『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』入江悠監督インタビュー

これでシリーズ最終章!? 『SR サイタマノラッパー』シリーズ入江悠監督が最新作に込めた思い語る

#入江悠

シーンに入って行くしんどさを描きたかった。それはヒップホップだけに限らず

異例のヒットとなった青春ヒップホップムービー『SR サイタマノラッパー』。インディーズ映画界に大旋風を巻き起こした同作の舞台は、タイトルのとおり埼玉。そして続編となる第2弾『SR サイタマノラッパー2〜女子ラッパー☆傷だらけのライム〜』では舞台を群馬に移し、今回第3弾は栃木を舞台に『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』で「北関東3部作」のフィナーレを迎えた。

今回の主人公は『サイタマノラッパー』にも登場したマイティ(埼玉のヒップホップグループ「SHO-GUNG」の一員)で、同メンバーのIKKU、TOMをはじめ、『ムカデ人間』の北村昭博、ベテラン女優の美保純など豪華な顔ぶれを揃え、シリーズ初となるライブシーンや大掛かりなフェスティバルシーンなどに挑戦した。

そんな入江悠監督に、今回舞台になる栃木について、3作つくり続けたシリーズへの思いや撮影の苦労、そして今後のさらなる構想などを語ってもらった。

──まず今回は「SHO-GUNG」第3の男マイティが主演ですが、1作目の『SR サイタマノラッパー』でフェイドアウトしながらもインパクトを残した彼を最大限に生かしました。このキャラクターをここまで膨らませるに当たってどのような掘り下げ方を?

入江:埼玉の「SHO-GUNG」というキャラクターを、埼玉に残った側と東京に行った側で対比したいなと思いました。それで、(東京に)行った側としてマイティをピックアップしました。ヒップホップのシーンに入って行くしんどさを描きたかったというか、それはヒップホップだけに限らずですが。

──それは東京でやっていくというしんどさですか?

入江:そうですね、僕の場合は映画なんですけど、いわゆるメジャー的な物を思考するしんどさみたいなことを考えてました。

前2作に引き続き登場の「SHO-GUNG」のMC IKKU(左、駒木根隆介)とMC TOM(右、水澤紳吾) (C) 2012「SR3」製作委員会

──その辺りは監督ご自身の経験と重なるんでしょうか?

入江:そうですね、自分のやってることが人に届くのかとか、見てもらえるか聞いてもらえるかって思ったりするのは音楽とか映画に限らずいろんな表現とか仕事に携わっている人に共通することだと思うので。みんなどこかしら歯がゆさとかを抱えていると思いますね。

──映画のなかでも、マイティは歯がゆい思いをしながら、上に虐められながらも、なんとか食らいついて行きます。

入江:普通の人はだいたい折り合いつけて少し妥協して、少し自分の大事な物を譲ったりしてやっていくと思うんですけど、このマイティという主人公の場合はそこが不器用だと思います。

美保純さんにダメ元でオファーしたら脚本を気に入ってくれて「やります」と言って下さった
──今回もう一つの特徴として、栃木が舞台となっています。同じ北関東といえば茨城もありましたが、なぜ栃木を選ばれましたか?

入江:埼玉って海がないっていうのが一つの閉塞感の象徴だったので、海がない3県ということで群馬、栃木と。まぁ、自分の親父の地元が栃木だったのでよく栃木に行ってたんですよ。

栃木・日光のラップユニット「征夷大将軍」とMC IKKU&MC TOM

──たしかに栃木のシーンに出てくる自動車修理工のコミュニティーに先輩・後輩の強さが出ていて、そこに栃木っぽさがありましたね。

入江:そうですね。僕が小中学生の頃、埼玉よりも栃木の方がヤンキー文化が強く残っていて、暴走族の名残とかも強かったのでなんとなくそこら辺ですね。茨城もそうかもしれないですけど、栃木って自分にとって埼玉、群馬の次に馴染みがある県ですね。方言も含めてね。

──今回いろいろあるなかで、マイティの彼女が福島の実家に戻るという話がありましたが、これは震災とは関係なしに栃木に近い県としての福島ですね。

入江:はい、元々(2人は)東京で出会っているんですけど、福島から出てきて東京で生活している女の子っていう設定だったので、その後震災が起きて、福島って別の意味を持ちだしたんですけど、最初に考えた設定を変えたくないと思って。

──女性キャストでは、ほかにスナックのママ役に美保純さんが出演されています。その経緯は?

入江:マイティたちの上の世代の人ということで、説得力がある人に出演していただきたいなと思っているとき、キャリアがあり、この世界観を理解してくれるであろう美保純さんにダメ元でオファーしました。そしたら脚本を気に入ってくれて「やります」って言って下さったんです。

彼らの人生は続いていくので、カメラを向けたくなったときにはやりたい
──マイティについては第3の男という意味で、かつての東映映画に出てきた川谷拓三とか『不良番長』シリーズの鈴木ヤスシとか、ああいったのが主人公に来る感じがありますよね。

入江:昔から東映のプログラムピクチャーや深作欣二監督の作品が好きでした。そういう昔の手触りのものを作ってみたいというのがあったので。ピラニア軍団とか、そこまで油っぽくはないですけどね。

──それから、往年のアメリカン・ニュー・シネマ、『俺たちに明日はない』みたいな感覚が最後の方にちょっとあったかなと思いましたが。

入江:ああいうの好きなんですよね。『俺たちに明日はない』もそうですし、『ガルシアの首』もそうですし、なんか逃げてはいるんだけど、爽快感もあったりして。

──今回SRシリーズ「北関東3部作」が一応区切りとなりましたが、今後彼らはどうなるのでしょう?

入江悠監督

入江:彼らの人生は続いていくので、カメラを向けたくなったときにはやりたいとは思います。

──例えば1に出てきた(みひろ演じる)小暮の後日談や、「SHO-GUNG」たちの憧れの存在であるTKD先輩の全盛期を描いたエピソード0みたいなものも見てみたいですね。

入江:その辺は小説版「サイタマノラッパー」の方に結構書いたんですけど、確かに自分でも見てみたいですね。

──TKD先輩全盛期の頃には「SHO-GUNG」のメンバーや2作目の主人公である女子ラップグループ「B-Hack」の面々も見ていたわけですから、そこでの空間でのリンクはありますよね。

入江:そうですね。確かにエピソード0的なこともやってみたいですね。

(text&photo=じょ〜い小川)

入江悠
入江悠
いりえ・ゆう

1979年神奈川県横浜市生まれ、埼玉育ち。埼玉県立熊谷高校を卒業後、日本大学藝術学部映画学科に入学、『OBSESSION』と『SEVEN DRIVES』がそれぞれ「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」のオフシアター部門に入選。大学を卒業後、『JAPONICA VIRUS ジャポニカ・ウィルス』(06)にて長編映画監督デビュー。『SR サイタマノラッパー』(09)では「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」のオフシアター・コンペディション部門でグランプリを受賞。動員記録の塗り替えや異例のロングランなど、インディーズ映画界に旋風を巻き起こす。続編の『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライムスター』(10)、『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールが鳴り止まないっ』(11)でも高い評価を得て、2012年4月から放送のTVドラマ『クローバー』(テレビ東京系)の演出も手掛けている。

入江悠
SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者
2012年4月14日より渋谷シネクイントほかにて全国順次公開
[監督]入江悠
[撮影]三村和弘
[音楽]岩崎太整
[ラップ指導]上鈴木伯周、上鈴木タカヒロ
[出演]奥野瑛太、駒木根隆介、水澤紳吾、斉藤めぐみ、北村昭博、永澤俊矢、ガンビーノ小林、美保純、劔樹人、mono(神聖かまってちゃん)、いとうせいこう、有田哲平
[DATA]2012年/日本/SPOTTED PRODUCTIONS/110分
(C) 2012「SR3」製作委員会