携わってきた映画も全部この作品につながっているような気がしています。
齊藤:まず1つは、どの活動も自分単体で動かしているというよりも、同じ方向を目指してくれる仲間や師匠のような人の存在があってこそです。今回も竹林さんがいて、『14 歳の栞』で「いまの時代だから映画館がシェルターになるんだ」という革命的なひな形を作ってくれたおかげだと思っています。
あとは、演じるわけでも監督をするわけでもなく、その作品にふさわしい自分の活かし方を探しながら日々生きているだけ。「社会活動をしたい」というきれいな響きよりも、自分のためにすることには限界があると30代後半で気が付いてから、自分の存在意義を考えるようになったのがきっかけだと思います。自分を正しく活かすことによって、人にプラスの要素を生み出せるのであれば、自分がしていることも間違いではないのかなと。自分の活かしどころを探しているなかで、こういう形になったというのが正直な話です。
(text:志村昌美/photo:相馬太郎)
(ヘアメイク:Shuji Akatsuka/スタイリスト:Yohei “yoppy” Yoshida)
(セットアップ・スニーカー:Y’s for men/シャツ:Yohji Yamamoto)
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