1960年熊本県生まれ。78年、映画『翼は心につけて』でデビュー。89年に『嵐が丘』『ダウンタウン・ヒーローズ』『華の乱』、91年に『飛ぶ夢をしばらく見ない』『釣りバカ日誌2』で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞受賞。近年の出演作に映画『サッド ヴァケイション』(07・高崎映画祭最優秀主演女優賞)、 ドラマ『風のガーデン』(08)、舞台『おもいのまま』(10)、『ロマンサー』(12)、『ポテチ』(12)にも出演。
都会の公園で暮らす鈴本さんは、いわゆるホームレスだ。でも、家がないわけではない。木材と段ボールとブルーシートで作った家に住んでいる。生活用品はゴミを再利用、収入源は街に捨てられているアルミ缶、定期的に家を解体して移動しなければならないが、それなりに快適に暮らしている。
そんな実在の人物に迫った建築家であり作家の坂口恭平の記事に触発された堤幸彦監督が、5年の歳月をかけて完成させた映画が『MY HOUSE』だ。『TRICK』シリーズ、『SPEC』シリーズといったエンターテインメント作品で知られる堤監督だが、本作は色も音楽も排除したモノクロ映画。見た人が何を考えるか、それを問う異色作となっている。
主人公の鈴本さんもさることながら、見た人に大きなインパクトを与えるのが、鈴本さんと共に暮らすスミちゃんだ。最低限のものしかない暮らしでも、誰よりも楽しそうに笑う女性。そんなスミちゃん役を演じた石田えりに、役づくりや作品への想いを聞いた。
──出演の経緯を教えてください。また、この作品のなかで、スミちゃんがなぜホームレスになり鈴本さんと一緒にいるのか、といった過去について一切語られていませんが、石田さんはどのように役作りをされたのでしょうか?
石田:出演については堤さんに声をかけていただきました。
役柄によっては、その人物の経歴や幼少時代のこと、過去にこんなトラウマがあって……、などと考えることもありますが、今回はその必要性はあまりないと思って、特に考えませんでした。ひとつ思ったのは、スミちゃんには“人が怖い”という面があって、だからこそ1度誰かを信じるとがっちり信頼するということですね。
石田:それはないですね。キャラクターのがすごく面白かったので、楽しみのほうが大きかったです。ただ、撮影が始まってからのことですが、東急ハンズで買ってきたというハサミを出されたときには、「これはやばいぞ」と思いましたけど。もう、ざんぎり! 髪をバシバシって切られました。スミちゃんは美容院に行きませんからね。カットは一応メイクさんがやってくれましたが、これじゃあ髪の毛が広がっちゃって後で大変なことになるな、と。あとは手をわざと汚したりもしたので、それがちょっとイヤでした(笑)。
石田:ちょうどホテルで待機していたときに地震があって、すごく揺れました。後からテレビのニュースで震源地を知り、それが名古屋から遠く離れた東北だったので驚きました。ただ、すでに撮影はほとんど終わっていて、たしか翌日がクランクアップだったので、演技への影響はあまりなかったです。撮影のときから家は最低限のものでも十分なんだ、という気持ちになっていたので、震災があったことで大きく考えが変わったわけではありませんが、いろいろと考えさせられました。
石田:家を組み立てたりして、実際に楽しかったんですよ。私は以前、多摩川沿いに住んでいたんですけど、川沿いにブッシュというか木が生い茂っているところがあって、あの辺もホームレスの家が多いんです。それで、これはニュースで見たのですが、彼らはそこに畑を作って野菜を育てていたり、プールまであったらしいですよ(注釈:マネージャーさんが「あれはプールではなくて、魚を養殖していたそうですよ」と説明)。私はそれを見て、夢の『MY HOUSE』だと思ったわけ。この映画も似たようなところがあって、彼らは楽しそうにしていますよね。
石田:それはしなかったな(笑)。居ていいよ、といわれたら居たかも知れませんけれど。それくらい居心地はよかったんですよ。
石田:あれはですね、自分が不幸だったり落ち込んでいるときに楽しそうな人を見ると、なんであの人は楽しそうなんだろう、笑っているんだろう、とうらやむ気持ちは誰にでもあるでしょう。でも、ふつうはそう思うだけで、事件を起こすまでにはいかないものですが、撮影の少し前にそのような事件が実際にあったんです。不条理で納得できない部分もありますが、私はそのニュースを知っているので、そういうことをヒントにしながら演じました。堤さんがその事件のことをお考えになったかどうかは確認していないのでわかりませんけれど。
石田:やっぱり基本の生活、炊事、洗濯、掃除をきちんとすること。それでいいんじゃないかな(笑)。あとは、心境としてはこれですよね(『MY HOUSE』のパンフレットを指さしながら)。心配しない、不安に思わない。この精神状態は、かなりキラキラしていますよね。なんかこう、人生はそんなにいい日ばかりじゃないというのはわかっていますけれど、この何もない感じはすごくいいんじゃないんですかね。
石田:そうですね、何にもなくなっても大丈夫なんじゃないかな(笑)。
石田:はい。最終的にはそれですよ。結局、人はいつか死ぬんですから。そのときに残るのは、この状態(仲間や愛情)なんじゃないかと。プライドとか人からどう思われるかという気持ちのほうが勝っていて、冷たくされて、バカにされるくらいなら1人のほうがいいっていう意識が出来上がっている人もいるけど、諦めなければ、分かってくれる人は必ずいるし、出会う。プライドやこだわりは全部捨てちゃえ、裸でいけ、みたいな。今回の作品で、私も勉強になりました。
(text&photo=秋山恵子)
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